top コラム推すぜ!ペンタックス第18回 デザイン的必然性と思想を宿す正統派
“一眼レフ”システム ペンタックス auto110

推すぜ!ペンタックス

第18回 デザイン的必然性と思想を宿す正統派
“一眼レフ”システム ペンタックス auto110

2022/03/24
赤城耕一

カメラ博愛主義を公言している筆者ですが、フォーマットとして苦手なフィルムカメラがありました。
これが110カメラです。ほとんどの機種はトイカメラの延長にしか見えないわけです。13×17mmというフォーマットサイズも、えらく小さく感じますし、撮影した写真も不鮮明なものが多かったように思います。

 

本格的な測距機構やメーターを備えたカメラが少ないのは廉価に仕上げるということもあるのでしょうが、過剰な機構を積んでも、高価になるばかりで意味はないなと考えられたのでしょうね。つまり110は完全なるビギナー用カメラとして分類されたきらいがあります。

 

ペンタックスが本気で設計した110カメラ

 

でも世の中は例外もあって、キヤノン110EDとかミノルタ110ズームとか、単純におもちゃとは呼べないカメラもありますし、実現こそされませんでしたが、ライツにも110ライカの試作機があったように記憶しています。
でもね、今回紹介いたしますアサヒペンタックスauto110ほど本気で設計された110カメラは他にないんじゃないですかねえ。正直これは誰に向けて売り出したのかわからないくらいなんですよね。

 

本気度を感じるのはこれ、正統派の“一眼レフ”であることでして、ちゃんとペンタプリズムとかミラーボックスが用意された機構です。デザインを真似た“なんちゃって” 一眼レフじゃないんですよ。昨今のミラーレス機よりもデザイン的な強い必然というか思想性があります。
それまでの110カメラは小型化を追求するためにフラットなタイプのものが主流でしたが、この慣習を打ち破ったわけです。ええ、ミラーレスの方向性にこれも似ていますが、繰り返しますが、本機は一眼レフですから必然なんですよね。

 

ペンタックスauto110+ペンタックス110 24mmF2.8

シンプルなスタンダードセット。本当は虚飾に頼らずして使いたいカメラですが、撮影条件でいろいろとオプションをつけたくなる不思議なカメラなんですよね。

 

フィルム室。フィルムはカートリッジ式。カセットポン(古い)みたいに装填する感じになります。

 

 

トイカメラの延長と考えられたワンテンの宿命!?

 

それに素晴らしいのは発表当初から交換レンズもちゃんと用意されていることで、当初は18mm(35mm判相当で35mm画角)、24mm(同50mm画角)、50mm(同100mm画角)の3本のレンズが用意に加えて、専用のフードとかクローズアップレンズ、フィルターも備えられ、さらに交換レンズ以外も、ワインダーとか専用フラッシュまで用意されていたのです。トヨタの社長じゃないですが「110でも本気、みんな本気」なんですよ。信じられないですねえ。
 

レンズの性能も評価高いんですよね。フォーマットが小さなカメラのレンズが高性能なのは、プリント時の拡大率に耐えるためでもあり、本来は光学性能に手が抜けないんですよ。ただ、最初からトイカメラの延長みたいに考えられた110カメラでは、レンズ性能もそれなりなので、最終的にアウトプットされる写真は不鮮明だったわけです。このことが110カメラのポテンシャルを低く見せてしまい全体の評価を下げたわけで、レンズの光学性能を上げれば、それなりの画質にはなったはずなのです。まあ、引き伸ばせば粒子は荒れたと思いますけどね。
 

あくまでも一眼レフスタイルにしたのは、フラットタイプに比較してホールディングが良くなるからと聞いておりますが、果たしてペンタックス一眼レフをそのまま小さくしたようなスタイリングで、外装はプラスチッキーですから、パッと見ではなんかのお菓子のオマケみたいな感じがしないではありませんでした。かわいそう。
今の時代にauto110取り出すと受けますぜー。みんな「本当に写るんですか?すげー」とか言うもんね。どうだすげーだろーと見せびらかすわけです。なんの意味があるのしら。

 
 

レンズを外してみましたが、専用バヨネットマウントは金属製です。素晴らしいですが、プラマウントだったら筆者は購入していなかったんじゃないかなあ。

 

 

近くにあったペンタックスKMと大きさ比較してみます。笑える写真になりますねえ。

 

 

ならばと、標準レンズのペンタックス110 24mmF2.8とsmc ペンタックスM50mmF1.4も比較してしまえということで並べてみたわけです。説明無用ですね。

 

ペンタックス110交換レンズの代表格3本です。いずれも小さいです。紛失注意。中央24mmF2.8、右50mmF2.8、左18mmF2.8。のちにパンフォーカスのPF18mmF2.8と中望遠の70mmF2.8、ズームレンズの20-40mm F2.8が加わり、本格的なシステムカメラとして周知されるようになる。

 

 

小さな筐体に不釣り合いなビッグなファインダー

 

auto110で誰しもが驚くのはファインダーの大きさじゃないでしょうか。多くの人がファインダーアイピースに目を当てた瞬間に、思わず、「うわっ、デカ」と声が出てしまうほど視野が大きく広いのです。0.74倍のファインダー倍率もほんとすごいですね。
これはですねペンタックスK-3IIIのファインダーを覗いた時のびっくり感に近いものがあります。APS-C一眼レフなのにデカいじゃんかと。筆者なんかK-3IIIのファインダー覗いた時、すぐにauto110のことを思い出しましたもん。
なあんだフォーマットサイズ小さくても光学ファインダーはデカくできるんだって。やればできたわけですよ、APS-Cの一眼レフでも。じゃあこれまで手抜きだったんじゃねえのかと。それに本気で取り組んだリコーイメージング設計陣はもう少し評価されてもいいと思います。でもコストはかかりますけどね。

 

あ、話がそれました。auto110のファインダースクリーンにはスプリットイメージ距離計が備えられ、これも利用してフォーカシングすることができます。もっとも交換レンズの実焦点距離が短いので中庸な距離は目測で設定しても、日中晴天下ならば実用的にはまず問題とされないでしょう。
絞りはレンズ側にはなくてシャッター絞り兼用のビハインド式で、プログラムAE制御されます。
レンズの開放F値は全て2.8に統一されています。EV3からEV8までは絞り開放のままシャッタースピードは1秒から1/30秒まで変化します。EV9以上になると、絞りもシャッター速度も変化しますが、EV17.5で絞りf13.5、1/750秒まで変化します。
 

使い勝手は単純に35mm一眼レフをスモールサイズとしただけですから、慣れないと使いづらいのですが、ガリバーにでもなったような気持ちでカメラをホールディングして、レンズのフォーカスリングを摘んでフォーカシングすれば楽しめますねえ。フィルム巻き上げレバーは2操作式ですが、ライカでは分割巻き上げするのが普通なので筆者は慣れています。
ちなみに専用ワインダーを装着すればホールディングのやりづらさからは解放されます。専用のスピードライトも用意されているのですが、筆者は使用したことありません。なんだかカメラボディサイズに対してもデカいんですよね。


 

専用のワインダー装着してみます。動作音はそんなにうるさくはありません。コマ速度の問題ではなくて、ホールディングバランスを良くするために使うというイメージです。

 

専用のスピードライトAF130Pを装着してみました。110ボディより大きいです。GNは13(ISO100m)です。バッテリーと回路設計の問題で小型化できなかったのか、当時の設計陣もストロボはやり直したいと発言したとか。筆者も一度しか使用経験がないのですが、これものちに小型のAF100Pが出てきます。GN10(ISO100m)ですがそれで十分ですね。いずれも専用接点を使うねじ込みタイプです。

 

 

楽しもうぜ!110カメラ
 

お前さ、そんなに褒めても、肝心の110のフィルムなんかねーだろうがと思われたかもしれませんが、これがあるんですよねー。ロモグラフィーから発売されています。
ただしこのところ安定供給されていないのが残念ですが、110カメラを完全なる不燃ごみにしなかったロモグラフィーのことは高く評価せねばなりません。需要と供給の関係からすれば110フィルム自体の供給が続けられていることに深く感謝せねばなりません。このためには価格や性能面についてはあまりうるさいことは言いたくありません。今後とも供給をどうぞよろしくお願いします。そのために読者のみなさんauto110、一台いかがですかねえ。これは楽しめますぜー(笑)

 

 

バッテリーホルダーにLR44電池を2個入れてフィルム室内の所定の場所に差し込みます。このホルダー失くすとマズいですぜ。

 

 

フード病のあなたのために専用のラバーフードも用意されていますのでこれを装着。バランスがよくなりますね。遮光効果はわかりませんが。

 

ロモグラフィーではカラーネガからモノクロまで、豊富なラインアップを取り揃える。写真はカラーネガ110フィルムのLomoChrome Turquoise 110 ISO 100–400。https://shop.lomography.com/jp/film/110-film

 

 

 

 

 

 

 

ペンタックスauto110カタログより抜粋(資料提供:リコーイメージング株式会社)

 

 

  • 【PENTAX auto110 性能表】

  • 使用フィルム=110カートリッジフィルム
  • 画面サイズ=13×17mm
  • 標準レンズ=ペンタックス−110  24mmF2.8(写角47度、フィルターサイズ25.5mm)
  • 焦点調節=0.35m〜∞
  • レンズマウント=専用バヨネット(セット角80度右)
  • ファインダー=ペンタプリズムによる正立正像式、アイレベルタイプ、クイックリターンミラー
  • 焦点合わせ=中央部マイクロプリズム、周辺マット
  • 倍率と視野率=0.75倍、90%、視度調整レンズの装着可能
  • ファインダー内表示=シャッタースピードのゾーン表示、LED2個、◇グリーン:F2.8、30分の1秒以上 ◇イエロー:手ブレ警告 バッテリーチェックはLED消灯による
  • 露出計=TTL中央重点、開放測光
  • 測光範囲=EV3〜17(ASA100、24mmF2.8の場合)
  • 測光素子=光起電力素子
  • 使用電源=3ボルト、銀電池G13を2個使用
  • フィルム感度切換え=自動セット(高感度フィルム切換え可能)
  • シャッター=電子自動プログラム式ビハインドシャッター、作動範囲はF2.8、1秒〜F13.5・750分の1秒
  • ストロボ=専用オートストロボ「AF130P」を装着、ストロボのスイッチオンでカメラ側の露出はオートから30分の1秒、F2.8にセット
  • フィルム巻上げ=巻上げレバーによる1コマ2作動巻上げ、巻上げ角は140度×2、予備角は60度
  • フィルムカウンター=フィルム裏紙読みとり順算式
  • ワインダー=専用ワインダーを用意、ボディ下面に三脚ネジを利用して装着
  • 大きさ=標準レンズ付で、約56(高さ)×99(幅)×45(厚さ)mm、レンズなしで、約56(高さ)×99(幅)×32(厚さ)mm
  • 重量=標準レンズ付で約172g(電池なし)、レンズなしで約159g(電池なし)
  • 発売時期=1979(昭和54)年3月
  • 価格=29,000円(本体のみ)

 

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