狙ったわけではないのだが、新型コロナの感染症法上の位置づけが2類相当から5類に移行した5月8日のすぐあとに、今年一番の人気展になると予想される大型展に行った。
今年もまだ半分残っているのに、今年一番というのも気が早い話だが、日時指定券の予約販売は即日完売、キャンセルによる再販売も滅多になく、当日券も開館前に完売することがあり、予約チケットの高額転売がニュースになっていたくらいなので、この人気を超えるのはなかなか難しいのではないだろうか。
じっさい私が予約して行った11時入場のときにも、長い列ができていた。ひょっとして予約してあっても並ぶのかと思ったが、これは当日券を購入する人たちの列だった。当日券は買えたとしても、入場するまで時間がかかったのかもしれない。予約チケットを持っている場合の入場はスムーズで、会場は混雑しているものの、見づらいというほどでもなかった。
「お客様お背中お気をつけてくださいませ」「中に入り込まないようにお気をつけてくださいませ」「お客様のお好きなように移動していただけます」「お手やお身体が触れませんよう……」「お足元段差がございます……」といった注意の声が始終響いていたのはいささか興醒めだったが、段差に激しく足を打ちつけて転びそうになっていた人を見かけたので、必要な注意だったのだろう。パリ、ロンドン、ニューヨークと世界を巡回してきた展覧会とのことだったが、海外展ではこのあたりの注意はどうしていたのだろうか。
展覧会の空間は、まさに壮観だった。以前、人気美術展について書いたときと同じ感想になるが、俗ないい方をするなら、入場料の元がとれた満足感があった。人気美術展の入場料は2200円、今回の展覧会は2000円だったので、さらに俗ないい方をするなら、お得に感じたりもした。
どちらの展示にもいえることだが、構成や順路が工夫されていて、多少混雑していてもストレスを感じないようになっていた。撮影禁止の作品が少なかったので、見るだけでなく、撮ることにも関心が分散する効果があったのかもしれない。いわゆる映える写真というのは、別にシェアしなくても、撮っているだけで楽しいわけで、今後、大型展のアミューズメント化はますます進んでいくのだろう。入場者数を制限したり、限定グッズを付けたりしたチケットを高額で販売する方向性もあり得るように思える。
この大型展の最後には、謝辞として、セット デザイン、写真、プロダクション、設営、美術品輸送・展示、映像、照明・音響などの担当が記されていた。これまで私が気づかなかっただけかもしれないが、さまざまなスタッフがこのようにしっかりとクレジットされるのも新鮮に感じた。
5類に移行した10日後の5月18日が、国際博物館の日で、有名だが行ったことがない美術館の常設展が無料だったこともあり、立ち寄ってみた。入り口に消毒液があったのかどうか、記憶にない。ということは、もしあったとしても、手指消毒のチェックはなかったということだろう。前述の大型展ではいちおう消毒液が設置されていたが、あまり目立っていなかった。
どちらの展覧会でも鑑賞者の大多数がマスクをしていたように思うが、それもあまり記憶にない。消毒液にせよマスクの様子にせよ、記憶にないというよりは、気にしなくなった、といった方がいいのかもしれない。ニュースでは、マスクを外すとか外してないとかを話題にしていることがあるが、かつてのようマスク論議が盛り上がることはないだろう。
この時評の初回(2021年11月)の冒頭に、コロナ禍の初期(2020年8月)に書いた次のような一節を引用した。
いま私たちは口々に「落ちついたら」といっているが、「落ちついたら」どのように生きていきたいのだろうか。
「時評」1 落ち着いたら……(2021年11月)
そういえば、たしかに、落ち着いたら、と幾度も幾度もいっていた時期があった。しかし、落ち着いたらどうしようといっていたのか、まったく思い出せないし、思い出せないことも気にならない。
いつの間にか、新型コロナウイルスの画像を見ることもなくなってきた。周知のように、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)による新型コロナウイルス感染症の正式名称は「COVID-19」だが、私は、この19の由来が年号の2019であることに最近気づいた。
いくらなんでも遅すぎる。なぜいままで気づかなかったのか。コロナ禍になってから、時間の感覚が変化したのか、コロナ禍が何年からはじまったのかすぐ思い出せなくなっていたのだが、答えが名称に書かれていたとは。
気づかなかったことが、おそらく私にとっての同時代の意味だったのであり、ということは、2019であることに気づいたときに、それは歴史になったのだろう。
ところで、冒頭に書いた大型展の最終日は、6時11分に当日券販売が終了したという。
(2023年5月記)
2023年2月下旬 銀座
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