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カメラガガ

14 割と普通

2024/12/30
上野修

前回に続き、公式サイトに残っているNEX-5Nのページを、もう少し見てみよう。
 

「製品の3大特長」として並んでいるのは、次の文言である。

 

約0.02秒の高速レスポンスを実現
世界最速の一眼クオリティー

より洗練された新しいナンバー"5"
小型・軽量デザイン

タッチパネル&電子ビューファインダー対応
撮影に集中できる心地よい操作性

 

「世界最速」というのは、「レンズ交換式デジタルカメラにおいて。CIPA測定条件 標準ズームレンズE 18-55mm F3.5-5.6 OSS装着時、シャッターボタンを押しこんでから露光開始までの時間。2011年8月広報発表時点、ソニー調べ」という条件下(たいていこうした長々とした条件がつくものである)で、前モデルNEX-5と比べ約1/5に短縮されているとのこと。さらに、オートフォーカス速度も前モデルの約2倍になっている。
 

めちゃ速かった記憶はないが、もっさりだった記憶もないので、ストレスがない速度ではあったのだろう。精度も、たまに外すくらいの感じだったと思う。とはいえ、後継モデルのNEX-5RではファストハイブリッドAFが採用され、フォーカスの速度と精度がさらに向上しているので、当然ながら改良の余地はあったということだろう。
 

NEX-5は、「デジタル一眼カメラのデザインに欠かせない、レンズ、液晶、グリップ。この3要素のデザインを極限まで研ぎ澄ますことで完成した」という。これが、「ナンバー"5"」の意味である。「より洗練された新しいナンバー"5"」であるNEX-5Nは、「そのオリジナルコンセプトの「板」と「円筒」というシンプルな原形はそのまま継承しながら、さらなる使いやすさ、美しさを追求」したモデルである。
 

「板」と「円筒」、これ、これ、まさにこれだ。思い出した。これこそが、ミラーレスが招き寄せた新たな未来だ、と私が思ったものである。「背面のボタンの配置やグリップなど、あらゆる部分を見直すことで思わず手に取りたくなるようなデジタル一眼カメラ」と形容してあるが、そのとおりである。そのフォルムに惹かれてNEX-5Nを買ったのだった。
 

「撮影に集中できる心地よい操作性」に関してはどうだろう。「さまざまな機能を快適に操作できるコントロールホイールやソフトキーとタッチパネルを組み合わせて使えば、より直感的にカメラの設定が行えます」とあるが、この説明からしてすでにややこしい。

 

しかし、「操作に迷わないように、ボタン数を最小限にし、項目選択や画面スクロールが容易なコントロールホイールを採用」という方向性自体は先進的ではあったわけで、できるだけそれを受け入れようという気持ちで使っていたように思う。デジタル時代の直感的なカメラ操作はどうあるべきかというのは、語りはじめたら終わらないような問題なので、ここではおいておこう。
 

さて、このような板と筒は、どのような写真を生み出してくれただろうか。NEX-5Nで撮った写真をあらためて見返してみた感想をひとことでいうなら、割と普通、である。

 

               
 

はじめの頃はスイングパノラマやオートHDRといったデジタルならではの機能を使った写真を撮っていたりもするが、こういった機能はすでにコンデジに搭載されていた機能の本格版なので、さほど新鮮味はない。
 

そういった特別な機能を使っていない写真は、おどろくほど普通の写真である。これはもちろんカメラのせいではない。板と筒としてのNEX-5Nを持って、新しい写真が撮れるはず、新しい写真を撮りたい、新しい写真を撮ろうと力んだ私が、むしろ普通の写真に回帰してしまったということなのだろう。
 

革新的なフォルムだからといって、革新的な写真が生まれるわけではないという、自明のことがわかったにすぎなかったわけだ。

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