はじめてデジカメを買った日のことは、よく覚えている。
新宿の家電量販店やパソコンショップなどをいつものように巡回していて、東口のビックカメラ(もちろんいまとは場所が違う)の店頭のワゴンで、1999年を記念して、19999円でデジカメが特売されていたのだ。もしかしたら、1999年9月だったので、その値段だったのかもしれない。
いまファイルを確認してみたら、1998年撮影のものもあるのだが、これは日付の設定ミスだろう。検索してみると、買った機種、三洋電機のDSC-X110は1999年2月発売、買った色のシャンパンゴールドモデルは、同年3月発売なのだから。価格は6万8000円で、それが9月までにそんなに値下がりするだろうかとも思うが、1998年10月発売の前モデルDSC-X100ではなかったと思う。
こうして調べると、あやふやになっていくが、ともあれ、1999年9月にビックカメラ店頭にあったDSC-X110を19999円で買ったという鮮明な記憶があるのである。ちょっとだけ迷ったが、その日のうちに入手したはずだ。
付属品は、単3ニッケル水素電池2本、単3型専用充電器、8MBスマートメディア(メモリーカード)とあるので、とりあえず買ってすぐ撮影はできるセットだったのだろう。パソコンに読み込むためのメディアリーダーは別に買ったかもしれない。
撮影枚数は、8MBメディアで、640×480ピクセルのHiモードで99枚、1024×768ピクセルのSHi1/SHi2モードで29枚/45枚だった。当時持っていたパソコンのモニタも小さかったので、はじめはなにも考えず、たくさん撮れるHiモードでばかり撮っていた。SHi1/SHi2モードはフィルムカメラのような枚数だが、Hiモードの99枚というのはインパクトがあった。
といっても、当時のニッケル水素電池は、液晶を使っているとあっという間に消耗してしまう代物だった。また、しばらく使って古くなって性能が落ちてくると、充電してもデジカメが作動しなくなってしまった。そのため、いざ撮ろうとすると電池切れで使えなかったことも少なくなかった。
メディアも使い切ってしまうと、当然、それ以上は撮れなくなる。ずいぶん迷って、16MBのスマートメディアやニッケル水素電池を買い足した記憶がある。こういう点では、フィルムカメラの方が気軽だった気がする。写真を保存するためのパソコンのハードディスクも高かった。デジカメだからタダで無限に撮影できる、という感覚にはならなかった。撮影にかかるお金とか手間とかは、フィルムと同じくらいの感じだったかもしれない。
ほとんどなにも考えず買ったDSC-X110は、マクロ切り替え付きの固定焦点、35mm換算で43mmの画角のレンズだった。使いきりカメラのような感覚で使えるこのスペックは、なかなかよかった。このカメラは、ひさびさに写真を撮るプリミティブな楽しみを思い出させてくれた——、というのは嘘だが、新奇だというだけで、撮ってみる動機にはなったように思う。
フィルム機の富士フイルムのティアラと、このDSC-X110を、小さなバッグに入れて2台持ち歩くこともあった。偶然だが、この2台は、色と形と重さも割と似ていて、レンズカバーをスライドさせて撮影する仕組みも同じだった。ちょっと大切なシーンを撮る機会に、ティアラを取り出したつもりがDSC-X110だったことがあったのだが、そのままDSC-X110で撮影したことがあった。1999年9月下旬の風の強い、薄曇りの日のことである。
あっという間にデジカメに慣れてしまった自分を感じた。
関係ないが、1999年といえば、ノストラダムスの大予言の年である。ほんとうに信じていた人はほとんどいなかったのだろうが、世界は滅亡すると予言されていた1999年7の月が過ぎたことで、奇妙な高揚感のあとの脱力感がうっすら漂っていたようにも思う。私にとっての1999年は、そんな年だった。
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