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東京 / 異層

03 渋谷区円山町

2025/06/19
小林紀晴

渋谷区円山町。いわずと知れたラブホテル街。

 

そのなかに千代田稲荷神社はある。すぐ隣はラブホテルで「90分¥2,500円 120分¥3,000円」と書かれた表示がある。

 

千代田稲荷神社に関して調べてみれば創建は長禄元年(1457年)とのことで、かなり古いことに驚く。

 

この神社の存在は、コロナ禍になって、どこにも行けなくなったので、東京に関する「ブラタモリ」的な書籍を大量に買い込んで、端から読んでいるときに見つけた。ラブホテル街に神社?撮りに行ってみるか、という程度の始まりだった。
 
江戸城を築城する際、太田道灌が守護神として「伏見稲荷を勧請したものを創始する」とウィキペディアには記されている。その後、「慶長7年(1602年)の城地拡張の際、渋谷の宮益坂に移り、江戸城の別名を採って「千代田稲荷」となったようだ。ということは、江戸城が開城された直後から渋谷にあったということになる。ちなみに、関東大震災後に現在の場所に遷され、それからずっと鎮座しているようだ。太平洋戦争でも戦災にあったようだ。
 
私は冬の終わりの日曜日の昼下がり、Googleマップを頼りに千代田稲荷神社に向かった。ホテル街に人の姿はほぼない。曜日と時間帯からだろう。コロナ禍ということも当然あるだろう。飲食業、観光業が大きな打撃を受けていることは当然ながら理解していたが、ラブホテル業がその影響をどのくらいうけているのか。ここに足を踏み入れるまで考えたこともなかった。
 
連載1回目で触れたが、このシリーズの写真のほとんどはコロナ禍に撮影したもので構成していく。同じく1回目で記したが海外へ撮影に行くことばかりで頭がいっぱいだったそれまでの私が、急にどこにも行けなくなって、「東京から出られないんだったら、東京を撮るしかない」という従順でヤケクソ的な気持ちからだ。けっして積極的選択ではない。いってみればネガティブな発想により、撮影は始まり、そして続けられた。
 
おそらく、だからだろう、積極的に発表したいという心境にはこれまでなかなかならなかった。このまま眠らせてかまわないと思っていた。一方で、コロナが一応の終息(2023年5月に政府は5類感染症へ変更)をみせてから、現在2年ほどがたった。落ち着きを取り戻しているといえるだろう。そんなこともあり、その頃撮った写真を見返したくなった。
 
すると、次第に頭をもたげてきた感情がある。

 

「コロナとは一体、なんだったのだろうか?」

 

あの三年間は自分に、そして多くの人にと何をもたらせたのだろうか。

 

そして奪ったのだろうか。
 
私はラブホテル街で千代田稲荷神社の前に三脚を立て、シノゴのカメラを向けた。顔にはマスクをしていた。周りに誰もいないというのに。マスクをするようになって、すでに一年がすでに過ぎていた。息苦しかった。それでもマスクをとらなかった。誰もいないというのに。何故だろう、と、いま思う。でも、あの時はそんな疑問は湧かなかった。
 
右側のラブホテルの壁面の一部が赤く塗られている。神社の提灯とそれを支える柱と同じ色。おそらく合わせているはずだ。撮影後に三脚とカメラをたたんで、境内に入って参拝をした。終始、誰もいなかった。

 

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