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カメラガガ

21 うとにま

2025/07/14
上野修

シグマのDP Merrillシリーズに搭載されたMerrillセンサー(Foveon X3ダイレクトイメージセンサー)の描写は独特で、RAW現像によってその魅力を最大限に発揮する。現像した画像を見てうっとり、拡大してにんまりしてしまう、と以前書いた。このあたりをもうちょっと掘り下げてみたい。
 

写真のあがりを見て、うっとりにんまりする。勝手に自分だけで堪能している分には、別に悪いことではないだろう。では、いいことかというと、なかなか堂々といいとはいえない気もする。
 

写真が好き、くらいまでは微笑ましいだろうが、好きが高じて、写真に浸る、写真に淫する、写真に溺れる、となってくると、だんだんあやしくなってくる。なにかを撮って、うっとりにんまりする、のではなく、うっとりにんまりしたいから、撮るなにかを探したりするようになると、本末転倒で、写真に淫するはじまりである。本末転倒でいささか恥ずかしい話なので、ここでは、あえてちょっとわかりにくく、そうした感触をうとにまと呼ぶことにしよう。
 

そんなうとにま度が高い写真を生むDP Merrillシリーズだが、カメラとしてのうとにま度はどうだろうか。ルックスはものすごく普通で、触ったり構えたり撮ったりしたときの操作感が特別なわけでもないので、うとにま度はとても低いようにも思える。
 

いうまでもなく、誰が見てもわかる高価な舶来(というのは死語かもしれないが)のカメラや、超高性能の最新カメラのうとにま度は高い。顔にうとにまと書いてあるんじゃないかというくらいわかりやすい場合すらある。嫌味といえば嫌味だが、それは買えないものの僻みでもあって、いっちゃんいいやつを堂々と見せているという意味では、ストレートで潔い。

 

では、フルサイズじゃないし、ズームもないし、電池も持たないDP Merrillシリーズを使っていると、いっちゃんいいやつを横目で舌ウチひとつ、妬んでしょんぼりするかというとそうでもない。
 

DP Merrillシリーズは特殊なので、いっちゃんいいやつマウント(と書くとまぎらわしいが合戦の方である)に加わる必要がない、というか加われないのである。そして、このドロップアウト感も、けっこううとにま度が高かったりするのだ。

 


 

機材マウントからドロップアウトするということは、なにも知らない方が強いわけで、よくわからないけれどのDP Merrillシリーズを買っちゃいましたという風情の方がいい。というわけで、持ち歩くときには、あえてダサめに首から下げたりするのがいい。などと考えて使うのは、かなり屈折したうとにまである。
 

DP Merrillシリーズのラインナップが、広角と標準と中望遠の3種類だというのも、なかなかよくできている。同じようなルックスのカメラを4台持って歩いているのは変人だろうが、2、3台ならぎりぎり普通に見えるだろう(見えるはずだ)。どの組み合わせで使っても、わかってないような、わかっているような、やっぱりわかってないような趣なのがいい。このあたりの屈折も、うとにまできるツボである。
 

と、ぐずぐず書いてきたが、DP Merrillシリーズには、こうした屈折したうとにま性があるような気がするのだ。
 

いや、それは、使っている私の屈折か。
 

と、こんなことを考えつつRAW現像し、うとにまするのは、相当に悪趣味である。うとにまの倒錯感は、悪趣味で中和されるのか、あるいは、増幅するのだろうか。
 

このあたりをずっとうとにましながら確かめるともなく確かめてるのかもしれない。

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