先日、iPhoneで撮影した写真が、はじめて雑誌の図版に使われたときのことをふと思い出して、ずっとその写真を探していた。その写真は、電車の車窓にカメラを置いて撮ったもので、何枚かの候補に含めて送ったところ、それが使われたのだった。ついにiPhoneで仕事もオッケーになったかと思ったので、どういう写真だったのかも鮮明に覚えている。
覚えてはいるのだが、なかなか見つからない。さすがに十数年前の写真なので、きちんと整理もされていない。さまざまなアプローチで探しつつ、けっきょくiPhoneで撮影した写真をはじめからじっくり見返してみることになった。そんなことをしたのは、たぶん今回がはじめてである。
iPhoneの発表は2007年1月、アメリカ発売が6月。日本上陸は次モデルのiPhone 3Gの発売日である2008年7月11日。私は7月末には入手していたので、比較的早い方だろう。
はじめて撮影したのはどんな写真だったのだろう、と見返したところ、なんのことはない、iPhoneのパッケージを開封したテーブルの上を撮ったありがちな写真だった。それに続いて外で撮ったのは、これまたありがちな近所の風景、そしてそれに続いていたのは、ありがちではない特売のパンの耳であった。高揚感とともに手にしたデバイスで撮ったのがパンの耳だったとは、なんとも情けない。
iPhone 3Gのカメラは、写メのようなものだったということだろう。写メという言葉も、死語になりつつあるので、ちょっと解説しておこう。写メとは「写メール」というサービス名が略されて、一般的に用いられるようになった言葉で、ケータイ(いわゆるガラケー)で写真を撮ること、あるいは、その写真を送るという意味である。写メる、写メ撮る、写メして、といった具合に、少々ルーズに使える、なかなか便利な言葉だった。
考えてみれば、ガラケー時代、カメラとケータイは別のものだったのである。ケータイで撮るのは写メ、写真はカメラで撮るものだったのだ。ケータイのカメラはあくまでもオマケ機能だった。
スティーブ・ジョブズによる、iPhone発表の有名なプレゼンテーションでも、「3つの革命的な新製品を発表する。iPod、電話、インターネット通信機器。これらは、3つではなくひとつのデバイスだ」と説明されていたように、カメラはiPhoneのメインの機能ではなかった。しかし、いまやiPodという名称は消え、電話は衰退していった一方で、付属のカメラは単眼から三眼に出世したことを考えると、感慨深い。
こんなふうに考えていたら、ある疑問が浮かび上がってきた。
iPhoneで撮った画像は、いつ写メから写真になったのだろうか。iPhoneのカメラは、いつオマケ機能から、メイン機能になったのだろうか。スペック的なターニングポイントもあるだろうが、感覚的にはいつごろどう変わったのだろうか。
そんなことを思いつつ、またまたはじめから見返してみた。
けっこう頻繁に撮っていたのは、ポテトチップなど期間限定の袋菓子であった。やっぱりかなり情けない。
翌年の2009年7月に入手したiPhone 3GSになって、ようやく、旅先で撮った縦位置を意識しているように思われる写真が少しだけ出てくる。それでもやはりメモ撮りがメインで、そのほかは、HDRやパノラマのアプリを使った写真や動画が多く、つまり、アプリで遊べる写メを使っているような感覚だったのだろう。
ちなみに、iPhone 3Gのexifにおけるモデル名は、たんに"iPhone"になっていて、それはiPhone 3GSになっていても変わらず、2009年9月になってソフトウェアアップデートがあったのか、ようやく"Apple iPhone 3GS"と表示されるようになっていた。はじめはモゾモゾしていたが、だんだん自信を持って名を名乗るような感じでもあり、ちょっとかわいい(もちろんそんな事情ではないだろうが)。
解像度も1600x1200から2048x1536へと進化しており、使用頻度もあがって私の撮影枚数も増えていた。とくに増えているのは、食べものである。近いものでも撮りやすく、常に手元にあるiPhoneは、目の前にある食べものを撮るのにピッタリだった、ということだろう。
とはいえ、そのころのiPhoneがカメラか? といえば、まだまだそういう感覚ではなかったような気がする。
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