富士フイルム HD-M
私が育った街の百貨店で、カメラ展示会のような催事が開かれたことがある。いろいろな新製品を触ることができたので、カメラショー的なものだったのか、あるいは、その場で買うこともできたので、販売店による即売会だったのか。
そこで衝動的に入手したのが、全天候型コンパクトカメラのHD-Sフジカだった。
1979年に発売されたHD-1フジカがシリーズ初代で、HDはヘビーデューティの略だといわれている。当時の流行りだったのだろう。キヤノン A-1の時に書いた、キヤノンのオリジナルグッズのカタログ『CANON'S PERSONAL EQUIPMENT CATALOG』にも、ヘビーデューティという言葉が出てきている。多少乱暴に扱っても大丈夫なモノという意味だが、アウトドア用のカッコいいモノ、くらいのニュアンスで受け取っていたように思う。そういえば、キヤノン F-1のOD(オリーブ・ドラブ)というU.S.アーミーカラーモデルが出たのも、同じ時代だった。
HD-1は別売のストロボもなかなかカッコよくて、雑誌広告かなにかで見たことがあった。HD-Sはストロボ内蔵で実用性が高くなったモデルで、それを催事で見かけ、入手したのである。デザイン的にはHD-1が好みだったが、実用性で選んだわけだ。
使用電池は単4電池2本で、ストラップに付ける防水予備バッテリーケースが付いていた。こういうアクセサリーも、ヘビーデューティなマインドをそそるのである。
水に濡れそうな場所に持って行くならこのカメラになるし、旅行のサブカメラにするにもこのカメラになる、ということで、国内外のいろいろな場所にHD-Sを持って行った。
当時は、防水カメラが珍しかったので、旅先で汚れたカメラを洗っていたりすると、ギョッとした顔で見られることもあった。フジノン38mm F2.8の、素直な描写も気に入っていた。その割に、撮った写真が少ない。このカメラでもっと撮っておけばよかった、と思うカメラのひとつである。特別なシチュエーションで使うべきという思い込みが強かったのかもしれない。
灼熱の夏の日、海に持って行った時、ゴムの部分がグニョグニョしているのに気づいた。暑さのせいで、一時的なものかと思ったが、家に帰っても、まだグニョグニョしている。グニョグニョというかネチョネチョというかベタベタというか、このまま使っていいものか、という感じである。しかし、修理代も高そうだ。
しばらくそのままにしておいたのだが、フジカGW690プロフェッショナルを数寄屋橋のサービスステーションで修理に出すついでに、おおよその修理代だけでも聞いてみようと、HD-Sも持参した。若い係員の方が、修理伝票に書き込みながら、各部チェックをしている時、HD-Sの裏蓋を開けてしまった。
あっ!、と声を上げたが、もちろん手遅れである。まだ撮影中のフィルムが入っていたのだ。
年配の係員の方が出てきて、修理代をお値引きさせていただきます、とのことだった。取りに行くと、HD-Sの修理は無料だという。なんだか申し訳なかったが、ご厚意に甘えることにした。今回、検索していたら、HD-Sを無償修理してもらったという記事があった。もともとの材質に問題があったらしい。それを知って、これまでの感謝の気持ちが、ちょっと変わってしまった。検索するのも良し悪しである。
HD-1はカラーバリエーションも販売され、HD-S以外にも、HD-M、HD-Rといった後継機が発売されたので、けっこう好評だったのだろう。じっさいに必要なわけではないのに、ヘビーデューティなモノが好きという、インドア派のアウトドア趣味に私が目覚めたのは、HD-Sを手にした頃からかもしれない。
デジタルカメラ時代になってからも、防水カメラを何度か買っている。もちろんこれといって使う機会があるわけではないのだが、インドア派のアウトドア趣味なので、それでいいのである。防水デジタルカメラは、高機能のものが多く、夢が広がる。それにしては、年々機種が減っているのが残念だ。
使わなくても入手したいのが、防水カメラなのである。考えてみれば、普通のカメラだって、使わなくても入手しているではないか。いわんや、防水カメラをや、である。
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