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カメラガガ

12 なにもしてないのに

2024/11/04
上野修

GR DIGITAL IVとの別れは、ある日突然訪れた。
 

電源スイッチを押しても、うんともすんともいわない。
 

バッテリーを入れ忘れたのだろうかと思ったが、しっかり入っている。バッテリー切れかと思い、満充電のバッテリーと入れ替えてみたがやはり反応しない。
 

うんともすんともいわない、というのはこういうことかと、はじめて実感した。もちろん、軽く振ったり、叩いたりしても動かない。昭和の家電ではないのだから当然だ。
 

このようになぜか動かなくなってしまったときに期待するのは、なにもしないのになぜかまた動くようになることである。
 

しばらくそのままにしておいて、半日ほど経って電源スイッチを押してみたが起動しない。一日待ってみても起動しない。数日忘れたふりをして何事もなかったように電源スイッチを押してみたが、やはりうんともすんともいわない。
 

このあたりでようやく、故障したという事実を受け入れざるをえなくなってきた。
 

さて、どうするか。
 

どうするかといっても、どうしようもないのだが、GR DIGITAL IVがないと困るシチュエーションがないか考えてみる。当面、なさそうだ。いや、当面どころか、しばらくなさそうである。しばらくというか、なくても困らないのだ。
 

困ったことに、GR DIGITAL IVがなくても困らない。
 

以前書いたように、「写真」を撮るための「カメラ」として買ったのがGR DIGITAL IVである。GR DIGITAL IVがなくても困らないということは、「カメラ」がなくても構わないということであり、さらには「写真」を撮らなくても構わないということになる。
 

じっさいのところ、「写真」を撮らなくて困ることはなにもない。もちろん困る場合もあるだろうが、道楽で撮っている場合は困らない。だからこそ、そのことが露わになるのは困るのである。では、道楽とはなんぞや、などと考えることもあまりよろしくないだろう。
 

道楽(というほどのものでもない)とはいえ、心残りがあるとすれば、GR DIGITAL IVでの縦位置撮影をあまり試みなかったことかもしれない。横位置での撮影用に設計されたカメラを縦位置で使うのは、けっこう違和感がある。そこを使いこなして、縦位置ならではの写真を撮ることに対する憧れがあるのである。
 

しかし、GR DIGITAL IVを入手した頃は、iPhoneの縦位置で東京を撮るタテイチトーキョーに現を抜かし、それに冷めつつあった頃でもあった。そんなこともあり、GR DIGITAL IVで意識的に縦位置を撮ったのは、ほんの数回くらいだったかもしれない。

 


 

それに、35mm換算で28mmというGR DIGITAL IVの画角は縦位置を撮るには広すぎる。できれば50mm、しかし50mmは苦手なので、40mmか60mmくらいがいいかもしれない。などと、いくらでも思い浮かぶ縦位置で撮らない口実を思い浮かべながら、GR DIGITAL IVを縦に構えることを先延ばしにしていたのだった。
 

けっきょく、GR DIGITAL IVとはそのまま別れることになった。車窓スナップ専用機のようになっていたし、最後に撮っていた写真はやはり車窓スナップであった。
 

ある日突然、なにもしてないのに壊れたかのように書いてしまったが、なにもしてないのに壊れたという場合、かならずなにかしているのが常であるように、ほんとうはなにかしてしまっていた。
 

GR DIGITAL IVを宅配便で送るさいに、クッションがわりにタオルに包んでおいたのだが、梱包を開けたときには案の定そのことを忘れていて、タオルをほどいたら、ゴトっとカメラが床に落ちたのである。こういうことになりそうだと思いつつ、つい包んでしまったのだが、そうなりそうだということはたいていそうなるという、いい教訓になった。
 

しかしそれにしても、外装はまったくきれいなままなのに、うんともすんともいわないのは不思議な気分だった。バッテリーと充電器は、シグマ DP Merrillシリーズにも流用できるのが、せめてもの救いである。
 

このようなことを振り返りながら眠りについたある夜、この時期、別のカメラも買っていたことを夢のなかで唐突に思い出した。次はこのカメラについて書いてみることにしよう。

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