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第20回 スピードライト「クイックオート310」を装着!「オリンパスOM-2」②

2024/03/28
赤城耕一

OM-2+クイックオート310です。当時としては画期的な仕様でした。クイックオート310にはグリップも用意され外部電源も用意された本格的なもので単体でも発光部は上部に向けてバウンスすることもできました。OM-2はスピードライト制御に長けていましたが、少しでも光量が足りないとOM-2側が判断すると、露光量をカバーするためにシャッターが開いたままになる(バルブ状態)になるという欠点もありました。

 

オリンパスOM-2が登場した時って、カメラ雑誌は各誌ともに浮かれていませんでしたか。新しいテクノロジーを搭載したカメラがもてはやされるのは、そこから新しい写真表現が生まれるかもしれないという強い期待感があるからでしょうね。
 

TTLダイレクト測光が注目されたのは、定常光での撮影よりも専用のスピードライト「クイックオート310」を装着したときの露出制御でした。スピードライト光でも、OM-2側で光量がTTL測光で制御されるからです。

 


オリンパスNew OM-2(OM-2N)が登場した時に一新されたのがスピードライトで、専用のものはエレクトリックフラッシュT20、T32となりました。モデルチェンジです。制御方式が違うのか従来のクイックオート310では、OM-2NではTTL自動調光はできなくなりました。

 

(あらかじめお断りしておきますが、このクイックオート310もOM-2も手元にないので、掲載したカメラの画像の一部はのちに登場するOM-2NとエレクトリックフラッシュT20を使用しました。制御方式は違うようですが、実際の使用感は近いのでこれで勘弁してください)

 


T20の中央部分は、計算尺になっており、ISO100設定ではマニュアル発行と絞りf4と8の外部自動調光の選択ができます。なおOM-2本体はマニュアル露出に設定します。AUTO位置になっている時に、T20をマニュアル発光のフル発光設定にするとTTL自動調光になります。

 

今ではカメラボディ側でのスピードライトの調光制御方式を「TTL自動調光」と呼びますね。今はこれすらもあまり言わないのかしら。
 

この当時はオリンパスでは「TTLオート」だったかな、そんな名前だったような。まあ、ここではTTL自動調光で通しますね。調べるの面倒だし。
 

で、とにかくスピードライト使用時でもOM-2はフルに自動化した撮影ができるということが相当なウリだったわけです。
 

通常の自動調光タイプスピードライトでは、スピードライト本体側に光量の制御が任されますから、自ずと使用できるF値と自動調光が使用できる撮影距離が決まります。
 

GN(ガイドナンバー)が大きく高価な製品だと、自動調光撮影でも。3段階くらいでF値選択ができましたが、廉価なものだと選べる絞りは1択だったり。ところがOM-2では理論的には装着レンズの全F値を選択するできます。極端なことを言えば絞りがなくても制御できます。顕微鏡撮影にも使えます。もちろん撮影距離によって制限はありますが、理屈の上で、これはとてもすばらしいことでありますね。
 

もちろんTTL自動調光でも、スピードライトの最大光量は限られますから、撮影距離によっては光量が足りないとか、光源と被写体の距離が近すぎてオーバーになるということもあると思います。でも距離が遠ければ絞りを開く、近い場合には絞るという単純な理屈さえわかれば、F値選択はかなり自由でかつ撮影者に委ねられることになります。

 

マニュアル発光での露出計算式であるGN÷m(撮影距離・メートル)=F値という理屈さえ覚えておけば撮影範囲は容易にわかります。

 


計算尺部分は取り外し式でロックを解除し、ひっくり返すとOM-2N専用のTTL自動調光仕様になります。ご覧のように一切の計算しなくていいと言わんばかりのT20の後ろ姿です。頼もしいですが、実際には…。現代の感覚でそれをいうのは野暮でしょうか。

 

もう一つ、スピードライトは本体から専用のケーブルで繋げば、カメラ本体側に直結して発光させずともTTL自動調光撮影を可能にしています。カメラ側で測光してスピードライトの光量制御を行うのですから当たり前ですね。このため、天井に向けても壁に向けても、発光部を白布などでディフューズしても適正露出が得られるとされました。
 

またベローズや接写リング、フィルターなどを装着しても、露光倍数の読み取りや計算は不要になります。これは驚きでした。とくにマクロ撮影には画期的なアイテムとなったわけであります。
 

筆者は喜び勇んで、この画期的なスピードライト制御を応用できると喜びましたが…。実際の撮影結果はあまり思わしくありませんでした。
 

まずOM-2のTTL自動調光は設定してに制約があります。カメラ側の撮影モードは常にAUTO位置になっていなければなりません。つまりカメラ側がマニュアル露出ではTTL自動調光撮影は不可能なのです。
 

AUTO位置で何が不便かというと、例えば窓をバックに人物撮影をするような場合、カメラは窓の光に明るいと判断して高速側のシャッタースピードになります。
 

仮にその時のシャッタースピードが1/60秒以上の高速になってしまうと、クイックオート310は発光しないのです。絞り込んでシャッタースピードが低速にすれば良いと考える人もいるかもしれませんが、それでは絞り効果や撮影距離、被写界深度のコントロールが制限されてしまうことになります。
 

またTTL自動調光で制御される場合はシャッタースピードは1/30秒近辺に固定されているらしく、これではスローシンクロ撮影ができないのです。
 

スタジオでの撮影は別として、通常の一般的なスピードライト撮影は、その場の明かりを生かしつつ、補助光的にスピードライトを発光させるという手段をとることも多いのですが、シャッタースピードが固定されてしまうと、身動きが取れない気持ちになります。たとえば手持ち花火の光跡を生かして、ポートレート撮影をする場合はTTL自動調光にセットしたままでは難しいでしょう。光跡どころかOM-2は花火を明るいと判断してクイックオート310は発光しないかもしれません。
 

ではどうするかといえば、この時はカメラ側をマニュアルにして、クイックオート310を外部調光かマニュアル発光に切り替えて撮影するしかないのです。これでは普通のカメラと外部調光方式のサードパーティのスピードライトを組み合わせた撮影となんら変わりません。
 

これはですね、その当時、ものすごくがっかりしました。今ではほとんどのカメラはカメラ側がマニュアル露出の設定でもTTL自動調光撮影をすることができますね。フィルムのOMシステムで低速のシンクロによるTTL自動調光撮影を可能にしたのは、ずっと時代が過ぎてからのこと、しかもOM-3Tiだけなのです。これはその項の時に述べます。
 

もう一つ、問題がありました。TTL自動調光時の露出の精度です。これがかなり条件によりバラつきがあるのです。これは被写体の反射率に光量の制御が影響しているから起こります。
 

当然、被写体までの距離情報は加味されることはありません。ラチチュードの広いカラーネガやモノクロフィルムなどでは大丈かもしれませんが、ポジフィルムで正確な露出を得るには相当に難しいのです。
 

それでは、被写体の色や明るさに応じてマメに露出補正すればいいではないかと思われるかもしれませんが、それはかなり面倒です。ちなみに外部調光スピードライトでは、絞りをバラせばことは足ります。
 

何よりも、クイックオート310本体側で光量補正をすることはできませんから、光量の調整は全てOM-2側の露出補正ダイヤルを使うしかないのです。露光補正ダイヤルを使うということは、当たり前ですがISO(ASA)感度ダイヤルを回して、露出補正することと同じ意味になります。
 

露出を手動でブラケッティングしたい場合は外部調光スピードライトを用いて絞りを変える方法があります。また定常光を活かそうとすれば、その強さをみてシャッタースピードを調整すればいいことになります。つまり自動化しすぎたOM-2では、いずれの補正方法も逆に面倒になりました。

 


OM-2Nになっても、TTL自動調光を使用する場合はAUTO位置にする必要があり、撮影者はシャッタースピードを選択できません。ただ、光量が足りないと判断された場合シャッターが開きっぱなしになることはなくなり、途中で打ち切られるようです。

 

当時、いろいろな被写体をクイックオート310つきのOM-2で撮影したのですが、比較的安定感のある露出が得られるのは、マクロ撮影時でした。背景がツブれてもいい、とにかく画面内で大きな面積を占有する主要な被写体だけが綺麗に撮れれば良いという場合には露出のヒット率が高かったことは確かです。
 

OM-2登場時にTTL自動調光撮影が可能になり喜んだのは、昆虫や顕微鏡撮影を行う写真家だと、米谷美久さんは筆者のインタビューで発言しました。
 

昆虫写真の世界で名高い写真家に佐々木崑さんがいます。佐々木さんは木村伊兵衛の弟子で、報道写真を目指していましたが、のちに科学写真の分野で有名になり、昆虫の誕生や羽化などの撮影で注目されていました。
 

OM-2が登場した時に米谷さんは、佐々木さんにお会いして、佐々木さんが自作したマクロ撮影時専用の特別な露出計算尺はこれからは不要になると進言したと発言しました。
 

佐々木さんはマクロ撮影時にスピードライトを使うにあたり、テスト撮影を何度も何度も繰り返して適正露出になるデータを蓄積し、苦心して自分なりの計算尺を作り、これをもとに、マクロ撮影時の露出を決めていました。もちろん仕上がりは万全です。
 

OM-2はマクロ撮影に有利だとして、佐々木さんは、OM-2登場時のプロモーションやカタログのお仕事をされていたはずです。
 

ところがこの当時、佐々木さんは『アサヒカメラ』で『小さい生命』という昆虫写真のシリーズ連載をされていましたが、私が確認したページでは使用機材にOM-2の名は見ることがなく、カメラはライカR3にベローズなどとの組み合わせで撮影されていたことが多かったように記憶しております。あるいはミノルタXEもありましたかねえ。
 

当然、このライカR3にはTTL自動調光機能は採用されてはいませんでした。それとも撮影レンズはズイコーではなく、ライカレンズが良かったのでしょうか。
 

これは筆者の推測ですが、OM-2とクイックオート310の組み合わせでは、先に述べたように被写体の反射率の違いで発光量が変わるので、佐々木さんが満足する露出にならなかったのかもしれません。
 

あるいは定常光を露出に加味して撮影できないことがOM-2をメイン機材として使用しない要因の一つだったかもしれません。もちろんあくまでも推測です。ライカやミノルタは写真家のサポートが手厚かったのかもしれませんね。
 

佐々木さんにインタビューした時にその理由を聞きそびれたなあというか、聞きづらかったわけです。もちろん米谷さんにも。その時も以上のことはわかっていました。筆者はビビったわけです。
 

これはもういずれもかなうことはありません。今、悔しい気持ちです。だらしない筆者で申し訳ないです。

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