これまで富士フイルムのPR誌『写楽祭』は、『写楽祭グラフィック』を含め3回紹介してきました。4回目となる今回紹介するのは、昭和39年(1964年)発行の10号です。富士フイルム創立30周年記念特集号とのことで、『写楽祭』のなかでも本命の一冊とも言えるでしょう。帯には次のように記されています。
1000万人の写真愛好家におくる富士フイルム創立30周年記念のプレゼント!!
この一冊で写真界の動きが、すべてわかるよう、戦後の代表的名作を全部ダイジェストして収録しました…………
具体的には、「日本の写真界が再スタートした1953年以降の過去10年間における、代表的写真家の残した創造的エネルギーの結晶ともいうべき写真集」が取り上げられた特集号となります。
ちなみに、1964年に創立30周年ということは、昨年2024年は創立90周年というわけで、10月にはフジフイルム スクエアで企画展「写楽祭(しゃらくさい)!— 日本の写真集 1950~70年代」が開催され、10号で取り上げられた写真集から15冊が展示されていました。
さて、10号ではどのような写真集が選ばれたのか、目次を見てみましょう。それぞれの写真集が、いつのものなのかわかるように出版年を書き添えてみました(出版年がないのは、エッセイのページです)。
富士 岡田紅陽(34年刊)
木村伊兵衛傑作写真集(29年刊)
伊勢 渡辺義雄(37年刊)
かたち 岩宮武二(37年刊)
裏日本 浜谷浩(32年刊)
hiroshima-nagasaki 東松照明(36年刊)
雪国 島田謹介(37年刊)
日本の海女 中村由信(37年刊)
白サギ 田中徳太郎(36年刊)
歴史のおとし子 影山光洋(33年刊)
古寺巡礼 土門拳(38年刊)
秘境旅行 芳賀日出男(37年刊)
カメラに生きる 大束元(28年刊)
裸のレンズ 秋山庄太郎(36年刊)
私はカモにされた 生出泰一(34年刊)
人喰人種の国 風見武秀(36年刊)
山釣り海釣り 永田一脩(35年刊)
裸写屋 中村立行
横山知先生消滅 緑川洋一
瀬戸内海 緑川洋一(37年刊)
ヌード撮影とその実技 中村立行(30年刊)
ジュガール・ヒマール 風見武秀(34年刊)
世界の音楽家 大竹省二(30年刊)
おんな・おとこ・ヨーロッパ 秋山庄太郎(36年刊)
MAN AND WOMAN 細江英公(36年刊)
ゴルフ 船山克(34年刊)
雪・滑降・回転 横田裕介(36年刊)
ボリショイ劇場 丹野章(33年刊)
ある日ある所 石元泰博(33年刊)
(※制作された時代背景を考慮して当時のままのタイトルを掲載しました)
今日から見ると、有名な歴史的な名作も含まれていますが、当時においては注目すべき新しい写真集を集めた、という感じだったのでしょう。過去10年間とありますが、およそ半分は36年以降のものであり、新しめのものが多い印象です。
「この写真集の定価を総計しますと大枚六万八千六百円也となり、若きサラリーマンの丸三カ月の飲まず食わずの労働力によって得られる数字に匹敵する価格と相成ります」とあるので、物価的には今の十分の一くらいでしょうか。約30冊で平均2000円強くらい、一番安いのが200円、一番高いのが23000円となっています。
価格については、後記でも触れられています。少し長くなりますが、この特集の成り立ちがうかがわれるので、全文引用してみましょう。
まず、この記念すべき特集が、めでたく陽の目をみて、多くの写真愛好家の方々の目にふれることが出来たことに、編集子として深い喜びを感じています。
既にある写真集をダイジェストするだけだから、いわば、料理でいえば、材料はお好み次第、目の前にならべられているのだから、事は簡単。まず今までの写楽祭の中でも、一番はやく出来るだろう、と思ったのが、ソモソモの間違い、難産でした。
しかし生れてみると、さすが当代の実力者カメラマンの作品だけあって、堂々たる貫禄の写真集が出来たと思っています。そうして、こうした企画こそ、わが写楽祭のみ、なし得るものだとも自負しています。
何しろ、七万円近い写真集が、その1/100の価格で入手できるんですから、写楽祭のシャラクサイゆえんでもあり、喜びでもあるわけです。日本の写真界の傾向が、大げさに云えば、この一冊でわかるこの写楽祭。どうぞ大事に、いつまでも机上におかれますよう。
なお写真集の選択、解説に非常な熱意をもって当られた伊藤逸平氏、喜んで原画を提供していただいた写真家の方々、転載に協力して下さった各出版社の方々に誌上より、厚く御礼申上げます。
『写楽祭』10号の価格は60円となっています。現在の物価に換算すると、最近10年間の注目すべき平均20000円強の写真集約30冊が紹介された冊子が600円で販売されている、といった感じでしょうか。現在でも同じコンセプトの冊子があったら写真表現の入り口として、とてもステキなものになる気がします。雑誌で写真集の特集はよくありましたが、やはり『写楽祭』のようなポケットサイズの冊子がいいように思います。もしかしたらZINEなどで、すでにあるのかもしれませんね。
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