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推すぜ!ペンタックス

第17回 数多のプロ写真家に愛された完全なる実用仕事カメラ、ペンタックス6×7

2022/03/17
赤城耕一

今回はペンタックス6×7(登場時は6×7の名称でしたが、ここでは67名で呼びます)の話をしようと思います。本誌読者の方々には説明は無用かと思いますが、一応書いておきますと6×7cm判フォーマットの中判フィルム一眼レフカメラです。1969年登場ですが、途中でミラーアップ機構が付加されたり、ロゴの変更などがあります。後継機は67IIといいまして、絞り優先AEも可能になり、少し軽量化されています。

 

67はAE機ではありませんが電磁式のシャッターを搭載していますのでバッテリーは必要になります。フォーカルプレーンシャッターですから、35mm判一眼レフのスタイルをそのままに中判カメラ化したという設計思想です。ここに一眼レフのパイオニアたるペンタックスらしさがあると思いますね。ただ、そのためにかなり大きく重たいカメラになってしまいました。

 

この開発思想に繋がることなのですが「バケペン」の呼称が幅広く使われています。67登場時のペンタックス35mm判一眼レフの代表格は小型のSPでしょうから、それよりもすごく大きくなっているという意味なのでしょうね。

 

以前はこんなニックネームは使われていなかったんじゃないかなあ。個人的には嫌いなんですよね。愛称とも呼びたくないし。「バケペン」=「化け物ペンタックス」の略ってことなんですか?わかる人、解説お願いします。カメラに失礼この上ない感じがしますが、個人の考え方でしょうからここでは尊重することにしますね。筆者もオトナですから。

 

ペンタックス6×7+アイレベルファインダー+smcペンタックス67  90mmF2.8

旧ロゴのペンタックス6×7ですね。ノーマルのアイレベルファインダー付きです。レンズはsmc PENTAX名の90mmF2.8になっています。昔は35mm判一眼レフと同様TAKUMAR名でした。したがって時代の整合はとれていません。どうでもいいけど。

 

駆け出しの頃、最初の出会いは4×5撮影のバックアップ

 

冒頭から興奮したみたいに書いてますけど、嘘です。筆者は冷静です。67との最初の出会いは駆け出しの頃に仕事をしていたプロダクションではなかったかと思います。もちろん67の存在は知っていましたけど、自分で購入して使おうという気持ちは強くは持ってはいなかったですね。

 

それは高価だったこともありますが、この時の67の主な役割は、4×5撮影のバックアップとして、つまり“おさえのカメラ” としての撮影に使用することが多かったからです。

 

4×5のホルダーから漏光していたとか、撮影ミスとかなんらかのトラブルに備えるためですね。ですので、本番の4×5のポジが想定どおりに仕上がっていれば、67で撮影したフィルムは現像することなく廃棄していました。現像代を節約するためです。このあたりは、きわめて合理的です。

 

こんな感じでしたから、67との邂逅って、色気がないというか面白みに欠けます。完全なる実用仕事カメラだからです。例外もあります、アラーキー、中村正也さん、沢渡 朔さん、白川議員さんや薗部 澄さん、変わったところでは倉田精二さんが、夜の池袋でスナップ撮影に使用していました。かなりヒリヒリした作品でした。こうした大写真家の手にいる時の67は、ものすごく輝いて存在感があるようにみえるわけです。けれど、私は須田一政さんの熱狂的なファンでしたから、いつかはハッセル派だったのです。

 

今はデジタル時代ですが、67はまだ多くの写真家に使われています。ただ、存在感というか立ち位置は従来よりも違うみたいですね。少なくても仕事で使用している人はまずいません。

 

ペンタックス67で撮影中の写真家の沢渡 朔さん。カメラは巨大だが、軽々と操作しているようにみえました。こういう姿をみますと、やはり67は持っていたほうがいいんじゃないかと思ったりするわけですが、ウソです。

 

ファインダー交換式です。アイレベルファインダーには他にTTLメーター内蔵のものがあります。ウエストレベルファインダーは三脚にカメラを載せて使うときは便利でした。 

 

風景やスナップ派からも重宝された高い機動力

 

現在は若い写真作家に人気ですね。東京の街中では年に数回ほど若い写真家が67を構えているシーンと出くわすことがあります。これがスリムな女性だったりすると感動しますね。美しいというか逞しいというか。思わず話しかけてしまいそうになりますが、ヘンなジジイに話しかけられたと思われるとイヤなんで我慢していますけど(笑)。

 

最初に言っておけば、もう67は筆者の手元にはありません。潔く処分しました。ええ、使用頻度が極端に低くなったからです。じつは6×7フォーマットもあまり好きではありませんでした。プライベート撮影ではあいかわらず中判カメラを使いますが、これもほぼすべて6×6フォーマットのみです。もちろんアサインメントでフィルム中判カメラを持ち出して使うことはありません。したがって、アスペクト比がどうの、という注文もありませんから自分の好き勝手ができるわけです。

 

往時のプロカメラマンが選ぶ6×7判の中判カメラって、ペンタックス67よりもマミヤのRBやRZが多かったように記憶しています。これは6×6判のスクエアでそのままアサインメントで使用されることは稀だし、ならば、最初から縦横がはっきりしている長方形画面にしておいた方がいいんじゃないかという理屈のようです。これはまあそうですね。

 

それに、これらの機種はポラが切れる、じゃないインスタントフィルムホルダーが用意されていたという理由も大きかったですね。ペンタックス67のインスタントフィルムホルダーは、サードパーティ製の特別なものしかありませんでしたから仕事現場では少々不利だったのです。

 

今でいえば、インスタントフィルムを使えないのでは、スタジオでテザー撮影ができないようなものです。それでも67の機動力は他の中判カメラを凌駕していていましたから、フットワークが必要な風景写真や街角スナップ派にはよく使われていました。

 

若い写真作家に絶大な人気の謎!?

 

80年代の半ばごろから一昨年くらいまでは筆者の元にも“マイ67” がありました。のちに67IIも加わりました。選んだ理由は単純で、エディトリアル関連ではカラーページの仕事が大幅に増えたからです。原版が大きい方が印刷に有利なのです。たしかに実際そうなんですが、中判カメラを使うには厳しいルポルタージュのような撮影仕事でも、重たいのを我慢すれば67は35mm一眼レフと同等の仕事をしましたので、とくに重要な撮影には無理をして携行していました。これも若かったからできたわけですね。

 

そんな理由もあってか67にはどうしても「仕事カメラ」という認識しか持つことができなくて、プライベートな撮影で67を持ち出したことがほとんどないわけです。

 

若い写真家の愛用カメラとして67が出てくるのはもう謎なわけです。これ、みなさんの欲するところは「高画質」ではないように思えます。アスペクト比と、使用レンズの焦点距離の長さからくる独自の描写なのでしょうか。フィルム時代は、ペンタックスには35mm一眼レフはフラッグシップと認められるカメラはなくて67がフラッグシップとされました。

 

今の若き写真家たちはネガカラーで撮影して、タイプCプリントを全暗で制作しちゃうんでしょうか。もう120サイズのフジカラーNS160も400Hもディスコンになってしまったんですよ。がんばってバイトして高額なコダックのポートラとかエクターを購入するのですか?大変ですよねえ。いや、すみません、余計なことを言いました、実は筆者も頑張って120サイズのポートラ400を使っております。タイミングが合えば、仲間内でNYのB&Hあたりから共同購入したりしてます。周りからなんと言われようともかまいません、フィルム写真制作、一緒に頑張りましょう。

 

シャッターダイヤルはシンプルで控えめ。右の赤ポッチはダイヤルの指標兼バッテリーチェックランプでした。TTLファインダーつけると見えづらいんだけど。

 

 

フィルム巻き上げレバー。一作動式というのはエラいと思う。フィルム巻き上げとシャッターチャージを同時に行うわけですが、そのためか少々重たいです。親指痛いですね。

 

迫力満点のシャッター音

 

それにしてもフィルムの種類がこれだけ減っても、ペンタックス67人気はあいかわらず衰えていないことに驚きます。ボディも高額で取引されています。それに標準105mmF2.4レンズなんかは、新旧交代にもかかわらずおぞましいほどの高い価格がつけられていますからびっくりします。よく写るレンズではありますが、古いものだと黄変しているものも珍しくありません。それも味わいとしてしまうのでしょうか。

 

人気継続の理由は本当に謎です。形が35mm一眼レフをそのまま大きくしたような雰囲気だから違和感なく扱いやすいのではという期待からかもしれないですね。

 

たしかに35mm一眼レフと比較しても違和感なく使える中判カメラという印象です、67はファインダー交換式ですが、アイレベルファインダーやTTLファインダーを使えば、ファインダー像も正立正像に見えますし。ただ、撮影枚数は10枚しかないですから覚悟を持って使わねばなりません。今はフィルムはたいへん高価ですから気合入れてきちんと撮影した方がいいかもしれないですね。でも120フィルムって、遮光性は悪いから、ここぞというときは余分に撮影しておきたくなるんですよねえ。

 

ファインダーの視野率も、アイレベルファインダーでは90パーセントに満たないくらいで、周囲が1割余分に写るというイメージです。カメラの大きさと比較して納得できないところがありますが、これはペンタプリズムを小さくするためなんでしょう。仕方ないのか。どうしてもという時はアイレベルファインダーを外してスクリーン上から観察すると視野率は大きく向上します。ただし逆像になりますけど。

 

シャッター動作音は迫力があります。筆者には“がちゃくらこん” と聞こえます。2重の動作音、2段落ちというか、ミラーの昇降とフォーカルプレーンシャッターの音が分かれて聞こえる感じです。シャッターショックも大きく感じますが、メカニズムの識者によれば、そのショックを感じた時はシャッター後幕が走り終わり露光は完了しているから、ホールディングさえしっかりしていれば意外とブレないと言われたことがあります。最高速1/1000秒というのもエラいですよね。精度の方は分かりませんが、撮影範囲が広がるという希望が持てます。

 

薗部澄さんもなんとかしてすべての撮影を手持ちで撮影するべく、グリップを自作していた記憶があります。筆者は不器用なので感心して、ただただ拝見させていただいただけでした。

 

フィルムカウンター連動キーですね。120フィルムの時は10で220フィルムは21ですか。220フィルムは現在の現行品は中国製のモノクロフィルムのみしかないですよね。

 

 

フィルム室。ブローニーフィルムを横方向に動かすため大きくみえますね。巨大なフォーカルプレーンシャッター幕。横走りで走行します。

 

 

一眼レフのパイオニアが生み出した孤高の存在

 

67のフィルム装填は筆者にはタイヘンに難儀でした。ボディ下のキーを回して引いた後に、フィルムを装填するのですが、スプールを入れても溝が噛み合わず、キーが収まらないことが度々で、これだけのことでもイヤになってしまいました。

 

若い時分にピンチヒッターのアシスタントで、短い間でしたが、ある著名写真家のお手伝いをしたことがあるのですが、その時の現場カメラは67が3台でした。とにかく忙しい現場で、フィルム交換にもたついて怒られた記憶が残り、それもトラウマになってしまったようです。この時に自分の不器用さ加減をさらに呪いました(笑)。

 

巷のカメラ修理専門業者では67修理の受付はまだ大丈夫のようですが、今後は次第に厳しくなってゆくことが想定されます。67が持つ雰囲気と同じレベルのカメラって、他にないですから使い続ける人は大事にしてください。こうやって書いていると、自家中毒を起こして、再びウチに67をお迎えしても良いかなあとも思うのですが、すでにうちに集結してしまった世界中の6×6判カメラたちから許してはもらえないでしょう。

 

 

アイレベルファインダーのアイピース部分。ボディサイズに対して控えめな感じですね。視度矯正は補正のレンズをつけるタイプですね。アイカップも用意されていましたね。

 

 

圧板のスライドで120と220のフィルムの厚みの違いに対応していました。ローライSL66なんかこれを無視してますからねえ。ペンタックスは真面目ですよね。あたりまえだけどね。

 

 

新ロゴのペンタックス67を構える筆者。TTL内蔵のアイレベルファインダー付き。木製のグリップをつけてますが、これって撮影時につかむのではなくて、キャリング用なんですよね。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ペンタックス67カタログ[1975年発行版]より抜粋(資料提供:リコーイメージング株式会社)

 

 

 

  • 【PENTAX 6×7 性能表】
  •  
  • 型式=レンズ交換式6×7cm判一眼レフレックスカメラ
  • 使用フィルム=120ロールフィルム[10枚撮り]220ロールフィルム[21枚撮り]兼用
  • 画面サイズ=55×70mm
  • 標準レンズ=SMCタクマー6×7 105mmF2.4 5群6枚、自動絞り付、フィルターサイズ67mm
  • 距離目盛り=∞〜1m(∞〜3.3フィート)
  • フィルムカウンター=自動復元順算式
  • フィルム交換=蝶番式後蓋の開閉による
  • 巻上げ=レバー式(180度1作動巻上げ・予備角10度)、セルフコッキング、スタートマーク合わせによるオートマット方式
  • シャッター=電子制御式フォーカルプレーンシャッター、ゴム引絹布、固定抵抗切替式ロータリーSW、エンドレスシャッターダイヤル[露出計連動みぞ付]、X、B、1〜1/1000秒、全電気的制御
  • シャッター電源=6V銀電池(エバレディ No.544、あるいはマロリー4G13 1個)
  • バッテリーチェッカー=押しボタン式、ランプ表示
  • ファインダー=ペンタプリズム[交換式ファインダー]、フレネルレンズ、クロスマイクロプリズム付、標準レンズで等倍、視野90%[ウエストレベルで100%]、視度−1ディオプトリー
  • ピント調節=直進ヘリコイド
  • ミラー=スイングバック式クイックリターンミラー
  • 絞り作動機構=完全自動絞り(手動絞込可能)
  • レンズマウント(交換)=専用ダブルバヨネットマウント、3本内爪 35〜300mmレンズまで、4本外爪 400〜1000mmレンズまで
  • シンクロ=FP、およびXターミナル[JIS、B型ターミナル]、ストロボ同調X 1/30秒〜1秒、B 90mmレンズの場合のストロボ同調は全シャッター速度[1/500秒まで]
  • 露出計=シャッター・絞りに連動するTTLペンタプリズムを取付け可能
  • 大きさ=幅184×高さ149×厚さ156mm
  • 重さ=2380g(105mm標準レンズ・ペンタプリズム付)、ボディのみ1290g
  • 付属品=レンズキャップ、レンズマウントキャップ、ボディマウントキャップ、ペンタプリズムキャップ、ファインダーキャップ、シャッター作動板、ストラップ[標準セットの場合]
  • 主なアクセサリー群(初期頃)=オートベローズ、接写リング、コピースタンド、マグニファイヤー、アクセサリーアダプター、屋外フード、折たたみフード、アイカップ、視度調整アダプター、フィルター各種など
  • 発売時期=1969(昭和44)年7月
  • 価格=ボディのみ 72,700円(ファインダー別・ミラーアップなしの初期型)

 

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