top コラム推すぜ!ミノルタ第3回 CLは「コンパクト・ライカ」の意、Mマウント互換のレンジファインダー機「ライツミノルタCL」

推すぜ!ミノルタ

第3回 CLは「コンパクト・ライカ」の意、Mマウント互換のレンジファインダー機「ライツミノルタCL」

2024/07/26
赤城耕一

スクリューマウントのキヤノン25mmF3.5をM-Lリングを使いCLに装着。筆者は「北井一夫モデル」と命名しました。昔のSF映画に出てくる宇宙服のヘルメットみたいなファインダーもデカくて好きです。北井さんもこのファインダーをつけて撮影していたのでしょうか。

 

ミノルタCLE(1981年発売)の話が先になってしまいましたけど、今回はライツミノルタCL(1973年発売)の話です。
 

私がCLをはじめて意識したのは北井一夫さんが『アサヒカメラ』で「村へ」を連載されていた1970年代の前半の頃です。
 

北井さんはライツミノルタCLにキヤノン25mmF3.5を装着してよく使用されていました。
 

あの粒子が粗く、シャドーの中に何かが潜むような作品を木村伊兵衛は「あのツブツブが」と言ってましたけど、当時、少年だった筆者のココロに響いたのでした。もっとも筆者は真面目でした(笑)から、ミノルタのカメラにキヤノンのレンズを装着するのは反則なんじゃないかと考えておりました。

 


フィルム巻き上げ、すなわちシャッターチャージすると、収納されていたCdsが出現します。レンズ後玉後に位置して測光します。本気のダイレクト測光です。

 

トポゴンタイプのレンズ構成のキヤノン25mmのシャドーがカブるようなヌケの悪い描写が北井マジックを生み出したのでしょうか。結局、しばらくしてから、この組み合わせを真似して、筆者も撮影をはじめることになります。ちなみに北井一夫さんは、この作品で第一回の木村伊兵衛写真賞を受賞しています。

 

ライツミノルタCLは筆者にとっても事実上の“初ライカ” ということになりました。ライツミノルタCLはライカじゃないよという声もありましたが、中身は同じです。ライカの神様である木村伊兵衛が「あれはライカだ」と発言したのを何かで読んで、筆者は自信を深めましたね。
 

ライツミノルタCLは「ライツ」と「ミノルタ」というカメラメーカーのダブルブランドネームですが、これは日本発売のみのネーミングで、海外では「ライカCL」という名前で同時期に登場しました。あ、ライツは企業名で、そのカメラだからライカですからね。“ライカ社” が出来てからというもの、いまも混乱してしまいます。
 

CLは「コンパクト・ライカ」の意味です。用意された交換レンズはMロッコール40mmF2と90mmF4。

 


ローライ35RF用の標準レンズとして登場したゾナー40mmF2.8を装着しました。あのローライ35に搭載されたレンズをライカスクリューマウントに移植したものです。よく似合うし、よく写ります。

 

CLの製造はすべて日本で行われました。1970年に当時のエルンスト・ライツ社(現ライカ社)がミノルタにCLが生産できるかを打診して、ミノルタがこれを受諾し、製品化されたわけです。ライツの非効率な設計によって、生産現場では悩まされたという話も聞いています。
 

両社の提携が公式に発表されたのは1971年です。ライツとしてはコストを下げてCLを生産したかったのでしょう。日本を除く海外ではライカCLに用意されたレンズはそれぞれズミクロン40mmF2とエルマー90mmF4名になりました。基本的に同じ光学設計のレンズです。ただ、40mmはロッコールとズミクロンではフィルター径やフードの形状が違います。少し差別しておくかというニュアンスですかねえ。よく知られていると思いますが、ロッコールよりズミクロン40mm F2のほうがよく写ります(笑)。

 


シャッターダイヤルはボディ前面にあります。スクリューマウントライカみたいですね。長年の使用で手垢によってエングレーブされた数字が埋もれてゆきます。そのうち見えなくなるかも。

 

エルマー90mmF4はロッコール名のレンズも含めてドイツ製。ええ、正直どうでもいいですね。このレンズ、曇りやすいので取り扱いに注意しましょう。
 

ライカCLは日本国内では正式にメンテ受付はしてませんでした。当時の代理店シュミットからは販売されていないこともあるのですが。当時のミノルタはどうだったんでしょうかね。杓子定規なことを言わずに修理を受けたのかしら。受けないよね。

 


LICENSED BY LEITZ WETZLARの文字が背面にエングレーブされています。だからどうしたという感じもしますが、日本製でありつつ、ライカの匂いもするぜという、ステータスを感じさせようという作戦でしょうか。

 

両レンズともに、Mマウント互換ですが、距離計連動用のカムが傾斜しています。コストダウンのためとのことです。
 

ライカのレンズは昔からダブルヘリコイドを採用していました。これはフォーカシングに必要な繰り出し量と、カメラ側の距離計のコロを押すのに必要な移動量が標準レンズ以外は異なるので、これを二重のヘリコイドでカバーして、整合させようという考え方に基づいています。コロに当たるカムの面は平面ですから問題ありません。

 


Mロッコール40mmF2(右)のカムとゾナー40mmF2.8を後玉方向より並べてみました。ロッコールは思い切りカムが傾斜しており、見た目もよくありません。これで本当にコストを下げることができたのでしょうか。

 

ところがCL用の2本のレンズはシングルヘリコイドですからコロの当たるカムを傾斜させ、その角度の位置の違いでレンズ側のフォーカス量をカメラ側に伝えます。

 


Mシリーズライカのアイピースは丸窓ですが、CLは四角いですね。スペースの関係でしょうか。視度補正レンズは共用できませんね。ファインダー倍率は小さいです。このため有効基線長が短くなります。

 

CLではこの距離計コロの位置は一定のところにありますが、M型ライカの場合は距離計の調整機構の中にコロの位置を左右にずらす工程が含まれているため、個体によってはコロの位置が中央から左右どちらかにズレて調整されているものがあります。このコロが中央位置にないM型ライカに傾斜カムのCL専用レンズを装着すると、フォーカスの精度に不安が生じる可能性があります。
 

一部を除けば、CLには多くのMマウントレンズが装着できるのですが、逆にCL用に用意されたこれら2本のレンズをM型ライカに使うことは推奨されていません。

 


左から巻き戻しクランク、底蓋取り外しキー、リワインドボタン、フィルム種別窓ですが、ライカM5ジュニアという感じであります。ただ、カバーは肉薄で凹みやすいです。

 

もちろんインフで二重像が正確に合致すれば問題なく使用することはできますし、それでも心配ならば少し絞り込んで撮影すればいいのですが、レンズは片側互換という考え方のようです。ま、神経質な人でなければ実用的には問題ありません。筆者の経験からみても。でもね、前回紹介したCLE用に用意された3本のレンズは、平行カムです。これはエラいですよね。
 

CLを実際に触れて操作してみると、他に例をみない独自の布幕縦走りシャッターを採用していたり、レンジファインダーカメラでTTLメーターを実現するために、ライカM5と同様に、フィルムの直前に腕木の先につけたCds受光素子を置き、露光直前に腕木を退避させるという方法をとったりと複雑なメカニズム機構を採用したことなども生産を難しくした理由としてあるようです。ライカM5のミニ版みたいな感じです。

 


着脱式の底蓋を外しました。屋外でフィルム装填する時とか、この底蓋はどうするんだって疑問を感じたりするのですが、基本的にはストラップをボディ側と同時に通して使用してぶら下がる感じになります。

 

CLのファインダーはなかなかに凝っています。M型ライカと同様に二重像合致部分のエッジは明確なので、二重像合致と上下像合致、どちらのフォーカシングも可能になります。視野率はインフで80%、至近距離で90%くらいですからあまり高いとは言えません。
 

ブライトフレームは40、50、90mmがありますが、40mmと50mmのフレームは同時に表示されます。90mmレンズを装着すると50mmのフレームは消える仕組みですね。50mmのフレームは邪魔くさいという人もいますけど、水平、垂直を確認するのに便利なので、気にしないで使っています。

 


バッテリーはMR-9の水銀電池使用です。今は互換タイプを使うか電池アダプターでLR44を使います。底蓋の中にバッテリー室がありますから、フィルムが入っている間はバッテリーの交換はできません。筆者は最近バッテリーを入れたことありません。白いスプールの押さえは割れやすいので注意しましょう。

 

ファインダーの倍率は0.6倍と、小さいです。基線長は31.5mmですから、ファインダー倍率0.6を掛けますと、有効基線長は18.9mmになるので、長焦点レンズには苦しい精度です。CLにはワイドレンズを装着し街に斬り込んで行くのが正しい使い方で、北井一夫さんに近づくことができるのでは。と妄想することができるわけです。

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