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ララカメラ

4 キヤノン A-1

2022/03/22

上野修

いままでで最も記憶に残っているカメラのキャッチコピーは何かといえば、間違いなく1976年発売のキヤノン AE-1の「連写一眼」である。そして、「連写一眼」といえば、カリフォルニアである。

なぜそういう記憶の飛躍が起きているのか、よくわからないが、振り返ってみると、時代はカリフォルニアだったのだろう。

一番カリフォルニアだったのは、雑誌の『POPEYE』である。何せ、1976年の創刊号の特集がカリフォルニアなのだから。スケートボード、ジョギング、スニーカー、サーフィンなどは、みんな『POPEYE』で知った、ような気がする。中学校に『POPEYE』を持っていって、授業中に読んで、すごく大人になったような気がしていた。そんな田舎の子どもだった。

UCLAのロゴも流行っていた。何の略かわからないまま、UCLAのボストンバッグを持っていた。MADISON SQUARE GARDENのロゴのマジソンバッグが爆発的な人気だった時代で、UCLAはちょっと違った感じがよかった。

その頃、『CANON'S PERSONAL EQUIPMENT CATALOG』という、キヤノンのオリジナルグッズのカタログがあった。検索してみると、いくつかアップされている。懐かしい。

カメラと関係ないようなグッズもある、というか、半分以上はカメラと関係ないグッズである。「メールオーダーカタログ」とあるが、当然この時代には、Eメールはない。通販カタログをそう呼んでいるのだ。ボストンバッグは「キャリーオール」、リュックサックは「デイパック」、野球帽は「ドジャーズキャップ」、呼び方からして、気分はカリフォルニアである。

「メールボックス」という名のアメリカの郵便ポストが欲しかったが、さすがに家のポストを勝手に変えるわけにはいかない。何だかわからないものほど興味がわくもので「バードコール」も欲しくてたまらなかったが、何とか我慢した。

AE-1には、「…ing　出来事には次がある。」というコピーもあったが、これも気分はカリフォルニアだし、当時の若者に「ing」が流行ったのは、ひょっとしてこのコピーの力だったのだろうか。

カリフォルニアとは、つまり明るさであり、軽さだったのだろう。80年代に向かって時代は変わろうとしていたし、そんな時代にぴったりのカメラがAE-1だった。報道カメラマンの時代は、電池がないとシャッターすら切れない電子制御のAE-1のようなカメラは論外だったが、AE-1はそんなこだわりを吹き飛ばしていった。

と、こんなに熱心にAE-1を語っておいて何だが、私はAE-1を入手したことはなかった。かなり後になって、サブ機としてAE-1プログラムを入手したが、ほとんど使わなかったように思う。

私が入手したのは、さらに電子化を進めた「カメラロボット」「スーパーシューター」こと、1978年発売のA-1だった。シャッタースピード優先か絞り優先かという論争を過去のものにする5モードAE。ファインダー内には、シャッタースピードが赤い数字で表示される。750や350という見たことがないシャッタースピードや、4.5や3.5という絞りを見て、驚いたものだった。

当時、デジタルといえば、針式ではない数字式のことだった。いまだったら100円ショップで買えるようなデジタル時計が、大卒初任給くらいの値段で登場したような時代である。赤い数字のファインダー内表示は、現在ではチープに見えるだろうが、当時は最先端のイメージだったのである。

そしてA-1といえば、何といっても秒間最高5コマのモータードライブMA。このモータードライブは、単3形電池12本を入れる代物で、フィルムを一気に消費するだけでなく、電池もどんどん消費していった。カメラの楽しみのひとつは、空シャッターを切ることだが、モータードライブで空シャッターを切ると、本体の電池も含めて、どんどん無駄に消耗することになった。「スーパーシューター」は電池食いなのである。

遊んでいると、肝心な時に電池がない。しかし、そもそも肝心な時自体、ほとんどない。そんな電子の教訓を教えてくれたのも、この「カメラロボット」だった。