top コラム自主ギャラリーの時代第5回 コンポラ写真(前編)

自主ギャラリーの時代

第5回 コンポラ写真(前編)

2022/12/27
小林紀晴

ここで話がコンポラ写真に少しずれていくことをお許しいただきたい。


そもそもコンポラ写真とは何か。これについてはこれまでに多くの者がさまざまな場で書いてきたし、私もそれを読んできた。読めば読むほど、明確な定義づけが難しいことだけは理解できた。

 

 

コンポラ写真の定義については『カメラ毎日』(1968年 6月号)における「シンポジウム:現代の写真「日常の情景」について」という座談会と、同企画への大辻清司の寄稿「主義の時代は遠ざかって」から引用されることが多いが、そのページをあらためて確認してみた。この特集で「コンポラ写真」という呼称が初めて活字となって紹介されたという説があるが、これまた確実ではないようだ。

 

 

「実際に誰がそう呼んでいたのか、詳細は明らかではない」
(『日本写真の1968』曖昧さの射程・冨田由紀子/東京都写真美術館2013 p169 )

 

大辻の「主義の時代は遠ざかって」には「取り上げる対象が、日常ありふれた何気ない事象が多い」「日常の中に埋め込んでひめやかに、気付いた人にしか気付かれないことであるかのように撮る」「だから自然と後ろへ下がり、他の日常事とともに広々と撮り込む傾向になる」「大げさな気張ったことに対しては冷笑的である」「個人の内側にとじこもりがちである」「いずれにせよ激しい動乱のさなかには生まれてこない写真である」などの言葉が並ぶ。


かなり抽象的である。定義の難しさの一端がこんなところにもあるはずだ。


大辻は最後に「コンポラ写真はこのような現状に、敏感に反応した個々の作家の即応的な論理の上に成りたっていると考えてよいだろう」と結ぶ。
 
コンポラと日常性についての鋭い指摘をしているのは富山由紀子である。『日本写真の1968』への寄稿に「曖昧さの射程―コンポラ写真と『カメラ毎日』の時代」と題した文章を寄せている。そのなかにまさに“「日常性」の浮上”という章がある。


『カメラ毎日』が誌面で扱う写真家について、「実は、六〇年代半ばごろの『カメラ毎日』は、広告界の若手を後押しするだけでなく、「日常性」をモチーフとする写真の流れにも期待をし始めていた」「終戦直後と違って、人びとに共有される問題や、告発すべき問題が見つけづらくなり、写真家たちも被写体の選択に悩むようになっていく」なかで「現前化してきたのが、個々人の前にのっぺりと広がる「日常」そのものであった」と記している。

 


 

重森弘淹による記述も見つけることができた。
 

「コンポラ派には、テーマが解体しているのである。むしろコンポラ派は、(略)私状況を深く掘り下げてゆく方向のなかに、「私の世界へのかかわりあい」を模索しているのである」
(『カメラ毎日』1968年9月号P51)

 

「私状況」というのは造語だと思われるが、日常性と同義と考えて間違いないだろう。興味深いのは大西が前回、口にした総合写専のもうひとの授業「イベント」という言葉も使われている点だ。


コンポラ(派)には「劇的なイベントに目を向けず、むしろ日常的な片々たるものに執着している。従来方の報道写真のような大テーマ主義はもはやかれらに存在しない」と書いている。さらに「報道写真派のイベントに対抗し」という表現もある。報道写真に「派」という表現をわざわざもちい、二項対立させるような書きようだ。もう一方は、ここには書かれていないが、当然コンポラ写真派ということになるだろう。安易に断定はできないが、重森弘淹が総合写専で行っていた授業「日常性」の成り立ちは、おそらくコンポラ写真とは無縁ではないはずだ。


さらにそれまでの報道写真と広告写真の関係についても指摘している。この時代を肌で知らない私にとっては、当時の状況を想像、俯瞰する上でとても参考になる。「報道写真の沈滞がめだつようになってから久しい。他方で広告写真がきわめて活況を呈し」、広告写真家の「かれらは」「積極的に疑似イベントをつくり出し」ていると記す。例えば写真家・立木義浩などがその代表格だろう。それに対し報道写真は「機械的に現実を反映させるリアリズムに縛られて、いちじるしく精彩を欠くことになってしまった」と表現し、さらに「コンポラ派」は「従来の報道写真のルールに拘束されない一連の新しいドキュメンタリー」だと結論づける。


積極的に疑似イベントをつくり出している広告写真家のめざましい台頭があり、一方でこれまでの報道写真は大きく衰退した。ゆえに、そのはざまに生まれた新しい報道(ドキュメンタリー)が、コンポラだった。重森のこの文章を読む限りでは、つまり、コンポラは広告写真と報道写真が産んだ時代の寵児だった、という言い方もできるはずだ。

 

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