top コラム書棚の片隅から13 『FOCUS』1981年12月11日号 7号

書棚の片隅から

13 『FOCUS』1981年12月11日号 7号

2023/02/13
上野修

前回は、写真週刊誌『FOCUS』の創刊号を紹介しました。斎藤勲の『さらば『フォーカス』! : アンカーライターが見た興亡の20年』では、その創刊号について次のように記されています。

 

 その創刊号、アンカーライターとして私が書いた記事は「裸のオープニングセレモニー——後楽園ストリーキングは減点4」、「世界のシェフのお惣菜——舌鼓を打ったり、舌を噛んだりのア・ラ・カルト」、それに「孫を抱く伊藤律——帰国1年〝老革命家〟の日々好日」、「政界三婆揃い踏み——『池田』『佐藤』『大平』元総理夫人の祝杯」といったあたりだと記憶している。ほかに、
 「手入れされた沖縄麻薬コネクション」
 「刑務所から再び浮かぶ——花柳幻舟復帰公演の気炎」
 「突然のノーベル化学賞——しかし意外ではなかった福井謙一教授」
 などがあった。
 『FOCUS』といえば、センセーショナルなスクープ写真というイメージが強いが、意外にソフトな路線だったことがわかる。前に編集部は『FOCUS』班とコラム班に分かれていたことに触れたが、このひとつの『FOCUS』班では「フィリピン売春部隊上陸の現場——月に1500人が入国して『円』を稼ぐ」といった特集を組んでいた。それ以外はほとんどコラムネタで、当初は上質な写真コラム雑誌をひとつの柱として視野に入れていたことがうかがえるのである。
(中略)
 そうやって見ると、少なくとも創刊当初はコラム班をむしろ主軸にしていた気配がある。これは全盛期の『FOCUS』から見れば、意外な事実である。

 

写真をメインにした雑誌なので、撮影者が署名付きで作家として登場している、と前回書きましたが、視点を変えると、それは無署名のコラムとセットとなって、「上質な写真コラム雑誌」を目指した路線でもあったわけです。

 

同書には、創刊号では写真家による4つの連載企画があり、5号(11月27日号)では、早くもそのうち2つがなくなり、代わって倉田精二の「欲望の遠近法」が登場したが、これも4回のみでなくなった、と書かれています。

 

創刊した年は、わずか数カ月しかなかったが、入れ替わりの動きは実にめまぐるしかった。

 

『FOCUS』の7号を見てみると、この急速な変化がうかがわれます。目次を見てしましょう。

 

 

hero 知られざるノーベル賞候補—里帰りした利根川進博士の免疫学
for sale 最高は20万円を越えますが—世界の有名デザイナー6人のファッション・ショー
discover 真珠湾攻撃から40年—〝恋人〟の遺影を胸に旅立った元軍国少女
party 「60年安保」は遠くなりにけり—元全学連闘士たちの「吉原の遊び」
judgement 初大臣の喜色満面—般国民には無機のハラハラドキドキ
open その後のイエスの方舟—クラブ「シオンの娘」開店後の信仰と営業ぶり
challenge 入省25年目の賭—大蔵官僚が「サラ金常務」に転進する時
catch 山口のタヌキ騒動—〝獲ったタヌキの皮算用〟や、いかに?
FOCUS1 82年度大蔵省新入りエリートの骨相—これが現代の秀才の標本箱
event 三千院名残りの紅葉—いまや新しい感性を獲得した日本人の風流心
history 大竹省二の戦後史—〈その7〉講和条約締結の日
health 女は「マキ割り」と「水汲み」が基本—「江戸時代の生活」で難産解消?
erotica 欲望の遠近法—〈その3〉桃色吹雪 倉田精二 ・撮
FOCUS2 オノ・ヨーコの「新しい男」—レノン〝一周忌〟直前の2人だけのお散歩
family なんとなく、モジモジ—岩井流公演で顔をあわせた半四郎・仁科明子
scene 電車とホームにはさまれて30メートル—国電阿佐ヶ谷駅の無惨な事故
figure 鬼の頭にカツラ—収監を覚悟で、鬼頭元判事補の帰国
FOCUS3 「偽バイオリン事件」渦中の芸大教授—よろしくないのは「耳」か「性根」か
outlaw 人を殺して、また働く?—米国宝石商殺しミギタの奇妙な心理
dropout 分身術を使う詐欺女—同時に3人の男の妻になっていた女の怖るべきウソ
doubt ナタリー・ウッドの水死—奇しくも重なった偶然の意味するもの
parody 狂告の時代 7 マッド・アマノ

 

 

創刊号の目次と見比べてみるとわかるように、連載以外での撮影者の名前は記されなくなっています。そして、写真家による連載も2つだけになっています。写真週刊誌で写真家が新しいドキュメントを展開するというビジョンは、短い夢だったといえるでしょう。いや、そうしたビジョンは、写真表現から捉えたときのみ浮かび上がってくるものであって、そもそも同床異夢だったのかもしれません。『さらば『フォーカス』』は、そうした観点から読んでみても、とても興味深い一冊です。

 

さて、前回同様、今回も掲載されている広告に注目してみましょう。酒、旅とともに、音声多重テレビ、ビデオテープ、レーザーディスクといったラインナップで、映像の新時代が到来していたことがうかがわれます。写真週刊誌のブームの時代は、そんな時代でもあったわけです。

 


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