3年ぶり、という言葉が踊った、2022年の夏だった。
今年のお盆休みは、3年ぶりの行動制限を伴わないお盆休みとなり、帰省ラッシュの混雑が繰り返し報道された。こうした光景には見覚えがある、と思ったが、いつのことか思い出せない。この「時評」に書いたかもしれないと思いさかのぼってみたら、なんのことはない、6回目に書いた、3年ぶりの行動制限がない今年のGWのことだった。
第29回全国高等学校写真選手権大会「写真甲子園2022」も、7月26日〜29日にかけて、3年ぶりの北海道・東川町での現地開催となった。100回目をむかえたコミックマーケット、通称「コミケ」も、東京ビッグサイトで3年ぶりの夏開催となった。その他、3年ぶりに開催されたイベントや祭りは枚挙にいとまがない。
ちなみに、8月1日の東京都の新型コロナ感染者数は、2020年が472人、2021年が3058人、2022年が21958人。過去最多は7月28日の40406人だが、これは情報共有システム「HER-SYS(ハーシス)」の不具合の影響がある数字なので、8月3日の38940人が実質上の過去最多かもしれない。全国の感染者数は、8月19日に初の26万人超え、死亡者数は、8月23日に過去最多の343人となっている。
こうして過去最多が更新されいく一方で、行動制限がないということは、緊急事態宣言やまん延防止等重点措置発令がないということであり、展覧会も中止や延期されることがなくなった。予約制などの入場制限も、いつのまにか見かけなくなった。
展覧会といえば、今年vol.19となる東京都写真美術館の「日本の新進作家」(2022年9月2日~12月11日)のタイトルは『見るは触れる』である。公式サイトには次のように記されている。
本展でご紹介する5名の作家による写真・映像作品は、視覚を通しその物質としての手触りを想起させます。さらに、わたしたちが今見ているイメージとは、どのような物質から構成されているのか、イメージの生成プロセスのみならず、写真・映像メディアの本質へと目を向けさせます。本展は、5名の作家による探求を通し、多様化し掴みどころのない写真・映像メディアの現在地を捉える機会となるでしょう。
触れる、という言葉は、当然コロナ禍を想起させるし、「コロナ禍において接触が禁止される世界にあっても、視覚や聴覚を最大限働かせることで、アクリル板やモニター越しに相対するモノの手触りを知覚することが可能です」といったコロナ禍についての記載もあるが、ここでの関心はその関連ではなく、『見るは触れる』というタイトルの語調である。このような語調は一般的ではない気がするが、そのことについての言及は、とくにないようだ。"seeing is believing"のような慣用句をあえて直訳したような語感にしたのかなと思ったけれど、英語のタイトルは"Seeing as though touching"なので、そういうことでもないようだ。
そんなことを考えていたので、横浜市民ギャラリーの「新・今日の作家展2022」(9月17日〜10月10日)のタイトルが、『世界をとりとめる』なのも気になってきた。公式サイトでは次のように記されている。
今年の副題は「世界をとりとめる」です。世界とは、地球上のすべての国家や地域を指すとともに、自分が認識している社会や世の中、また自分が自由にできる特定の範囲も意味します。いずれの意においても、世界の成立にはそれを認識する自分という主体が不可欠な一方で、自分自身がその構成要素の一つであるといえます。そして、世界は時とともに移ろい変化し続けています。本展では、そのような世界のひと時に眼を向け、制作する3名の作家を紹介します。
こちらも、タイトルについての直接的な言及は、とくにないようである。もっとも「とりとめる」という言葉は、「一命をとりとめる」といった表現でおなじみのものであり、『世界をとりとめる』という用法に違和感を覚えるだけなのだろう。いや、今日、このような語調に違和感を覚える人も少ないのかもしれない。
ユニークな言葉が有利なインターネット検索のことを考えると、『見るは触れる』も『世界をとりとめる』も成功しているのだろう。しかし、そんな解釈も味気ないので、違った解釈をしてみたいところだ。
それにしても、今年の夏は暑い。暑いといってばかりではいけないというが、やはり暑い。東京都心での猛暑日(最高気温35度以上)は、8月9日に今年14日目となり、早くも過去最多となっていた。連日どこかで警報級の大雨や豪雨災害があった。日本気象協会は、最高気温40度以上の日を「酷暑日」、最低気温30度以上の夜を「超熱帯夜」とすることを打ち出した。
さて、今年は、どんな9月になるのだろう。見るは、触れるは、そして、世界は、どうなっていくのだろうか。
(2022年8月記)
2020年11月下旬 品川
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