top コラム時評8 第7波

時評

8 第7波

2022/07/25

上野修

今年の関東甲信地方の梅雨入りは6月6日、梅雨明けは6月27日で、わずか3週間と統計史上最短だった。東京の都心では、6月25日から9日連続で猛暑日となり、早くも過去最長を記録した。
　

前回のこの連載で、9月発売が恒例のiPhone新モデルも高くなるだろう、と書いたが、新モデルを待たずして、7月1日に現行モデルの価格改定が行われた。最も値上げ幅が大きいiPhone 13 Pro Max 1TBモデルでは、194,800円から234,800円へと4万円の値上げになった。
　

ところで、6月の下旬は、ひさびさにアルバムを出したあるアーティストが、プロモーションでラジオ出演することが多かった。そのなかの、次のような発言がずっと印象に残っている。
　

——自分が歌うときは、書いたときの気持ちじゃないと歌えない。けれども、それをどう聴くかは受け取る人による。受け取り方は、十人十色、千差万別。たとえば、聴いたときにデートしてたとか、ああいうことがあったとか、特別な意味を持ってくる。ポピュラーミュージックというのは生活に密着していて、記憶と密接に結びつく。
　

要約するとこのような話だったと思うが、感銘を受けたのは、受け取り方は人それぞれだという前半ではなく、特別な意味を持ってくるという後半である。メディアによっても在りような違ってくるだろうが、これは、ポピュラーカルチャー全般に通ずる現象だろう。
　

たとえば、美しい海を撮ったときが、蒸し暑い日で、お腹が空いていたら、その写真を見て撮る者が思い出すのは、じっとりとした感触と空腹感かもしれない。真冬のこたつでその写真を繰り返し見る者がいたら、その記憶が写真に刻まれるかもしれない。これは、写真に写っているものと直接関係はないが、まったく何の関係もないわけではない。いや、むしろそのような感触や記憶こそが、写真の直接性なのかもしれない。というようなことを、ここ十年ほど漠然と考えていたので、アーティストの発言が印象に残ったのである。
　

私たちが、この2、3年でもっとも目にしている画像は、新型コロナウイルスの画像に違いない。提供元は、国立感染症研究所だったり、米国立アレルギー感染症研究所だったりするが、そのあたりも意識せずに見ていることがほとんどだろう。そもそも一般の人は、その画像を見ていること自体、意識していないかもしれない。
　

スクロールしては手のひらからすり抜け、いつの間にかまた手のひらに戻ってくる、見たところで、なにがわかるというわけでもないこのコロナウイルスの画像を見て、いつか感触や記憶が舞い降りてくる日がくるのだろうか。
　

こんなことを考えながら歩いていたら、聞いていたラジオから臨時ニュースが流れてきた。最近は、なんでも臨時ニュースになるからな……、と思いつつ聞いていると、銃撃のニュースだった。詳細は不明との第一報だったので、またすぐに通常の番組に戻った。
　

それにしてもコロナ禍である。
　

6月下旬に増加に転じた東京都の感染者数は、7月上旬には前週2倍超の増加となった。14日、国内の累計感染者は1000万人を超えた。雑誌『写真』vol.2が発行された20日は、第7波のさなかで、感染者数は、東京で2月5日以来の2万人超え、大阪で過去最多の2万2000人程度、神奈川で初の1万人超えの速報が流れ、全国で初の15万人超え、30府県で過去最多となった。この日は、東京都心で17日ぶりに35度以上となった猛暑日でもあった。
　

ちなみに、雑誌『写真』創刊号が発行された1月20日は、第6波が急拡大していた時期で、20日の東京都の感染者数は9952人、22日には東京都で1万人を突破、2月3日には全国で10万4472人と初めて10万人を突破した。東京では1月21日から2月13日まで「まん延防止等重点措置」が適用された（その後、3月6日、21日まで延長）。
　

もちろん、コロナと『写真』は、直接関係ないだろう。だが、その一方で、こうした現在の記憶が『写真』に刻まれつつあるのかもしれない。

（2022年7月記）

^{2022年6月下旬鎌倉}