AE-Sファインダーを装着したX-1ですね。受光素子がSPDのため、動作に限っていえば、安定感のある動きです。見た目はゴツくてなかなか迫力がありますね。
1973年にミノルタ初のフラッグシップX-1が登場します。
ここから「Xシリーズ」が始まりますね。断る必要はないでしょうけど、フィルム会社の同じ名前のシリーズとは違います。わかっていても、年寄りは同じ名称のシリーズを使うことは賛成しかねず、ずっとひっかかっているですけどね。老害ですみません。
旗艦機というのは、シリーズの中でも最高峰、いや、メーカーを問わずして、最高性能を有していなければなりません。
しかもキヤノンと同じ「1」の称号が冠されておりますが、この当時ミノルタがやりたかったことは、世界初のフラッグシップのAE(自動露出)化なんだろうなと。
中央のボタンはシャッタースピードダイヤルロック解除ボタンですが「AUTO位置からは低速側にしか動きません。変態です。実際はマニュアル露出を多用する筆者は暴れたいです。
すでに登場していたニコンF2、キヤノンF-1でもAE化は(一応)達成していました。仕組みを話すと長くなるので端折りますが、いずれもサーボモーターの力によって、設定シャッタースピードに対して、適正露出になるまで絞り環やレバーをモーターによる力技で動かすEE方式でした。無理ありすぎですね。
X-1はね、おそらくニコンF2とかキヤノンF-1を超えると言ってしまえば恐れ多いけど、肩を並べたかったんだと思いますね。だからミノルタはそれらのカメラと伍すために、最初から絞り優先AEを使用することを前提とした電子シャッター搭載フラッグシップカメラを企画したんじゃないですかねえ。ムリしたよなあ。
でもね、これまでの連載でも何度も書いてますけど、この当時のプロはAEで撮らないんだよね。
理由は過去いろいろと書いていると思うので、バックナンバーをあさってください。ただ、フラッグシップ機といえども、ほとんどのユーザーはアマチュアのみなさんですから、AE化は魅力あるカメラとなるためにはもう必然だったのだろうなと思います。
フィルム巻き戻しクランクです。ボディ全体のサイズからすれば小さいです。こんなろころをニコンF2の真似しちゃいかんね。オリンパスOM-1あたりを見習うべきですよね。アクセサリーシューはないから、フラッシュにカプラーが必要です。
X-1の凄さというか変態なところはボディ単体ではAE機にならず、専用の交換式のAEファインダーを装着することで、はじめて絞り優先AE機になることです。このあたりはニコンFやF2のフォトミックファインダーと似ているかもしれないですね。
でもね、電子シャッターを搭載しているのですから、専用ファインダーを使わないとAE化しないというのが、どう考えてもありえない仕様ですねえ。現在、中古市場にあるX-1はAEファインダーがついている個体がほとんどでしょうから、ツッコミどころは薄いと思いますけど。
X-1のこの交換式ファインダーって、なんだかまるで、それがフラッグシップの資質を証明するためというか、無理やり用意した感じすらします。
当然のことながらファインダーが交換できますので、フォーカシングスクリーンも交換することできます。ファインダー倍率は0.8倍、視野率は98パーセントとアナウンスされていますから同時代のニコンF2にはわずかに及びません。ファインダーのフォーカスの切れ込みはSR系カメラよりはマシですが、特筆すべきことはないですね。
AE-Sファインダー側にある電源スイッチです。大きさからすれば、これをあまり使ってくれるなということにもみえます。三脚などを使用する場合に使うんでしょう。OFF位置でもボディ側の電源ON、OFFプレートに触ると起動します。
すべてのX-1用交換ファインダーの種類は覚えていませんが、X-1にはAEファインダーのほかにM(マニュアル露出専用)ファインダー、メーター非内蔵のP(プロフェッショナル)などがあります。電子シャッターですから、どのファインダーを取り付けても、バッテリーは必要になりますし、先に述べたようにAEとAE-Sファインダー以外はAE撮影できません。はい、見事なほどの変態確定ですね。
当時はフラッグシップ機はどのような状況、条件でも撮影を可能とするカメラということで、メカニカルシャッター搭載であることを必然としていたようなところがあります。電子シャッターはフルメカニカルシャッターと比較して、耐久性に問題もあると思われ、あまり信頼されていませんでした。先達の同業者が当時のAE一眼レフを称して「エレキカメラなんか使えるか!」と言ってバカにしていた記憶があります。
ニコンがフラッグシップに電子シャッターを搭載したのはF3からですよね。キヤノンはNew F-1でも電子とメカのハイブリッドシャッターを搭載しましたが、これもバッテリーがなくても動作しなければ困るという当時のプロからのクレームを避けるためでしょうか。いちおうX-1はメカニカルシャッターを捨てたわけですから、カメラ好きとしては評価したくなるわけです。
露光補正ダイヤルを使うには専用ダイヤルのロックを解除する必要があるのです。このロックピンは上にスライドさせて使う厄介ものです。しかも露光補正量は1/2刻みと粗いです。やる気がなくなります。
前人未到の地に撮影に行くなどという特殊な目的のためならカメラは慎重に選ぶ必要はあるのですが、カメラ用バッテリーなんかコンビニでも売っているんじゃねえのと、都会暮らしが好きでそこで撮影していることが主な筆者は、思いましたけどねえ、プロって慎重なのねえと、学生のころは横目でみてました。
X-1の基本的な組み合わせとなるAEファインダーは受光素子がCdsのもの、SPDのAE-Sファインダーの2種があります。
後者は、のちに出てくるモータードライブ専用機のX-1 MOTOR用に開発されたものですね。連続撮影するから受光素子の応答速度が速くないとマズぜということで企画したんでしょう。
ただね、このAE-Sファインダーは悲惨ですね。ファインダー内のシャッター速度表示はデフォルトで1/2000-1/30秒まで。それ以下のスロー表示が省略されています。意味がわかりません。1/30秒以下はS(スローの意でしょう)表示の横に、▼で示されます。
ファインダーを取り外してみます。金メッキされた懐かしめの接点が露呈します。取り外しはたやすいのですが、装着には少しコツが必要です。
スロー秒時のシャッタースピード表示をするには、ファインダーの脇にあるボタンを押す必要があります。ったく、暴れたくなるような面倒な仕様です。もっともファインダー内情報とか、あまりよく見ていない筆者の場合は、こういう不親切変態表示でも、唯一無二のものであれば、我慢できちゃうフトコロの広さがあるわけです。
ミノルタX-1実際の使い勝手はどうでしょうか。
まず、ものすごく重たいですね。必要以上に。ま、今では完全な趣味カメラですから重たいのはいいでしょう。ところがファインダーのカバーの厚みとかは薄く、少しブツけても確実に凹みます。コレクターの方は過保護に扱ってください。
メーターのスイッチはボディ右前の長方形プレートを押すことでONになります。手持ち撮影ではイヤでも間違いなく自然に触れる箇所ですから、位置的には正解かもしれませんが、プレートがわずかにペコペコして気持ち悪いですね。
ボディ右前面にあるメインスイッチですね。動きが浅くペコペコなんで、ウエハーのお菓子みたいな感じ。電源ON/OFFの掌握はよくわかりません。
また筆者のホールディングが悪いのかプレートが長いためか、プレートをうまく押せずに電源が入らないという事態もまれにありました。こういうことに気をつけるというのがイヤですね。先に述べたように、当時、AE機はバッテリーの消費問題がありましたから、少しでも省電設計とするためでしょうか。
でも三脚撮影などボディに指が触れることができない場合にはAEファインダーには別に常時電源を入れることのできる切り替え電源スイッチがあります。この方が撮影時には確実なんですが、スイッチを切り忘れないように注意が必要です。
AE-Sファインダーですね。前機種AEファインダーよりゃスマートですね。向かって右側面にあるボタンはファインダー内でスローシャッターの秒時を示す時に使います。
フィルム巻き上げ角はびっくりするくらい小さいですね。巻き上げのトルクはまずまずですが、後のXEと比較するとそれなりに重たく、フィルムが進むにつれ重くなります。それでもニコンF2よりかはマシかな。
シャッターはチタン幕の横走りフォーカルプレーンです。幕速が速いのでシンクロ速度は1/100です。シャッター音は小さめでなかなか心地よい乾いた動作音なのは好きです。
P(Professional)ファインダーを装着。メーターを使用しない人のために用意されました。多少はボディの重量は軽くなりますけどね。でもカメラの動作にバッテリーが不可欠であります。目眩すらする仕様であります。
多くのユーザーはこのAEファインダーつきのX-1を購入したようです。船底みたいなカタチをしております。デカいです。
ものすごく失望するのはX-1には着脱式のモータードライブが用意されなかったことです。
これは万能カメラを目指すフラッグシップ機としてはありえない仕様ですねえ。当時、この仕様をみたミノルタユーザーの間では暴動が起こらなかったのでしょうか。オトナなユーザーたちですね。モータードライブは特殊なものだったのですね。
先にちょっと書きましたが3年後にX-1 MOTORという本機をベースとしたモーター専用機が登場するのですが、なんとモーターは固定式で、取り外すことのできない、ものすごくデカくて重たいカメラとして登場してきました。
それなのにコマ速は最高3.5コマ/秒ですから、今考えると絶望的なロースペックです。どなたですか?この設計した人は。たしか当時、国産一眼レフとしては最高額、最高重量だった記憶があります。
でもねカメラ変態、じゃない博愛主義者たる筆者はこれも一時期所有していたことがあります。
だって、唯一無二の無骨なデザインと重量、ムダの塊にココロを奪われたわけであります。ところがここでも問題が露呈しました。バッテリー室の蓋が折れやすく、かなり早い段階で修理不能になり、うちにいらした個体はお亡くなりになりました。これはけっこうがっかりしましたけどね。それこそ詰めの甘さだったのです。
X-1 MOTORは一時は仕事にも使用していたし、カメラ好きが集まる酒宴では、かなりウケが良かったんですね。空シャッター切るには裏蓋開けないといけないんですよ。そんなパフォーマンスを利用しちゃいけませんが。
ボディがデカいのに、「X-1」のロゴが小さく、力がありません。こんなことも存在感が示せなかった理由があるんじゃないか。好き嫌いが多くてデブになったヤツみたいなイメージです。筆者のことじゃないです。
そういえばX-1 MOTORを使用していることで有名な写真家に高橋曻(1949-2007)さんがいました。「オーパ!」で開高健さんを撮影してました。高橋さんは篠山紀信さんのアシスタントをしていたこともあり、ミノルタの機材をお使いだったのでしょう。
それにしても、どうもミノルタってモーター関係システムが弱いんですよねえ。ミノルタXEをベース機としたライカR3にだってモーターは用意されてたんですぜ。
X-1って売れなかったんだろうなあ。登場から半世紀を超えた現在、中古市場で見かけることは少ないですもんね。これは電子シャッター搭載カメラだからということだけではなさそうです。
木村伊兵衛と当時のミノルタカメラの創業者、社長である田嶋一雄さんとの対談が収録されている本を見つけましたので、X-1登場のくだりを抜き出してみました。
- 田嶋「カメラの用途が多極化してきましたからね。(中略)どんな用途にも好きなものを選んでつけてもらうというので、ペンタプリズム(交換ファインダーのこと)が四、五種ある。そのうちの主たるものにEE装置をして、EEがいらぬものはほかのペンタプリズムを使ってもらう」
- 木村「そうするとニコンフォトミックみたいになるわけですか」
田嶋「そうです(中略)しかもEEの仕掛けを仕込んであるのです。つくるのにだいたい六年かかっております。それから専用のICを作るのに二年半かかった。まあ売れるか売れんかわからんけれども」
木村 「田嶋さんはカメラが好きなんだな」
田嶋 「やはり好きですよ。きらいじゃない(笑い)」
『木村伊兵衛 対談・写真 この五十年』(朝日新聞社・昭和50年)より
やはり当時のミノルタの目標はフラッグシップのAE化を達成しつつ、ファインダー交換を同時に行うことができるモデルにするのが目標となっているようです。
田嶋さん、あれこれ、カメラにいろいろな交換ファインダーをつけられるようにして“味変” させたかったんじゃないのかな。これがX-1だったと。でもねユージン・スミスはX-1を使用していなかったと思うな。すべてのカメラ製品というのは「売れるか売れないか」のバクチになるわけですが、田嶋さんは最初から自信がなかったのかな。そんなに強気じゃなかったんですかねえ。それでなんとかXEで溜飲を下げたとか。
何よりもニコンF2やキヤノンF-1よりも高額な価格設定をして勝負するってのは相当な英断だったんだろうなあと。ここでも変態さが露呈しますよね。もちろん筆者は変態カメラだから欲しいんだけど。
PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。