MDNを真正面で見てみます。OMマウントと規格は同じだったのでしょう。でも全体のフォルムは我々の知るOMとはまったく違います。装着レンズに「M SYSTEM」の刻印文字がみえます。グリップ上のシャッターボタンが印象的です。このグリップはモーター内蔵のようです。モードラ思想ができるグリップのようですね。
OM-1の話をする前に忘れていたことを思い出しました。
すみません、引っ張って申し訳ないのですが、今回はOMシステム(当初はMシステム)の元祖というか、OMの試作機オリンパスMDN(仮称)の話をします。
MDNはベースとなるカメラ本体に、フィルムバックやグリップを装着することで機能する、すなわちユーザーの好みで、各種ユニットの合体方式を選択できる方式を採用した当時としては驚くほど先進的な35mm一眼レフカメラでした。MDNは、米谷イズムをもっとも具現化したカメラですが、最終的には市販されるに至りませんでした。
背面からMDNを見てみます。巻き戻しクランク部分と思われる箇所にアナが空いたままですね。この時はバック取り外しがNGだったので妄想が膨らみ適当なことを書いております。この角度からみても、MDNの方向性がわかります。
筆者はかつて『アサヒカメラ』にて、OMの設計者である米谷美久さんにOM終焉に合わせて、インタビューを行いました。
主な目的はOM-3Ti以降のOMシステムの展開、つまりOM-5はあったのではないか?ということを米谷さんの口から聞き出すことでした。
米谷さんは「遥かに壮大な計画があった」と語るのみでした。OM-1からOM-4Tiに至るまでのOMシステムの機能的先進性よりも、システムカメラとしての考え方として別の方向性があった、つまり、MDNの構想をはっきりと言いたかったのだと思います。
筆者はこの時に「OM-5はあったのですか?」(現在のデジタルのOM-5とは違います)という嫌味な質問をしてしまいましたが、OMの根底にはMDNの思想があり、筆者はOMの本格的なAF化などの質問もしたのですが、米谷さんはすでに一線の設計者を離れていたこともあり、機能を進化させるという意味で、OM-3TiやOM-4Ti以降のOMの後継機の開発には、もうさほど興味がなさそうでした。
MDNのシステム構想は1969年の初頭に出来上がり、試作機まで作られています。初号機であるオリンパスM-1(OM-1)発売の3年前にこの構想があったことは驚きです。
MDNの基本的な構成はミラーと横走りのフォーカルプレーンシャッターを内蔵した本体にグリップ、フィルムバック、ファインダーとレンズを組み合わせた構成でした。
グリップだけでもバリエーションがあり、手動の折りたたみ式、ストレート、ワインダー内蔵の3種を選ぶことができました。
折りたたみ式はちょうどゼンマイのネジを回すような方式、ストレート型はグリップ本体を90度回せばフィルム巻き上げは完了。ワインダーはいうまでもなく電動式のフィルム巻き上げです。
シャッターボタンはボディ本体側とグリップ側の二ヶ所にあり、ボディのミラーボックスの下部には、シャッター機能を内蔵、シャッターダイヤルをマウントの基部に設けることで小型化を達成しています。この方式はOMにも採用されました。
交換可能のフィルムバックはパトローネを落とし込むタイプのローティング方式で、かなり複雑な形式でした。35mm一眼レフで、フィルムバック交換式とはすごい発想ですが、これはのちのローライフレックスSL2000Fで実現されています。
複数のフィルムバックを用意すれば、撮影途中でもモノクロからカラーに切り替えることもできるわけですね。ただ、実際には、SL2000Fでも問題になったのですが、フィルム面の平坦性を保つのは容易ではなかったようです。
シンクロターミナルはPEN-F系、ミラーアップのノブがデザイン的にOM-1と共通です。とりいそぎ同じパーツを使用して試作機が作られたのでしょう。
ちなみにインスタントフィルムバックも考えられていたようですから、いま、ここにデジタルバックも用意すれば、ハイブリッドな一眼レフとなるのではと妄想してしまいます。
ファインダーも3種ほどが構想にあったようですが、TTLメーターはファインダー内に内蔵する予定だったようです。Mシステム全体をみると、MDNは一眼レフの骨格をなす一つのベースボディにしかすぎません。
ベースとなるボディは4種ほどが想定され、中にはレンジファインダーシステム、レンズシャッター形式に対応するもボディまで用意されており、これもユーザーが目的に応じて、カメラの形式すらも選べるように考えられていたのです。
Mシステムの当初の構想は米谷さんが考えたものですが、ユーザーが自分の好みや撮影目的に合わせて、必要とするユニットとレンズを組み合わせ、理想のカメラを作り上げることができるということが最大のメリットです。具体的にはスナップ、マクロ、スポーツ、風景などの目的に応じて最良のユニットを選択し、組み合わせて形を変えて使うことができる。たしかにこれは素晴らしい発想です。とくに目的がなくても、あれこれユニットやグリップの組み合わせを妄想するだけでも楽しそうです。
そういえば、媒体は忘れましたが、米谷さんは、「とにかく取り外せるものは取り外せるようにしようという考えいた」と発言されていたのを読んだ記憶があります。モータードライブがあるなら、巻き上げレバーも着脱式にすればよいという持論を展開されていました。
実際にOM-1のアクセサリーシューも着脱式にしたこともそんな現れかもしれません。アイディアとしては面白いのですが、撮影時に巻き上げレバーやアクセサリーシューをつけ忘れてしまったボディを持ってくるほうが怖いですから、これらをつけたり外したりするのは、「深夜のカメラとの戯れ時間」のみということになります。
実際に発売されたMシステムのカメラはM-1(のちのOM-1)になりました。これは一台で完結するシンプルなモデルも必要だということで企画されたようです。
OM-1に至るまでの試作機は数多くありますが、この試作機は方向性が違いノーマルな一眼レフにみえます。米谷さんは他社と同じことをしてどうするのだという発言をされていたようですが、怖いなー。
もしかするとOM-1はMDNよりも格下の廉価機ということで企画されたのかもしれず、米谷さんの本意ではなかったのかも。
ただ、MDNがあったから、マクロやモータードライブなどのシステム、交換ファインダースクリーンなど、豊富なアクセサリーを用意し、「バクテリアから宇宙まで」をコンセプトにした、他社の一眼レフシステムに勝るとも劣らないOMシステムを完成することができたのでしょう。そして、現在からみても、MDNはAEやAF、デジタル化などの進化に合わせて十分に対応、展開ができるのではないかと思えてきます。
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