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カメラガガ

27 はてさて

2025/12/29
上野修

「神話で選ぶか、神話になるか。」
 

突然だが、こんなコピーを思いついた。
 

なかなかいい!のではないか?と自画自賛してみたものの、さて、どんなカメラに使えるかと考えてみると、すぐに思い浮かばない。
 

神話で選ぶからには、すでに神話になっていなければならない。
 

カメラ自体が神話化されているのは、どういう場合だろうか。家一軒が買えるといわれた舶来のカメラなどがその類だろうが、そうしたカメラは歴史的にも少ないように思える。
 

かなり多いのが、カメラマンや写真家とともに神話となったカメラだろう。誰々があの写真を撮るのに使ったあのカメラ、というパターンだ。あのカメラで誰々があの写真を撮ったでもいいし、あの写真を生んだ誰々のあのカメラでもいいが、撮影者とカメラと写真をめぐる逸話が練り上げられ、神話になっていく。
 

そうして、あまりにも有名になったカメラのストーリーがある一方で、知る人ぞ知るカメラのストーリーもある。じつは、あの写真家は普及機を愛用しているとかいないとか、いかにも興味をそそられる噂話がめぐりめぐって、熟成しつつ広がっていくこともある。
 

以前少し書いたが、フィルム時代には、撮影者・カメラ・フィルム・テーマの組み合わせが、いわゆる作品のスタイルを形作る大きな要素であった。フィルムも重要な要素なので、特定のフィルム自体が神話になることもあれば、現像処理などが神話になることもあった。撹拌の仕方や、時間の調整など、わずかな違いが秘伝のコツのように広まったり、逆に、描写を壊してしまうような過激な処理が話題になったりした。
 

このあたりは、デジタルが不利な部分でもある。画像を破綻させるRAW現像が注目されることはないし、フォトショップの神技が作品の評価につながることは稀である。デジタル処理は可逆的だからだろう。

 

 

「神話で選ぶか、神話になるか。」に戻ろう。
 

このコピーに合うカメラのモデルは、単数だろうか、複数だろうか。すでに神話になっているフラッグシップ機に憧れ、それを使って自分も神話になろうとするなら、ひとつのモデルだろう。すでに神話になっているという理由でフラッグシップ機を選ぶか、フラッグシップ機でなくとも神話になれるという思いで普及機を選ぶかという場合なら、複数モデルだろう。
 

と書いていて、「神話で選ぶか、神話になるか。」という発想自体が、フラッグシップ機フィルム一眼レフの黄金期のイメージに由来していることに気づいた。
 

具体的には、ニコン F2、ニコン F3、キヤノン F-1、キヤノン ニューF-1といったフラッグシップ機である。ニコンはカメラマンや写真家をフィーチャーした「○○○○のF2。」「○○○○のF3」という広告シリーズがあったし、キヤノンも同様に「F-1で写したプロの自写像」「○○○○の1本勝負」「THE○○○○CONCEPT」という広告シリーズがあった。
 

いずれもカメラマンや写真家と機種名が対等に強調されているシリーズで、そうした広告がきっかけになり、作者に興味を持つようになった人も多いのではないだろうか。もちろん、好きな作者が使っているカメラに憧れた人はもっと多いだろう。カメラと作者と広告の蜜月時代といってもいい。
 

フラッグシップ機の黄金期には、機能を絞った普及機も魅力があるものが多かったし、じっさい、場面によっては普及機を愛用していたプロもいたように思う。普及機でも、フラッグシップ機に負けないような写真を生み出せると思える時代だったのだ。
 

作ろうとしないとなかなか生まれないのが現代の神話だろうが、作ろうとしたからといって作れるものではないのが神話というものである。
 

はてさて、現在、カメラの神話は、はたしてどこにあるだろうか。

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