top コラム書棚の片隅から20 土門拳『風貌』小学館

書棚の片隅から

20 土門拳『風貌』小学館

2023/09/25
上野修

前回、講談社文庫版の土門拳『風貌』を紹介したあと、ちょっと気になって、小学館の土門拳全集、第9巻の『風貌』を見てみました。土門拳全集は昭和58年(1983年)から昭和60年(1985年)にかけて出版された大型本で、書棚の片隅に収まるようなサイズではありませんが、今回は例外ということでご勘弁いただいて、これを紹介したいと思います。
 

本書の凡例には、次のように記されています。

 

本巻の「風貌(一)」は、『風貌』(アルス・昭和二十八年)に収載された作品より五十三点を生年順に編集した。但し、小林古径の写真については欠損が著しいため、『風貌』と異なる写真を掲載した。
また「風貌(二)」は、『日本名匠伝』(駿々堂出版・昭和四十九年)や雑誌などに発表されたもの、その他の作品から新たに編集した。

 

つまり土門拳全集版の『風貌』は、アルス版の『風貌』を抄録しつつ、他の人物写真とともに編んだ肖像写真の巻だといえるでしょう。
 

全集版の『風貌』と文庫版の『風貌』を見比べてまず思うのは、当然ながら大きさの違いです。全集版ではクローズアップの写真がちょうど等身大くらいのサイズになるので、独特のリアリティが生まれています。どちらがいいということではないですが、手のひらに収まる文庫本とはかなり印象が違っています。

 


 

異なる写真を掲載したという小林古径の写真ですが、文庫版の注釈を見ると「長期保存のための欠損が著しく、鮮明さを欠くと思われたため、著者の承諾を得た上で、原本よりの直接製版とした」となっています。こうした経緯なども興味深いですね。
 

全集版の目次を見てみましょう。

 

風貌(一)
肖像写真について 土門拳
梅原龍三郎を怒らせた話 土門拳
女の写真 土門拳
風貌(二)
久保田万太郎の鼻 土門拳
偉大な近眼 土門拳
対談 描写のうしろに寝ていられない 高見順+土門拳
『風貌』のことなど 川邊武彦
風貌(二)略歴

 

一番最後のテキスト「『風貌』のことなど」を読むと、本書に収録された写真のことが、ある程度わかります。「風貌(一)」のパートのもとになっているアルス版の『風貌』については、こう書かれています。

 

 『風貌』に掲載された人物は八十五人。昭和十一年(一九三六)撮影の武田麟太郎が一番古く、それから昭和二十六年(一九五一)までの十五年間にわたる撮影である。その中、集中的に撮ったのは二十六年の四十人である。一年間にこれだけの数を自分たちで交 渉をやり、地方に行き、大型カメラで撮りまくったのであるから、その精力的な活動力は誠に驚くべきものである。

 

 『風貌』八十三枚の写真の中三分の二以上の五十八枚が組立の大型カメラで撮影している。そのころは写真材料も良くないし、すぐ破裂する閃光電球しかなかったので、この撮影にはいろいろトラブルがあった。

 

「風貌(二)」のパートのもとになっている仕事は、下記の経緯のものでしょう。「風貌(二)」の構成は、カラーが先で、モノクロームが後になっています。

 

 

 『風貌』撮影以後、二十七年から三十七年(一九五二〜六二)の十年間に亙って夥しい数の人物写真を撮っているがほとんど小型カメラによるものである。河出書房の「知性」や「文芸」、研光社の「フォトアート」等の作家を中心にした多くの連作。「アサヒカメラ」には珍しく女優の連載があり、この他「婦人画報」には来日したジェラール・フィリップやマルセル・マルソーなど外国人も撮っている。

 

 最後の人物写真集は四十一年、四十二年(一九六六、六七)に雑誌「太陽」に連載され、四十九年(一九七四)に駸々堂から『日本名匠伝』として一本になったものである。これは『風貌』と違ってカラーを中心としたものである。また一枚写真でなく組写真であるし、使用しているカメラも大型と小型の併用である。

 

モノクロームの仕事では、コンタクトシートが収録された写真があるのも、大きな見どころです。

 


 

ちなみに、クレヴィスから最近出版された写真集『土門拳の風貌』(2022年)も、アルス版の『風貌』を抄録した「風貌(一)」と、他の人物写真を編んだ「風貌(二)」という構成なのですが、小学館の土門拳全集版『風貌』とは違ったセレクトになっています。
 

さまざまな『風貌』を見比べてみるのも面白そうですね。

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