top コラム自主ギャラリーの時代第1回 自主ギャラリーとは何か?(後編)

自主ギャラリーの時代

第1回 自主ギャラリーとは何か?(後編)

2022/08/10
小林紀晴

そもそも、自主ギャラリーとは何か。定義があるようで、実はない。この言葉自体が自然発生的に生まれてきたからだろう。ほかの言い方ではリトルギャラリー、インデペンデントギャラリーという言い方もある。この連載では写真家自身によるギャラリー運営、さらにそこで発刊、発行された出版物も含めてという広義的な意味で用いたい。


写真評論家の富山由紀子氏は自主ギャラリーを以下のように解説している。

 

「写真家が個人または複数で自主運営するギャラリー。とくに1970年代、東京を中心として、復帰後の沖縄を含む国内各地に、若手写真家たちが自主運営するギャラリーが誕生した。(略)こうした自主ギャラリー・ブームの背景には、それまでの写真展が、ニコンやキヤノン、富士フイルムなどの企業が運営するメーカー・ギャラリーを主な場としていたという経緯がある。そうした既存の場に依存しない、新たな発表の場を求める若者たちが、自分たちのスペースを確保し、展覧会の開催のほかに、印刷物の発行や、自主ギャラリー同士の交流も行ない、新しい写真実践のあり方を模索していった」
(「アートスケープ」Artwords https://artscape.jp/artword/index.php/自主ギャラリー

 

富山の記述のとおり70年代に日本(少なくとも東京)では自主ギャラリーが同時多発的に幾つも生まれた。正確には1976年だ。この年に自主ギャラリーが複数生まれた。その理由を語るのは簡単ではない。さまざなな要因が複雑に重なっているからだ。


そのひとつが「WORKSHOP写真学校」の存在である。写真家・東松照明が中心となって1975年に開校した「WORKSHOP写真学校」は翌1976年に解散したのだが、その年、写真家・森山大道は「WORKSHOP写真学校」のみずからの教室の受講者とともとに、新宿に「イメージショップCAMP」を作った(正確には、彼らに自主ギャラリーという認識はなく、あくまでイメージを売る新たな場所の創設だったはずだ)。


同じ年、「WORKSHOP写真学校」の東松照明教室の出身者たちもまた「PUT」を西新宿に誕生させた。この経緯から「WORKSHOP写真学校」が大変大きな意味を持つことがわかる(「WORKSHOP写真学校」のことについてはまた別の機会に触れたい)。
 
一方でつねに意識し、忘れてはならないのは当然ながら「時代」も大きく影響している点だ。時代を総括的に語るのはより難しい(同時代を知らない著者にとって不可能とも思える)が、興味深い記述を見つけた。下北沢が音楽の街として認知されるようになったは「1975年が分岐点」というものだ。ノンフィクションライターの石戸諭が著した『東京ルポルタージュ』(毎日新聞出版・2021年)によると、下北沢に初めてできたライブハウスは「LOFT」で、1975年のことだという。

 

「時は連合赤軍事件(1972年)からわずか3年後、『政治の季節』 が終わる、サブカルチャーと若者がまた結びつく。そんな時代だった」(『東京ルポルタージュ』)

 

その年を境に複数のライブハウスが下北沢に誕生していった。「屋根裏」「SHELTER」などだ。
その頃、新宿では…という言葉が自然と口をつく。その表現が正しいかはわからないが、下北沢のライブハウスの誕生と自主ギャラリーの誕生が単純な偶然とは考えない。そこには明らかに因果関係があるばずだ。


「政治の季節」の終焉は当時の若者たちに大きな意識の変化をもたらしたはずだ。さらに石戸がいう「サブカルチャーと若者がまた結びつく」という言葉は重い意味を持つ。それがそのまま写真の世界にも当てはまるからだ。


ちなみにカメラ雑誌「アサヒカメラ」が木村伊兵衛写真賞を1975年度、ニコンサロン(株式会社ニコン)は伊奈信男賞を1976年に創設した。
 
同じく1976年3月、新宿区大久保の何の変哲もない2階建ての建物の2階に「プリズム」という名のギャラリーが生まれた。上記の「WORKSHOP写真学校」とはまったく違った流れからそれは誕生した。東京綜合写真専門学校の卒業生を中心したものだった。 


…次回に続く。

 

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