それにしてもコロナ禍である。とはいえ、今年のGW(ゴールデンウィーク)は、何度目かの気分の変わり目だったと思う。
東京都では、3月21日に緊急事態宣言が解除され、リバウンド警戒期間に移行、4月24日までの期限を、5月22日までに延長している。都道府県版GoToトラベルといわれる県民割・ブロック割では、いまのところ東京都在住者が対象に入っているキャンペーンがない。
それはそれとして、という気分だったのだろう、ニュースは「3年ぶりの行動制限がないGW」というフレーズを繰り返し、各地のにぎわい、東京の空港やターミナル駅の混雑を、若干の高揚感とともに伝えていた。昨年、一昨年とは明らかに違った光景だったが、今年の気分を経験してしまうと、過去の光景の記憶も変わってくるように思える。
ちなみに、5月1日の東京都の感染者数は、2020年が165人、2021年が1050人、2022年が3161人。一番の違いは、ワクチン接種だろう。高齢者の優先接種が始まったのが、2021年4月12日であり、全人口比で76.9%が2回接種を完了したのが11月末だった(しかし、3回接種は2022年4月25日で人口の50.8%にとどまっている)。
そういえば、GWの少し前に雑談をしていて、カメラ雑誌が休刊になったのはいつ頃だったのか、コロナ禍はどのくらい影響していたのか、という話題になったのだが、すぐには思い出せなかった。『月刊カメラマン』誌が2020年4月20日発売の5月号で休刊、『アサヒカメラ』誌が2020年6月19日発売の7月号で休刊、『日本カメラ』誌が2021年4月20日発売の5月号で休刊ということで、コロナ禍のGW前後にカメラ雑誌の休刊の報せが続いた、ともいえる。
写真賞も、GW前後の発表やイベントなどが多い。2021年発表分の、木村伊兵衛写真賞、林忠彦賞、日本写真協会賞、さがみはら写真賞の選考は中止、延期され、土門拳賞、写真の町東川賞の選考は実施された。このようにまとめて書いてしまえるのも、2022年発表分の選考が実施、もしくは実施予定であるということと、現在の気分が少し影響しているのかもしれない。
中止、延期、実施には、それぞれの葛藤と、それぞれの判断があったはずで、まとめて書いてしまうと、そこでの揺らぎはこぼれ落ちてしまう。カメラ雑誌の休刊についても、それは同様だろう。そうした揺らぎは、記録としてはもちろん、記憶にも残らないのかもしれない。
ところで先日、『杉本博司自伝 影老日記』を読んでいたら、次のような記述があった。
1991年、佐賀町での2度目の展覧会が開かれた。今回は新作の海景シリーズが展示され、佐賀町会場と近隣のIBM本社中庭に面した水庭の壁に、防水アクリルケースに封じ込めた「海景」を展示した。毎日直射日光と風雨に晒される。私は写真が自然光に晒されて劣化し消えてゆく過程を見たいと思ったのだ。
この展示は、見た記憶がある。といっても、漠然と見ていたか、変わった場所で展示するという、当時流行のポストモダン的な試みとして見ていたか、いずれにせよ、深いコンセプトは理解していなかったように思う。続いて記されている、「海景」のオフセット印刷50点をアルミケースに収めた、定価4万円のポートフォリオも覚えている。こちらも、たぶん漠然と見ていただけのような気がする。
しかし、エピソードを読んでいるうちに、当時の光景がだんだん鮮明に蘇ってきた。いや、蘇ってきたというより、作り出した、というべきなのかもしれない。漠然と見ていたという形容ができるのは、いまはそう感じられるからである。いまも漠然としているままなら、そうは形容しないだろう。
にぎわいが戻ったからといって、2019年の光景が戻ってくるわけではない。とりわけ、写真関連の状況に関してはそうだろう。
だが、そもそも、2019年の光景という視点自体が、ここ数年の変化によって作り出されたものでもある。やがていつの日か、2019年の光景も、1991年の光景のように、いっそう鮮やかに蘇るのかもしれない。
(2022年5月記)
2020年2月下旬 京橋
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