なんとなく聞いていたラジオから、「ババアバクハツ」というフレーズが聞こえてきた。あの「婆バクハツ!」のことだろうか、いやそんなことはないだろうと思いつつ聞いていたら、やはりあの「婆バクハツ!」のことだった。
この番組は、「問わず語りの神田伯山」。『水木しげるの妖怪 百鬼夜行展』(東京シティビュー)に行った神田伯山が、同時開催されていた『地球がまわる音を聴く:パンデミック以降のウェルビーイング』(森美術館)に立ち寄ったところ、そこで展示されていた内藤正敏「婆バクハツ!」シリーズにめちゃくちゃ感動した、という話だった。
翌週の番組でも、続きのトークがあった。神保町で、ガラスケースに入っていた「婆バクハツ!」が収録されている33,000円の写真集のほか、内藤正敏の写真集数冊を、計81,950円を買い求めた話であった。「ババアバクハツ」というフレーズがこんなに熱く連呼されるのは聞いたことがない。そして、この連呼が、「婆バクハツ!」シリーズにじつによく合っている。感動した話に、感動してしまった。
ところで、このWEBメディア「Photo & Culture, TOKYO」に原稿を用意しはじめたのは、ほぼ一年前のことだった。というのも、毎年9月は新しいiPhoneの発表があり、昨年はまずその話題を取り上げようと思いつつ、タイミングを逃してしまい、今年もまたiPhoneの発表があったというわけだ。今年はタイミングを逃さないうちに、この話題を書いておこう。
深夜2時からライブ配信される発表イベントは、エンターテイメント性も高く、たいていリアルタイムで見ている。とりわけ、カメラや写真がどのように言及されているかに、注目している。昨年のメモには「iPhone史上最も先進的なデュアルカメラシステム」「フォトグラフスタイル」「スマートHDR4」「マクロ」といったキーワードが書いてあった。
たんなる板のようなデザインを目指しているようにも見えるiPhoneだが、カメラだけは例外である。上位モデルでは3眼になっているし、レンズ部は出っぱっていて、存在を隠そうともしていない。カメラのソフト的な操作性も、どんどん複雑になっていて、これもまたシンプルで直感的な操作性に逆行している。
「あなたはシャッターを押すだけ」というのは、大衆機「ザ・コダック」(1888年)の有名なコピーだが、iPhoneの内蔵カメラも、はじめは「押すだけ」のシンプルなものだった(じっさいは押して離したときにシャッターが切れる仕様だったが)。素知らぬ顔で電話に入り込んだカメラが、いつの間にか物理的な存在感を増していって、母屋を乗っ取っていると妄想すると、なかなか興味深い。
その物理的なカメラも、ソフトウェアに乗っ取られていると考えることもできる。今回発表されたiPhone 14 Proのメインカメラは、48MPクアッドピクセルセンサー搭載で、A16 Bionicは写真1枚あたり最大4兆回の演算を行うという。
進化したカメラ機能を華々しく発表するのは毎年のことだが、今年はちょっとトーンが変わっていた。またラジオの話になってしまうが、あるミュージシャンのパーソナリティは、その変化を端的に「プロみたいな写真が撮れるから、プロの方はこれを使ってください、となった」と語っていた。今回の発表イベントのトーンは、まさにそのとおりで、iPhone 14 Proは、しれっと電話という名のプロ用カメラになったのである。
価格もカメラ並みになった。iPhone 14 Pro Max 1TBモデルは239,800円。7月にiPhone 13 Pro Max 1TBモデルが、194,800円から234,800円へと価格改定されていたので、さらに円安を反映した価格になった。アメリカでは1,599ドル、iPhone 13 Pro Maxから価格据え置きなので、今回の価格は、消費税を考慮すると1ドル136円程度のレートということになる。
この9月は、映像の巨匠の訃報が続いた月でもあった。ウィリアム・クラインが96歳で他界。ジャン=リュック・ゴダールが91歳で他界。ゴダールはスイスで認められた「自殺幇助」での死去だった。
WHO(世界保健機関)のテドロス事務局長は、9月14日に新型コロナの「パンデミックの終わりが視野に入った」と語った。バイデン大統領は、9月18日に「パンデミックは終わった」と語った。後日、テドロス事務局長は、「トンネルの終わりの光が少し見えはじめただけだ」と補足したが、終わりという視点は、人々の気分に大きな影響を与えるだろう。
日本においては、コロナ患者の全数把握を見直し、届け出を重症化リスクが高い人に限定する運用が、26日から全国一律ではじまった。26日には、全国旅行支援(全国旅行割)を10月11日から12月下旬まで実施するという発表もあった。
ちなみに、26日の新型コロナの全国の感染者数は43,587人で、74人死亡。新型コロナウイルスのオミクロン株に対応したワクチン接種もはじまっているが、以前のような関心の高まりはないようだ。
街の雰囲気を見ても、9月は大きな気分の変わり目だったと思う。人気の大型展にいくつか行ったが、賑わっていただけでなく、コロナ禍の緊張はすっかり薄れていたように思う。
パンデミックの終わりという視点を感じながら、終わりから歴史をとらえたような展覧会を見る体験には、不思議な高揚感と感動があった。長くなりそうなので、この話は次回書こう。
(2022年9月記)
2020年3月下旬 北の丸
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