渋谷駅周辺の工事は延々と終わらない。東急線がそれまでとは反対側の地下になったときはかなり混乱したことをよく覚えているが、すでに工事そのものに慣れてしまっている気もする。
いつまで、どこまで続くのだろうか、もしかしたら終着はないのではないか、というのが私も含めた多くの人の感想だろう。私は普段、利用することはけっして多くないのだが、行くたびにと混乱するし、その気持ちが湧く。
写真はコロナ禍に東急百貨店東横店東館がかつてあった場所で、再開発の構造物を撮影したものだ。かつて東館の地下を渋谷川は流れていた。
そもそも渋谷川は新宿駅近くの天龍寺を源としているとされ、やがて新宿御苑へ入り、さらに苑内の「下の池」の端から外へ流れ出だす。苑との堺には柵があって、その向こうは小さな谷になっている。江戸時代に開発された玉川上水の「余水吐跡」だ。
流れは千駄ヶ谷駅方向、南へ向かう。多くは暗渠で、その流れはほぼ地上から確認することはできない。
さらに裏原宿の地下を川は人知れず流れる。通称キャットストリートが緩やかに弧を描いているのは、その流れに沿っているからだ。考えてみれば、痛々しくけなげである。でもそのことに気が付く者はおそらくほぼいないだろう。かつては水車もあった田園風景が広がっていたらしい。
東急百貨店東横店の東館は現在すでにない。この建物には地下売り場がなかった。デパートにとって地下の売り場は重要だが、それがなかったことにはもちろん理由がある。渋谷川が流れていたからだ。
東急百貨店東横店東館は解体され、現在は渋谷スクランブルスクエアに生まれ変わった。いま渋谷川の流れは矯正された。より東にあたるバスロータリー側へ。注目すべきは渋谷川の下を人が通る東口地下広場が作られたことだ。つまり頭上を川が流れている。当然ながら、ここを通るほとんどの者はその流れの存在に気がつかない。やはり、けなげという気持ちがわく。迷子になっても、迷惑をかけまいと黙って耐えている子供のようにも感じられるからだろうか。
参考資料:渋谷駅街区土地区画整理事業



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