ミノルタSR-T101 MC ROKKOR58mmF1.2つき。このレンズ大倉舜二さんが好きでした。機能的にシンプル。大きく重たい一眼レフですね。重量級レンズの方が似合うのですが、ボディ単体重量だけで705gありますから覚悟が必要ですね。
筆者はミノルタの名前をきくと、海外の写真家ではユージン・スミスのことを思い出してしまいます。
ジョニー・デップが世界的な報道写真家ユージン・スミス(1918-78)を演じた映画『MINAMATA』(2021年)はご覧になりましたか?
ユージン・スミスは1971-74年にわたり、水俣に住んで水俣病に関する写真取材を続けました。そして1975年に写真集『MINAMATA』を出版します。
ユージンが手にしているカメラの多くはミノルタのSR-T101かSR-T SUPERのようです。なぜユージンはミノルタ(現コニカミノルタ)のカメラを選んだのでしょうか。
諸説ありますが、有名なエピソードとして、ユージンが日本での取材時に新幹線の中でライカをはじめとする撮影機材一式の入ったカバンを盗まれ、困りはてていたところ、ミノルタがユージンに手を差し伸べ、機材を提供したこという話が都市伝説化しています。なんという粋な計らい、美談なのでしょうか。でもね、この話はどうしてもウラが取れませんでした。
SR-T101のマウント部。「ミノルタSRマウント」と呼ばれたり、「ミノルタバヨネットマウント」という呼び方もされたりします。最近では「MD」と書いていたり。これはミノルタXD以降の両優先対応のMDロッコールレンズ登場後につけられた名称ですね。11時方向にあるのがMCロッコールの爪とカップリングするレバー、1時方向にあるのはレンズ取り外しピン。7時方向にあるのはプレビューボタンです。
シャッターは布幕の横走りフォーカルプレーンシャッターです。シャッター音すげーデカいです。ドキュメンタリーの取材現場ではうるさいんじゃないのかなあ、ユージンはよくこんなデカい音のカメラ使ったよなあ。
水俣取材の時にユージン・スミスのアシスタントを務めたのは写真家の石川武志さん。原宿で偶然見かけたユージンに声をかけたことがきっかけです。
石川さんの話によれば、先の話は聞いたことがないと。まぢかよ。
プレビューボタンですね。ボタンというよりシャフトか。なんか大袈裟です。撮影画像は見られませんから念のため。絞りが絞り込まれて、被写界深度が確認できます。正確じゃないけどね。
レンズ着脱ボタンです。なんでこんなところに位置していて、小さいんだろうと。深い考えはなさそうだけど。操作しづらいですなあ。
ユージンはサポートをお願いした日本のあるカメラメーカーに断られ、その話を聞いたミノルタがユージンの希望を聞き入れてサポート協力したのではないかということです。映画にも少し触れられますけど、ユージンが過去、仕事先やLIFEなどの媒体と色々なトラブルを抱えていたことが問題となったのでしょうか。いずれにしろ協力した当時のミノルタはさすがです。
マウント部の右にあるのがミラーアップレバーです。初期から中期までは存在していましたが後期になると省略されます。その理由はミラーアップして使用する広角レンズがなくなったからです。早い話がコストダウンしたわけです。
映画『MINAMATA』にもミノルタSR-T101あるいは、SR-T SUPERと思われるカメラが頻繁に出てきます。SR-T101の発売は1966年、改良型のSR-T SUPERの発売は1973年で、ユージンの水俣滞在と同時期で現役バリバリの時期です。
ただ、SR-T101かSR-T SUPERは、価格帯からみてプロ用機とは言い難いですね。モータードライブの装着も最初から考えられていません。モータードライブ=報道用と考えてしまう方が偏見かもしれませんが、ミノルタSRシリーズで唯一モータードライブが使えるのは、モータードライブ一体型のSR-Mのみ。
ミノルタSR-T100というのもありましたよ。1の刻印を間違えたエラーモデル。じゃないです。セルフタイマーがないことがわかります。セルフがないとプロのアイテムっぽくみえます。そうでもないか。
登場は1970年でしたから、ユージンが使用していてもおかしくはありません。けれど石川さんの話ではユージンはSR-Mは選んではいませんでした。重たいからというのがその理由らしいですが、筆者は何かの媒体でSR-Mを手にしたユージンの写真を見た記憶はあります。
ユージンが「緑のレンズ」として名を馳せたミノルタのロッコールレンズを愛でたとか、SR-T101の大きなシャッター音を聞きながら愛飲していたサントリーレッドを飲みながらSR-T 101の空シャッターを切っていたという話は聞こえてはきません。
SR-T100上部にあるシャッタースピードダイヤル。最高速シャッタースピードは1/500秒となってしいます。1/1000秒を省略するとコストは下げられたのでしょうかねえ。ペンタックスSPとかにもありましたよね。輸出専用機に多く見られます。このカメラはオーストラリアで入手しました。
ミノルタSR-T101やSR-T SUPERは個人的にも好きなカメラですが、中古市場では絶望的に不人気です。色気に乏しいからでしょうか。機能的に平凡だからかな。デザインはたしかに無骨ですね。周囲に見せびらかして自慢できるタイプのカメラでもありません。
ミノルタSR-T101とはどんな印象のカメラが具体的にお話ししますと、大きな特徴は、MCロッコールの名称のレンズを装着すると開放測光で使用できることです。
SR-T100Xってのも出てきましたよー。買った記憶ないんだよなあ。SR-T100に1/1000秒を加えていますが、セルフは省略したままですね。これこそブラックボディ欲しくなりません?ならないか。
まだ開放測光と絞りこみ測光のどちらが優れているかとカメラ雑誌で論議された時代です。しかも、SR-T101ではレンズ交換時にニコンのようにボディにレンズの開放F値を知らせるための所作は不要です。先進です。ニコンより優れています。レンズ前の「MC」の名称とは「マルチコート」ではありません「Meter Coupler」の略ですね。MCレンズにはTTLメーター用の絞り環にボディ側と連動する爪が備えらました。MC名称がない以前のロッコールレンズも装着することができますが、この場合は絞りこみ測光になります。
当時のミノルタSR-T SUPERと101のカタログです。1974年印刷と書いてあります。薄いですね。あまり語ることがなかったのでしょうねえ。無理もないか。版型はB5です。ミノルタのカタログはこの頃は小さいんですよね。謙虚な会社だったのかしら。そうでもないか。
さらにSR-T 101には他のメーカーにはない測光のこだわりがあり、ミノルタが誇るCLC(Contrast Light Compensator)方式が搭載されています。
「CLC」(Contrast Light Compensator)の文字が銘板の脇に控えめにエングレーブされています。誇りたかったんでしょうか。世界初の分割測光とはいうものの、縦位置の時に機能しないんじゃないのか?ん?とツッコまれるとイヤだから記号みたいな目立たない大きさの文字にしたのかな。
これはペンタプリズム内に画面の上部と下部をそれぞれ別に測光するCdsを配置し、これを直列につないで双方の輝度の平均を測光しようというものです。空からの影響を受けにくくしようとする、現在はどのカメラに搭載されている分割測光のハシリです。縦位置で測光したらどうなるかというツッコミはここではやめておきます。
ボディ底部にあるメーター用のスイッチですね。ボディをひっくり返して親指の腹で回します。あら、こそばゆい。バッテリーチェックもこちら。うちのSR-T 101くんにはバッテリー入れたことはありませんが、メーターの作動だけならONのままでも持ちそうだけどね。
ユージン・スミス、いや、ジョニー・デップが手にしたミノルタSR-T101ですから、中古市場では見直されたり、人気が出るのかしらと予想して中古カメラ店で聞いたところ、あいかわらず変わらず動きが悪いということです。かわいそうです。でも入手するにはチャンスだと思いますよー。先日も某カメラ店で本日のランチ代くらいで売られておりましたぜ。こうして使いもしないカメラが増えてゆくのでした。
PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。