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カメラガガ

22 まだまだ先

2025/08/12
上野修

十年以上、シグマのDP Merrillシリーズを使い続けている、と書いたときには気づかなかったが、ひょっとしてこれは、いままで使ってきたカメラのなかでも、もっとも長い期間ということになるかもしれない。
 

もちろん、十年以上所有していたフィルムカメラもあるが、それは、もしかしたら使うかもしれないという理由であって、じっさいには、ごく稀にしか使わなかったカメラだった。具体的には、一眼レフ数台と交換レンズ数本などは、ずっと持っていたものの、いつ使ったのか覚えてないくらい使っていなかった。
 

特定のフィルムカメラを長い期間使うことがなかったのは、カメラに淫するのはダサいという考え方に影響を受けていたからである。カメラはたんなる道具であり、何らかのテーマのためにカメラを選び、撮影が終わったら、さっさと手放す、そういうのがカッコいいと思っていた。
 

とはいえ、撮影者・カメラ・フィルム・テーマの組み合わせが、いわゆる作品のスタイルを形作る大きな要素であることは、疑いようのない事実である。あの名作はあのカメラで撮影されているという情報や噂が、カメラを選ぶときのポイントにもなっていた。
 

なんとも矛盾しているが、こうした憧れと反発が共存した心情も、かつてはありふれたものだった気がする。
 

デジタル時代になって、撮影者・カメラ・テーマの組み合わせが、作品の決定的な要素になることは少なくなったように思える。必ずしもそんなことはないのかもしれないが、フィルム時代のような神話性がなくなってきたことは確かだろう。
 

それは、デジタル製品が、常にアップデートしていくものだからかもしれない。基本的に、新しければ新しいほどいいのがデジタルの世界なのである。仮に、使い続けたい製品があったとしても、規格や仕様がどんどん変わっていくので、十年、二十年と使い続けるのは至難の技だろう。
 

もっとも、パソコンやデジカメを数年おきに買い替えていかないと、どうにもならない、ということはなくなってきたので、そのあたりの事情は変わりつつある可能性もある。
 

じっさい、DP Merrillシリーズを使い続けていられるのは、デジタル製品についての感覚が変わってきているからなのかもしれない。といっても、バッテリーの入手は難しくなってしまったし、修理もできないだろうから、やはりいつまでも使うことはイメージできない(もちろん、こうしたことをDP Merrillシリーズについてだけいうのは、フェアではないだろう)。

 


 

別の観点から考えてみよう。デジタル製品は、新しければ新しいほどいいけれど、だからといって、そこから生まれたものが短期間しか保たないかというと、そうではない。私は、ワープロやパソコンで書きはじめてからのテキストデータはすべて持っているし、デジタルカメラを使いはじめてからのJPEGやRAWデータもほぼすべて持っている。
 

持ってはいるのだが、持っている意味がよくわからないのである。もはや中身を忘れているデータも多いし、すべてをチェックすることもできない量なので、積極的に持っているわけではなく、捨ててないから持っているという感じである。
 

このあたり、他の人はどうしているのだろう思うが、デジタルカメラが主流になって、まだそれほど時間が経っているわけではないので、そこから何が生まれてくるのか、何らかの答えが出てくるのは、まだまだ先のことなのかもしれない。

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