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7 カメラ化

2024/06/17
上野修

写真を見返してみると、iPhone 3GSのころから、たまに縦位置を意識して撮っていることがあったようだ。iPhone 4Sのころになると、そうした縦位置写真が、はっきりと増えてきている。
 

はじめはガラケーの写メのような画質だったiPhoneも、iPhone 4Sになると、うまく使えば雑誌の小さめの図版に使えるくらいの画質になった。かといってカメラと呼ぶには、ちょっと違う。そんなカメラのようでカメラでないデバイスでしか味わえない感覚が、縦位置にあったのかもしれない。
 

ほとんどのカメラは、横位置での撮影用に作られているので、縦位置で撮ろうとすると、不自然な構え方を強いられることになる。だがiPhoneは、むしろ縦位置で撮影する方が自然である。
 

被写体に正対してディスプレイを見る。レンズの歪みも補正されているせいか見ていて気持ちいい。いや、気持ちいいのはディスプレイのせいかもしれない。なにしろ当時のデジタルカメラの背面ディスプレイに比べたらずっと大きく、クオリティも高い。
 

ガラス越しに現実を見ているという点では、大型カメラのような風情もある(iPhoneのディスプレイだと小さいが、すでに登場していたiPadなら大型カメラなみの大きさである)。すりガラスでもないし、像は反転していないし、かぶりもいらないので全然違うといえば違うのだが。
 

カメラで撮るのとちょっと似ているようで全然違う気持ちよさ。
 

なんて形容すると、少々おおげさだが、iPhoneをカメラとして使っているわけではない(という言い訳をする必要もないのだが)ことと、iPhoneで写真を撮ることを両立するために見出したのが、縦位置でiPhoneだったのかもしれない。
 

縦位置を意識してiPhoneを使うということは、普段歩いている東京を縦位置で撮るということである。
 

タテイチトーキョー
 

聞いたことがあるようなないような、(いささか恥ずかしい)こんなフレーズを思い浮かべながら撮るようになった。

 


 

iPhone 4Sを手に入れた2011年10月下旬から、タテイチトーキョーはだんだん増えていって、2012年には頻繁に撮るようになり、2013年にはだんだん冷めていって、2014年にはフェードアウトするように減っていったようだ。
 

ところで、いうまでもなく2011年3月11日には、東日本大震災があった。
 

2010年6月発表のiPhone 4のホワイトモデルの発売が、製造上の問題により遅れに遅れに遅れ、ようやく発売されたのは、2011年4月28日だった。その時期なら、新モデルを待とうと思いiPhone 4はスキップしたと書いたが、震災直後で、買い替えるような気分ではなかったということもあったのだろう。
 

2011年10月5日には、スティーブ・ジョブズが死去した。iPhone 4S発表の翌日のことである。
 

2011年は、このような年であった。
 

そのような年に(個人的には)キオクやキロクという気持ちにもなれなかったので、そういったものをすり抜けるタテイチトーキョーにまなざしを向けていったのかもしれない。
 

そうだったのだろうか。
 

その証左を見出すために、いまいちどiPhoneで撮影した写真を見返してみると、そんな感傷はフィクションもいいところであることがわかった。
 

たしかに私は、iPhone 4のホワイトモデルをスルーした。しかし、発売日の4月28日には、同日発売のiPad 2のホワイトモデル購入整理券を嬉々としてゲットしているメモ撮りがあったのである。これほどの動かぬ証拠はないだろう。
 

とはいえ、タテイチトーキョーが、メモ撮りの狭間で、こんなふうにシラっと感傷やフィクションを紡ぎ膨らませることができたというのは、やはりiPhoneが私のなかでカメラ化しようとしていた証ではあるのかもしれない。

 

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