top コラム一人で行く、オールドレンズの散歩道第8話 東京→関西 新幹線で行く三時間半コース。

一人で行く、オールドレンズの散歩道

第8話 東京→関西 新幹線で行く三時間半コース。

2022/06/14
柊サナカ

本日のレンズ

<Leica summaron 35mm F3.5>


ちょっと所用で、実家へ向かわなくてはならないことがありまして、急遽関西へ。
いつ何時もカメラを持ち歩いているわたくしとしては、どうしても撮りたい物がありました。それは東京から大阪までの交通機関。移動には、非日常の面白みを感じますよね。
いつもはデジタルカメラにレンズを付けて、という形でやってきているこの連載ですが、今回はフィルムカメラで。ライカⅢfにズマロン3.5をつけて、道中のあれこれを撮っていきたいと思います。
 

愛用のライカⅢf。旅にはバルナックライカが似合うと思います。

 

「撮り鉄」というジャンルがあります(「撮りバス」もですね)。最近、残念ながら悪いニュースでこの「撮り鉄」という言葉を聞くことがあり、ちょっと悲しいなと思っています。カメラ愛好家の知り合いの中でも、この撮り鉄系の方がいますが、みなさん紳士で、常識的な方たちばかりです。ごく一部の行き過ぎた方たちが起こした問題行動を、嘆いていらっしゃいました。

 

聞くところによると、「撮り鉄」界隈には良しとされる写真の形がきっちりあるそうで、それは「型」を重んじ、技の完成度を上げていくすべての「○○道」に似たものを感じます。でもまあ、わたしは正直に言って、鉄道そのものにはあまり興味が無く、自分では撮り鉄の方たちが良しとされる、車輌全体が綺麗に写った写真は撮ったことはありません。

 

しかしながらこの鉄道界隈の「撮り鉄」「乗り鉄」「音鉄」……、乗り物趣味の層の厚さは、ちょっとすごいなと思っているのです。わたしは息子が鉄道と都バスが大好きなため、よく鉄道やバス愛好家が読む雑誌も買うのですが、小学生などの低年齢層には「鉄おも」から始まり、その他、多種多様な雑誌があることに驚かされます。たいてい、書店の棚一段はまるまる乗り物系の雑誌で埋め尽くされていることが多いです。棚の前にはたいてい、何を買うか吟味している紳士がいます。カメラ雑誌が相次いで休刊となったのに比べて、羨ましい限り。「子カメ」等の子供用カメラ雑誌がないことを想像してみてもわかるとおり、乗り物愛好家の数と層、それぞれのジャンル愛が眩しいです。

 

ちなみにバスに関しても、「バスマガジン」などの専門誌が複数あります。バス系ムックの付録で、延々バス車内の映像を撮っているDVDがあって、さあ山の頂上に着いたな、さすがにここらで車外に出て、頂上の眺めとか、見所の紹介とかをするのだろうな、と思って見ていたら、そのまま何事も無く下りになり、乗り物趣味、硬派だなあ……。とびっくりしました。(あと、バスのエンジン音だけ集めた付録CD等もあって、人気だそう。カメラのシャッター音や連写音だけのCD等も、探せばあるのでしょうか?)

 

東京駅、金曜日夜の新幹線ホーム。この日はあまり混んでいませんでした。(Leica Ⅲf,summaron 35mm f3.5 ,f3.5, 1/60, fuji C200)

 

とまあ、乗り物マニアはマニアとしての良い写真を追究していくのが楽しみでありましょうが、わたしは車輌は撮らない代わりに、駅やホームの写真をよく撮ります。なぜなら駅には、その時々の世相が凝縮されているような気がしているからです。

わたしは二十代から三十代前半、海外で仕事していたこともあって、日本には年に数回帰って来るという生活を送っていました。帰国して、じっと集中して見るのは駅の様子です。半年ぶりに見ると、その時々の日本の景気や流行りが手に取るようにわかります。髪型やメイク、靴の流行に服、かかとの丈や細さ、日々見ているとその差は毎日ほんの少しで、あまりわからないのですが、半年ぶりなどで見ていくと、景気の良いときには良いときの、悪いときには悪いときの差が明確に表れていて興味深かったです。


このことは、写真を撮ってあとで見返してみれば、よくわかると思います。例えばマスクをほとんど誰もしていなかったころ、今その時の写真を見ると、(昔はそうだった、誰もマスクしていなかったんだ)と、あたりまえのことにちょっと驚くのですが、今の写真をまた数年後に見ても、面白いだろうなと思います。コロナ禍が完全に過去のものとなり、(えっ、このとき、こんなにみんなマスクしていたっけ?)と驚くような未来が来てほしいものです。

 

――と言うわけで東京駅から大阪まで。未来の楽しみのために、駅の様子を撮影していきます。

駅で特に旅情を感じるのはホームにある公衆電話。一人一台スマホの時代ですから、公衆電話も本当に少なくなりましたね。この前、スマホを家に忘れ、連絡したいことがあって公衆電話をあわてて探したのですが、なかなか見つからず、今はこんなに少なくなっているのだなと思いました。ホームにある公衆電話を見ていると、この公衆電話で故郷に電話をかけた人もいるのだろうなと、郷愁を感じます。

人が入ると揉めそうなので、人の顔をちょっと外しつつ、ホームの写真も撮ります。光る清涼飲料水のケースも撮ります。これも、今はただの清涼飲料水のケースですが、後で品揃えを見て、とても懐かしくなったりしますよね。清涼飲料水の記憶には、その時々の記憶が染みついているような気がするのです。ですよね? 昭和生まれのみなさん。「桃の天然水」「ジャワティ ストレート」「鉄骨飲料」「不二家ネクター」「メロー・イエロー」

 

公衆電話があると、絶滅危惧種の動物みたいに思えて、つい撮ってしまいます。(Leica Ⅲf,summaron 35mm f3.5, f3.5, 1/60, fuji C200)

 

ドリンク売り場のケース。(Leica Ⅲf,summaron 35mm f3.5,  f3.5, 1/60, fuji C200)

 

新幹線の中でも撮影。(新幹線が珍しいなんておのぼりさんなの?)と言われそうですが、まあ、新幹線はわたしのなかではハレの乗り物なので、車内もよく撮ります。昔は新幹線の中で水を飲む封筒みたいな平面の紙コップがあって、お茶の容器もペットボトルではなく、独特の形をしたプラスチックの水筒で、喫煙車輌を通ると煙たくて……、とノスタルジックに浸っていると、すっかり歳がバレそうです。

 

写真は未来の自分のための、ささやかなプレゼントのようだなとも思います。

 

新幹線車内。一番乗りです。(Leica Ⅲf,summaron 35mm f3.5,  f3.5, 1/60, fuji C200)

 

駅弁。(Leica Ⅲf,summaron 35mm f3.5,  f3.5, 1/60, fuji C200)

 

復路。(Leica Ⅲf,summaron 35mm f3.5,  f5.6, 1/100, fuji C200)

 

快速の流れる車窓。(Leica Ⅲf,summaron 35mm f3.5,  f3.5, 1/60, fuji C200)

 

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