top コラム自主ギャラリーの時代第2回 フォトギャラリー「プリズム」(後編)

自主ギャラリーの時代

第2回 フォトギャラリー「プリズム」(後編)

2022/09/16
小林紀晴

私が「プリズム」があった正確な住所を知ったのは写真家・大西みつぐ(1952-)から自主ギャラリーに関するいくつかの資料を提供してもらったのがきっかけだった。大西はかつて自主ギャラリーの活動に深く関わっていた。


大西の手元にいくつの資料があることを知った。


「是非、それを見せてほしい、できたらお借りできませんか」


そう伝えたところ、探してみるとのことだった。しばらくして返信が来た。


「コンテナ倉庫は足の踏み場もなく…当時の必要なものを残したはずの段ボール箱が奥から探せませんでした」


コンテナ倉庫というのは大西が借りている貸倉庫をさしているようで、そこに古い資料などは保管しているらしい。大西はわざわざ探しに行ってくれたようだが、その資料までは到達できなかったようだ。残念だが仕方がない。


すでに自主ギャラリー研究のなかで何度か体験したことだが、一次資料にたどり着くことの困難さをここでも実感した。かつて自主ギャラリーに関わった者の手元にはある程度の資料がいまでも保管されているはずだ。ただ多くの場合、散在し、整理されているわけでない。当事者にとっても探し出すのは時に困難を極めることがこれまでにもあった。いや保管されているだけでも、もはや貴重と考えるべきかもしれない。


大西からのメールには「数枚の資料しかありませんが、別便でお送りします」とあった。それは手元にあるものをさしていた。紙の資料をスキャンしてデータ化されたものだ。資料は以下になる。
 

・プリズムでの個展とグルーブ展DM
・プリズムから派生したカメラメーカーギャラリー でのスライドショーと展示DM
・『写真国』呼びかけチラシ
・1977年の「今日の写真・展77」チラシ裏表
・『写真効果』(表紙コピー)

 

「プリズムでの個展とグルーブ展DM」にはプリズムの住所と簡単な地図が描かれていた。神社と交番のマークが並んでいる。神社は皆中稲荷神社をさすことは明らだ。このことには『写真史家・金子隆一の軌跡』(MEM・2022.6発行)のなかで写真家・作家の島尾伸三も触れていて「金子隆一と遊んだ頃」と題された文章に「たまり場だった新大保駅から数分の皆中稲荷神社脇の木造2階建てのアパートの一室」と記している。
 

 

私は皆中稲荷神社の境内を出て、路地へ入った。DM に記されていた番地は現在もそのまま存在していた。さらに同じくDM に記されていたOSセンターという建物も現存した。このことにちょっと驚いた。
大西にお話を伺った際、大西はこの建物の記憶をこう語った。


「その駅前の公園(神社の境内のことか)を抜けたとこにある汚いアパート、狭っ苦しいモルタルの2階。外階段をトコトコトコって登っていくと、なんか普通のアパートの部屋に壁ができていて、写真を展示していた」

 

汚い、狭っ苦しいという表現は、失礼ながら現在、私の目の前にある建物にも十分に重なった。当時もいまとさほど変わらなかったのか。一階は「lattencos」はというきれいな外観の韓国のコスメショップが入っていた(ちなみに日本の居酒屋、韓国風居酒屋も軒を連ねている)。「lattencos」に関してあとで検索してみると、以下のサイトを見つけた。とにかく若い女子向けの店であることは間違いない。一階部分と二階ではあたかも違う時間が流れているように分断して映る。

 

韓国ドラマを見ていたら韓国に行きたくなっちゃった…。そんな女の子たちの欲を満たしてくれる新大久保に、注目のお店があるんです♡ 韓国コスメのセレクトショップとおしゃカフェが一体化した「lattencos(ラテアンドコス)」の人気のドリンクメニューや価格、アクセスをみていきましょう。(「it Snap Official MAGOZINE」 HPより)
https://magazine.itsnap.jp/lifestyle/25672/

 


 

大西の言葉通り、建物の右側には昔ながらの外階段がついていた。昭和の時代にどこにもであったアパートのそれである。おそらく当時のままだろう。私はそこをおそるおそるあがってみた。あがったところはすぐ廊下になっていて、両側に部屋が並んでいた。表札などから小さな会社や事務所などが入っているようだ。ハングル文字もあった。果たしてどの部屋がプリズムだったのか。後日、大西に改めて確認してみたが、プリズムがどの部屋だったのかは残念ながら憶えていなかった。

 

 

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