top コラム自主ギャラリーの時代第19回 Alt_Medium① 篠田優

自主ギャラリーの時代

第19回 Alt_Medium① 篠田優

2024/04/01
小林紀晴

Alt_Medium 

東京都新宿区下落合2-6-3 堀内会館1F

https://altmedium.jp/

 

Alt_Medium(オルトメディウム)は高田馬場駅から飲食店が両側に連なる細い通りを抜け、神田川を渡り、西武新宿線の踏切と新目白通りを渡ったところにある。駅から歩いて10分ほどだろうか。通りに面した大きなガラス窓が特徴で、踏切あたりからでも展示された作品が見えることもある。実際にギャラリーに入ると、その窓から外光が入り込み、ギャラリー内はかなり明るい。軽やかで開放的な印象を抱く。

 

飯田鉄「復元する鏡」展

顧夢「Wind through the eye of a needle, no smaller than a mountain」展

 

自主ギャラリーという存在自体がどこかアングラ的、その匂いを感じるところがあると、以前に書いたが、その印象はここにはまるでない。少なくとも、室内の様子がわからず扉を開けるのを躊躇するということはありえない。

 

余談だがギャラリーの目の前の新目白通りの下には、少し上流でトンネルに吸い込まれるように地下に消えた妙正寺川が密かに流れている。暗渠マニアである私は、そのことを知って以前わざわざこのあたりに撮影に来たことがあるのだが、ちょっと嬉しくなった。
 
Alt_Mediumがオープンしたのは2016年の10月。すでに7年ほどが経つことになる。運営しているのは東京工芸大学の写真学科を同期で卒業した二人。共同経営のかたちをとっている。その一人である写真家・篠田優に話を伺った。
 
そもそもギャラーの名前であるAlt_Medium(オルトメディウム)とはどういう意味か。正直、しばらくのあいだなかなか憶えられなかった。

 

「オルト」は「オルタナティブ」から来ているのだという。「別の」とか「これ以外の」という意味がある。「メディウム」はアートの世界では一般に制作素材とか、それに用いられる物質などのことをさすが、写真の場合は感光剤以外に光そのものもさすこともある。

 

「このギャラリー空間自体が一種のメディウムみたいなもので、単なる箱ではなくて、いろいろな表現を受け止めるためのひとつの媒質みたいなもの。しかも、固定したものでななくて、常に別のものと結びついたり、開かれていくっていうことを言いたかった。もしフォトってつけちゃうとフォトギャラリーになっちゃうので。フォトだけでは煮詰まっちゃう気がした」と篠田は語った。

 

確かにオープニング展を調べてみると、写真作品ではなく、美術家・山口和也による絵画展である。

 


ルーク・クラウチ「DirtyButterfly」展

オカモトメグミ「HOSE_PIPE_TUBE」展

 

篠田は現在、明治大学で助手を務めながら作家活動をしている写真家である。

 

経歴は特徴的だ。2013年に東京工芸大学写真学科を卒業(同年9月に塩竈フォトフェスティバル写真賞大賞受賞)しているのだが、それ以前に上智大学経済学部経営学科を卒業後している。つまり東京工芸大学は二つめの大学で、2年次編入だ。

 

さらに東京工芸大学を卒業後、明治大学大学院 理工学研究科 建築・都市学専攻総合芸術系 博士前期課程 へ進み、2021年3月に修了している。ちなみに修了のための論文は「荒木経惟論――複写について」というもの。
 
―上智大学の経済学部経営学科へ進学しながら、なぜ、写真へ?


間違いなく大きな方向転換だろう。まずはそのあたりのことから訊ねてみた。
 
上智大学へ進学したのはほとんど理由らしき理由がなくて、多分、一番の理由は方向性がなかったからです。(高校生の頃)文系とか理系に関心があるとかって、まったくなかったので。どの方向にも卒業後進めそうだなみたいな。主張が全然なかったんです。だから、経済とかがまあ無難であろうという選択です。ただ、入ってみたら授業に興味がもてないし、やっていることにも興味が持てなかった。だから、とりあえず図書館で時間を潰すようになりました。上智大学の図書館にけっこう写真集が多くあるんですよ。

 

人に聞かれると毎回、必ず言うんですけど、北井一夫の『村へ』の写真集があった。第一回木村伊兵衛写真賞受賞作、あれがあって。しかも古い淡交社のもの。それをすごく面白いと思った。たまたま手にとったのが写真にのめり込むきっかけになりました。
 
― 一般大学からその後、写真の道に進んだ人を私は何人か知っているのですが、割と専門学校へ行く人が多い印象があります。四年制の大学にもう一回入るのって、けっこう熱い思いとか、決意みたいなものがあったのでは? という印象を受けます。
 
決意があったかというと怪しいところで(笑)。僕がちょうど就職しようと思っていた3年次の秋にリーマンショックが起て、割と騒がしい状況になって、周りでも就職うまくいかない場合はもう一年留年して、新卒期間延ばすとかっていう同級生とかもいたりとかしました。ただ、選ばなければ就職はできるんだろうけどという状況の中で、中には「これからは手に職をつけた方がいい」みたいなことを言う人もいて。

 

そのなかで、自分は少しのんびり行くかと思って、写真を(在学中に)撮り始めていました。ただよくわからないというか、全然うまくいかなかった。
 
―フィルムですか?
 
そう、北井さんの写真を観ていたのでフィルムに憧れがあって。モノクロフィルムで撮ってみたんですけど、うまくいかなかった。写真をちゃんと勉強したら、手に職がつくかもしれないし、就職の段階で社会が騒がしいことが相まって、なんかモヤモヤしているものも少しは解消するんじゃないかなと思ったんです。

 

どこへ進学するかって考えたときにもちろん専門学校という選択もあったんですけど、学士で編入できるところもあるんじゃないかなと思って調べたら工芸大が出てきた。それまで全然知らない大学だったんですけど。しかも、ちょうど四ツ谷からも近かったんで。
 
私は高校生のときにほぼ思いつきで、ほとんど経験がないまま写真の道に進んで、写真しかやってこなかったからだろうか、一旦違う道へ進んだのち、あるいはその途中で方向転換して写真を志す人の話を聞くのが実はかなり好きだ。「人に歴史あり」とも感じるし、それぞれ、まったく理由やきっかけが違うからだ。必ず「写真の何が、人をそれほど惹きつけるのだろうか?」ということについて考えさせられる。もちろん「北井一夫との出会い」がきっかけ、というのも初めて聞くものだった。

 


Alt_Mediumの夜間時の外観


―実際にギャラリーを設立するまでの経緯を教えてください。
 
いま一緒に運営している同級生の白濱さんと卒業するときぐらいから、「なんかギャラリーやってみたら面白いよね」っていう話はしてはいました。だた、在学中とかに仲間とギャラリーをやりたいなっていうのは、たぶん(写真に関わる)学生とかは一度は言うような、憧れみたいなもの、一種ユートピアっぽいものだと思うんですけど。その後に明確な像を結ぶかっていうと、結ばない人の方が多とは思いますが。

 

ただ、僕が写真集を2015年に出したり、展覧会活動とかもその頃から始めたりした中で、自分が写真を発表する際に、自分がやりたい場所ってどこだろうって考えました。

 

すると、すでにあるギャラリーは結構キャラクターが出来上がっている気がして。もちろん、それらが悪いとかじゃなくって、みんなどのギャラリーも好きなんですけども、自分とか周りの写真家のなかには、すでにあるところにはあまり合わなそうな人もけっこういたっていうのがあります。そういう人には、もしかして新たな場所が必要じゃないかなという気がしました。自分にもそうだし、同じように必要とする人もいるんじゃないかなっていう、漠然とした予想というか。
 
―高田馬場というのはかなり特徴的な場所だと感じます。私にはやはり写真のギャラーは新宿が中心という思いがあるのですが、いまの答えとも関係するかもしれませんが、そこからちょっと離れたいみたいな意識はあったのですか?
 
物件を探すときにお願いした人がいました。その人には条件として「山手線の駅」ということしか伝えてなくて。あと1階で、できるだけ壁がボコボコしないというか、壁をたてたときにあまり面積が減らないようなことくらいです。そのなかで出てきた物件の一つが今のところで、「面白いね」ってことになったのですが、一度誰かが押さえちゃったんです。残念って思っていたらすぐにキャンセルになって、じゃあ、タイミングもあるし、ここでいこうということになりました。窓も異様に大きいし、なかなかこういうのはないねってことで。高田馬場にはそれまで全然縁がなかったです。

 

Alt_Mediumの昼間時の外観

 

もちろん確実にこれがうまく根付くかどうかっていう確信は最初なかったです。できるだけ長く耐えらそうなことを考えていました。つまり、あまりに家賃が高くないということ。維持しやすい状況っていうのを、物件を選ぶ状態で考えていました。それに適合するものが、いろいろ縁もあって見つかったので助かったと思っています。

 

聞いたところでは、以前はペットのトリミングとかをするサロンだったみたいです。多分外から、ペットが見えたら、いい広告になるのかなと。その前はスナックだったらしいのですが、スナックのときにあんな大きい窓があったとは思えないですが(笑)。
 
以下、次回に続く。

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