キヤノン ニューF-1とは、いうまでもなく、F-1の新型である。
だが、F-1には、F-1Nと略されることもあるF-1改が存在しているので、いささかややこしい。F-1は「向こう10年間は不変です」と宣言していたので、F-1改はあくまでもニューではなく、マイナーチェンジ、改良モデルなのである。
そんなわけで、1971年発売のF-1から10年を経て、1981年に発売された正統進化モデルが、ニューF-1である。
その前の1979年に、FDレンズからNew FDレンズへの更新もはじまっている。ニューな時代に入っていくのだ。
F-1のよさはそのままにしつつ、新しい技術を積極的に取り入れていったニューF-1は、合理的なカメラであった。アイレベルファインダーFNだとマニュアル機だが、AEファインダーFNを付けると、絞り優先AEが使えるようになり、AEモータードライブFNかAEパワーワインダーFNを付けると、シャッタースピード優先AEが使えるようになる。
シャッターは、機械制御と電子制御のハイブリッド。もし電池が切れても、1/2000~1/125秒、X接点の1/90秒、B(バルブ)が機械式で動く。
このように、コンセプトがとても美しい。カタログも豪華で美しかった。使ってみたら、きっと惚れ惚れするはず、と思って入手したら、じっさいにはそうでもなかった。
ハイブリッドのせいか、シャッターの感触がいまひとつしっくりこない。モータードライブやワインダーの使用を前提にしているのか、巻き上げの感触もゴリゴリしている。アイレベルファインダーFNでも表示がないだけで、じっさいには、絞り優先AEが使えてしまう。
設計思想の美意識や、つや消しブラック塗装の重厚感など、愛機になる予感は十分なのだが、使っているうちに、気になる小さな点が、積もり積もっていく。理屈としては、愛機になっていくはずなのに、そうはならないのが、カメラの面白いところだ。
そんな違和感を覚えつつ使っていたせいか、ある日、膝の上にのせていたニューF-1が、ゴロっと床に落ちた。このくらいなんでもないだろうと思って拾い上げると、ペンタプリズム部に凹みができてしまっている。凹んでも動作にはまったく問題がなかったのは、さすがはニューF-1というべきか。
真剣な撮影で落としてできた凹みなら愛着もわくが、たんなるミスによる凹みは、見るたびに嫌な気持ちになる。かといって、問題がないので、修理したり、買い替えたりするほどではない。
そんなこともあり、ニューF-1は微妙な気持ちで使う、メインのようでメインでないカメラになっていった。要するに実用品である。これはこれで、フラッグシップ機の正しい感じ方なのかもしれないが。
New FDレンズのシリーズからは、28mm F2.8を入手した。New FDレンズは、軽量化され、使い勝手も大幅に向上していたのだが、このレンズにもそれほど愛着がわかなかった。どうも、ニューとは相性があまりよくないのかもしれない。
ライバルであるニコンのフラッグシップ機は、FからF6まで、番号が増えていっている。時代的には、キヤノン F-1のライバル機はニコン F2、キヤノン ニューF-1のライバル機はニコン F3だった。
F-1、ニューF-1というネーミングをしたキヤノンの次のフラッグシップ機はどうなるのか。1987年、オートフォーカス一眼レフのEOSシリーズが誕生し、レンズマウントもEFマウントにあっさり変更、周知のとおり、1989年にフラッグシップ機EOS-1が登場した。
EOSシリーズを使ったことはあったのだろうか。あったような気もするが、よく思い出せない。こうして振り返ってみると、キヤノン ニューF-1は、私がある程度本格的に使った、最後のフィルム一眼レフ機だったのかもしれない。
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