top コラム推すぜ!ペンタックス第8回 エラそうだけど地味!? メカニカルシャッターのマニュアル一眼レフ、アサヒペンタックスMX

推すぜ!ペンタックス

第8回 エラそうだけど地味!? メカニカルシャッターのマニュアル一眼レフ、アサヒペンタックスMX

2022/01/13
赤城耕一

アサヒペンタックスMEの兄弟となるのはMXです。外観デザインは違いますし、仕様は絞り優先AEオンリーのMEに対して、MXはメカニカルシャッターのマニュアル一眼レフカメラであるという大きな違いがあります。こちらの方がエラそうではありますが、地味でもあります。
 

MXがライバルと意識していたのはオリンパスOM-1でしょう。OM-1よりもさらに小さいことも注目されましたが、ファインダー内には絞り値とシャッター速度数値が表示されます。そしてメーター表示は受光素子がGPDであるため、OM-1のCdSを使った指針式のメーターよりも応答速度が速いことがウリでした。GPDって、ペンタックスK2をはじめ他の一眼レフに使われているSPDみたいなものなのでしょうけれど、位置情報が出てきそうでちょっとイヤな名称ですな。あ、あれはGPSか。
当時のメーターは指針式よりもLED表示の方がショックに強いとされてきました。これが本当かどうかウラは取れてませんが。
でもLED表示を採用したカメラって、みんな一様にショックに強いことを強調していたので、当時まっすぐに生きていた若き筆者はそのまま信じましたよ。もちろん素人考えでも、振動でふらふらする指針よりもLEDの表示の方が信頼できるような気になりました。
 

ファインダー内に絞りやシャッター速度が表示されるカメラのファインダーは、別名で「情報集中ファインダー」と呼ばれました。
ファインダーアイピースから目を離さなくても絞りやシャッタースピードの設定が可能だから、シャッターチャンスを逃さないというウリ文句もカメラ雑誌の広告などで見たことがあるのですが、読者のみなさんどうですか?これらのファインダー内の表示をきちんと見ていますか?正直言いますと、筆者はよく見てないですね。逆にシャッタースピードの表示がファインダー内に透明の半円形でせり出しているので視野にかかりウザい感じもしなくはありません。
筆者に限ったことかもしれないですが、ファインダーをよく見ているようで見ていないということはよくあります。最新のデジタル一眼レフやミラーレス機でもそうかもしれません。ファインダー内では被写体の位置や動き、背景との関連性の観察の方が重要と考えていることもあります。
 

カメラの撮影設定は、背面のモニターなどを見た方が楽で確実で早くないですか?数字もデカいし。TTLメーターで露出を合わせるのは、本番撮影前に、同じような条件で測光してあらかじめ露出を決めておくみたいな設定をしませんか?
シャッターを押す直前にあれこれとファインダー内の表示を見ながら露出調整とかする人いるのかなあ。あまり美しくないよね。
本稿とは関係ないけど、ニコマートFTNとかニコンF2フォトミックなどは露出計の指針窓がカメラの外部にも表示されるので、便利でしたね。単独露出計のように使うことができるからです。
いろいろ能書きを書きましたが、じつは筆者は自分のMXにバッテリーを入れて使わないので、本当のところよく特性を知らないんですけど、すみません(笑)。たぶんというかおそらく中央部重点平均測光というやつかもしれないです。
 

MXとOM-1のもうひとつの大きな違いは、MXにはカメラ軍艦部にシャッタースピードダイヤルが従来のペンタックス一眼レフと同じ位置に存在したことです。
OM-1のそれはマウント基部にあるのですが、レンズ鏡胴の絞り環と共に近く、ダイヤルをつまむというより掴む動作で設定できるので使いやすいという意見がある一方で、他のカメラと共用するとダイヤルの位置の違いから、戸惑ってしまうという意見もありました。これは仕方ないですよね。
OM-1はマウント基部にシャッターダイヤルを置いたことで小型軽量化できたのだという話もオリンパスの公式なアナウンスで読んだ記憶があります。摺動抵抗はフィルム感度ダイヤルの中のようで、うまいこと収めたという感じですが、時代が進めばこれらのパーツも小型化できたのかもしれないですね。
ただMXのシャッターダイヤルが従来の一眼レフカメラと同じ位置にあり、さらにOM-1よりも小さくなりましたので、この理屈は説得力を失ったことは確かかも。米谷さんすみません。これはOM-1の悪口ではありません。ちなみにOM-1のアクセサリーシューは着脱可能ですが、MXは固定式ですね。でも大きく見せないような配慮がされている印象です。
 

MXの使い勝手はいかがなものでしょうか。ボディは角ばった印象で、手のひらにはそれなりの抵抗感、いや存在感を示しています。この季節は冷たい真鍮の金属質感が楽しめます。ボディの底部は兄貴分のKXと同様にホールディングカットされています。当たり前ですが、速写ケースを使うとこれはわかりませんからね。カメラはハダカで使いましょうよ。

 

フィルム巻き上げレバーは少しギクシャクした印象で、あまり褒められたものではありません。それでも小刻み巻き上げは可能です。OM-1の巻き上げレバーの動作感触も、決して良いとは言えませんが、トルクは適宜で、MXよりもスムーズな動きに感じます。
 

シャッターは布幕の横走りですが、レンズを装着しないで切ると“パシン”というすこしカン高い響きの乾いたシャッター動作音がします。レンズを装着するとだいぶ落ち着いた音になりますが、OM-1のシャッター音の方が品格がある印象です。いずれも「個人の感想」ですから、オーナーの方は気にされませんように。
 

MXもボディは小さいのにファインダー倍率は大きいですね。50mmレンズ装着のインフの時に0.97倍あります。等倍かよ、って感じです。眼鏡愛用者は全視野を一度に見渡すのが厳しいかも。視度補正レンズを見つけて倍率を落とすなどの方策が必要かも。視野率も95%あります。これは高く評価します。

 

ファインダースクリーンの交換も可能で8種類あります。中古カメラ店ではOM-1のスクリーンはよく見かけますが、MXのそれを見ることはこれまでの経験では稀ですね。MXユーザーのみなさん、スクリーン交換にあまり関心がなかったのでしょうか。方眼マットタイプをお持ちの方は連絡ください。買いますので。ファインダースクリーン交換を可能にしたのはペンタックス一眼レフではMXが初ではないかと思います。それまではサービスステーションでの受注のみ可能でした。
先にファインダー倍率が大きいことを誉めてしまいましたが、MXのスクリーンのマット面のフォーカスの切れ込みはあまり良い印象を受けませんでした。筆者の目が加齢によるためでしょうか、あまり良くないため、そう見えるのかもしれないので、ここからは静かにすることにしますね。
 

MXはシステムカメラとしての展開も抜かりはなく、ワインダーやモータードライブも無調整互換で用意されました。が、これらも中古カメラ店で見かける機会はそう多くはありません。MXユーザーはモータードライブやワインダーの自動巻き上げ機構に関心がなかったのでしょうか。それとも小さなMXにモータードライブをつけて大きくすると、MXの思想が乱れるということで、そこに意義を見出すことができなかったからでしょうか。
ただ、このモータードライブMXは最高速5コマ/秒と、この当時ではかなり高性能です。小気味の良い動きをします。ただ少し使うと油が切れたような動作音が安っぽい印象を与えてしまうことに問題を感じています。筆者の所有する個体のメンテ不足かもしれないけど。
 

長くOM-1ユーザーをやってきたせいか、MXを使うのは当初は抵抗感ありました「オマエ、どっちを選ぶんだよ!」と天から怒りの声が聞こえてきそうでしたし。それでもしばらくするとどんなカメラでも和んでしまう優柔不断な筆者なのです。カメラ博愛主義者ですからね。なんとかしたいぞ、この性格。
ちなみに筆者が強くペンタックスMXに関心を寄せたのは、MXの製造中止の報せを聞き、写真家の大倉舜二さんが7台の新品MXをオトナ買いしたというスキャンダラス(笑)なニュースを耳にしたからです。
あのカメラメカニズムやレンズ描写に厳しい大倉先生が爆買いするのだから、MXは絶対に間違いのない名機であると確信し、背中を押されてしまい入手に走ったというわけですね。
「お前な、買ったのは5台だよ。間違えるなよ!」と、彼の地から大倉先生のあの個性的な声で怒られたような気がしました。そういえばなんとなく5台だったような気もしてきました。
大倉先生には、何かの取材のおりに、イキオイでこの「ペンタックスMX爆買い」のウラを取ったことがありました。意外にもあっさりと認められたので、おそらく間違いではないかと思います。
ただですね、さすがに怖くて正確な購入台数を聞き出すことができませんでした。すみません大倉先生、ここでは7台にしておきませんか? 2台しか違いませんし(笑)

 

アサヒペンタックスMX+smc PENTAX-M 40mm F2.8

こうしてみると角ばった箇所が多いカメラという印象ですね。小さい子供が背伸びしているような愛らしさがあるというか。小さすぎて使いづらい、操作しづらいということはありません。

 

オリンパスOM-1を長く使っているものですから、このサイズのカメラの軍艦部の通常の位置にシャッタースピードダイヤルがあるのが少し羨ましかったりします。どうということはないのですが。

 

フィルム室にパトローネを入れてみると、可能な限りカメラの背を低くしようという努力が払われていることがわかります。これまでのカメラが贅肉があったというわけではないけど、思い切って削ぎ落としたというイメージですね。

 

モータードライブMXを装着。バッテリーはニッカド電池で、LXのモーター用を使用。MX用のバッテリーが見つからなかったので代替えですが、互換性があります。本体から少しはみ出しますが。

 

モータードライブMXの背面。カウンターにあらかじめフィルムの枚数をセットして0になると停止する残数カウンター方式。コマ速度は無段階可変ですね。けれど、最高コマ速は5コマ/秒。フィルム巻き戻し用のモーターはないです。

 

アニキのKXと比較しています。機能面では同じなのに、これだけ小型軽量になると衝撃ですね。KXはそれなりに大きく見えますが、SPとさほど大きさは変わらないんですよね。それだけMXは頑張ったイメージです。

 

 

 

 

 

ASAHI PENTAX MXの製品カタログより抜粋(提供:リコーイメージング株式会社)

 

 

【ASAHI PENTAX MX 性能表】

 

型式=TTL露出系内蔵35mm一眼レフカメラ

使用フィルムと画面サイズ=35mmフィルム・24×36mm

シャッター=フォーカルプレーンシャッター(横走りゴム引布幕シャッター)、メカニカルシャッター B・1秒~1/1000秒、タイム露出可能、シャッターボタンロック付

シンクロ=ホットシュー(X接点・感電防止装置付)、FPおよびX接点(JIS-B型ターミナル、抜け止めネジ付)、X=1/60秒

セルフタイマー=作動秒時4~12秒、始動はスタートボタンによる

ファインダー=銀コート・ペンタプリズム式ファインダー、フォーカシングスクリーン交換式(8種)、標準タイプはスプリットマイクロマット式、倍率0.97倍(50mmレンズ時)、視野率95%、ファインダー内にシャッター速度・絞り値・露出表示(5段階3色LED)、ファインダールーペはSMC、視度調整レンズアダプターM、レフコンバーターM、マグニファイヤーM装着可

ピント調節=レンズの距離環の回転による

ミラー・絞り機構=クイックリターンミラー、自動絞り、絞りプレビューレバー付(セルフタイマーレバー兼用)

フィルム装填=マジックニードル式スプール

手動巻上げ=プラスティックカバー付きレバーによる、巻上角162°、予備角20°、分割巻上げ可能、巻上げ完了表示窓付

フィルムカウンター=自動復元順算式

巻もどし=クランクによる、巻もどし完了表示

レンズマウント=ペンタックス・バヨネットKマウント、着脱角は65°

露出計=開放・中央重点測光式TTL、新受光体GPD(ガリウムヒ素リン・フォトダイオード)、3色LED表示による適正露出合わせ式(緑色、黄色、赤色の5段階式)

露出計スイッチ=シャッターボタンと巻上げレバー連動式、測光範囲EV1~19(ASA100・F1.4レンズ付)

フィルム感度目盛=ASA25~1600

電源=1.5V銀電池G-13型 2個

バッテリーチェック=露出計をスイッチオンにして露出表示用LEDの点灯で確認

裏ぶた=交換式(長尺マガジンMX、ダイアルデータMX装着可)、メモホルダー付

大きさ・重さ=ボディのみ:幅135.5×高さ82.5×厚さ49.5mm・495g、SMCペンタックス-M 50mmF1.4付き:幅135.5×高さ82.5×厚さ86.5mm・735g、SMCペンタックス-M 50mmF1.7付き:幅135.5×高さ82.5×厚さ80.5mm・685g、SMCペンタックス-M 40mmF2.8付き:幅135.5×高さ82.5×厚さ67.5mm・605g

自動巻上げ=ワインダーMX(連続撮影毎秒2コマ、1コマ撮影切換式)またはモータードライブMX(連続撮影最高毎秒5コマ~1コマ可変、1コマ撮影切換式)をボディ下部に装着して自動巻上げ可能

発売時期=1976年11月

発売時価格=48,000円(ブラックボディは3,000円高)

 

関連記事

PCT Members

PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。

特典1「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
特典2書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント
今後もさらに充実したサービスを拡充予定! PCT Membersに登録する