狭間に咲いた仇花(あだばな)―ブリッジカメラとその意義―

第1回 曖昧なブリッジカメラ

2025/02/03
佐藤成夫

『ブリッジカメラ』……この呼び名が通じる人はもしかしたら、既にあまり多くはないのかもしれない。ある属性のカメラとカメラの間に存在する、その中間的属性を持ったカメラのことである。これらはあたかも二つの異なる属性の間に橋を架けるような成り立ちであったため、これを指して「ブリッジ」カメラと呼ばれるようになった。

 

このブリッジカメラというのはあくまでもそのポジショニングを表した名前であり、一眼レフや中判カメラのように特定の機構や採用フィルム名に由来しない名称のため、時代に応じて様々なカメラが「ブリッジ的」であるとされてきた(近年であれば、いわゆる「ネオ一眼」スタイルのレンズ非交換式高倍率ズームカメラがブリッジと呼ばれることもあった)が、その名称の始まりは80年代末から90年代初頭にかけて生まれた特異な外観や機構を持つフィルムカメラ達だったといえる。

 

よく言われる代表的なブリッジカメラとしては、シリーズ化されているものでは京セラ サムライシリーズやオリンパス Lシリーズ、チノン ジェネシスシリーズといったところだろうか。これ以外にも各社単発で様々なモデルが発売されており、いずれもコンパクトカメラよりは大柄なボディを持つことから一眼レフとコンパクトの中間的存在であるブリッジカメラであると認識されている(ただし、後述するがどのカメラをブリッジカメラ扱いとするのかについて定義のブレが存在する)。
 

これらのカメラは、既存の一眼レフカメラやコンパクトカメラの良いところ取りの機種として生まれ、その特徴的な外観なども相まって消費者に強いインパクトをもたらし、実際に大ヒットモデルも生まれて一時は確かに隆盛を極めた……のだが、気が付くとほんの数年で消え去ってしまった。

 

そして、その特異な外観や機構の珍奇さばかりが後世に伝わっており、ある時期以降はネタカメラとしての取り上げられ方が主になってしまった。多くの人にとってブリッジカメラというのは、一瞬だけ流行った変な形のカメラ……というわけである。

 

さて、こうした事実から改めて「そもそもブリッジカメラとはなんぞや?」と問うてみると、これが案外規定しづらかったりもする。もちろん意味としては「一眼レフカメラとコンパクトカメラの中間を埋める(ブリッジ=架け橋となる)カメラ」には違いないのだが、その中間というのは果たして何が「中間」なのだろうか。それは価格なのか機能なのか構造なのか。何がブリッジカメラとそうでないものを隔てているのか。そういったことについて深く考えていくと、このブリッジカメラという呼び名が案外フワフワした曖昧な概念だったことにも気付くのだ。

 

そして、このブリッジカメラという製品が存在したのも、たった数年のことである。AF一眼レフの時代が約20年ほどあったことを考えると、この数年という期間はあまりにも短い。逆に言えば、たった数年しか存在しなかった割には、ネタ的なインパクトを今も残し続けているとも言える。

 

ただ、先にも述べた通りブリッジカメラという言葉はその生まれも育ちも定義もとにかくぼんやりとしている。なんとなく現れて、なんとなく定義され、そしてなんとなく消えていった珍奇なカメラたち。少しカメラに詳しい人達であっても、これがブリッジカメラの一般的な認識と言っていいだろう。
 

比較的初期のモデル オリンパス IZM300とリコー MIRAI 実は機構面ではレンズシャッター機と一眼レフという違いがある


 

一体、ブリッジカメラとは何だったのだろうか。そして後世に何を残したのだろうか。そういう疑問に対する答えを求めて、今回からしばらくはブリッジカメラについて紹介していきたい。

 

さて、この何だったのかという問いかけにはどんな特徴を持つカメラがブリッジカメラと呼ばれたのか──言い換えるとしたらブリッジカメラの条件とは何なのか、という点も含まれている。こうして語る上では何処かで線を引く必要があるわけで、曖昧なままでいいというわけにもいかない。インターネット上に溢れるカメラ関係のレビューでは概ね「90年代初頭に現れた変な形のカメラがブリッジカメラである」といったなんとも雑な扱いを受けており、流石にそれはあまりにも適当なのではないかと思いつつも、いざ厳密に定義しようとしてみると結構厄介だったりする。

 

まず、ブリッジカメラが「変な形のカメラ」であると認識されるからには、当然「普通の形のカメラ」も存在することになる。ではどのようなカメラが普通のカメラなのか。これを言葉で定義するのはなかなかに困難だが、感覚的には理解することができる。一般の人達に「カメラの絵を描いてくれ」と言った時や、あるいはアイコン化された時に出てくるのは長方形で真ん中にレンズが描かれているモノや一眼レフのような凸形状をもったものであり、だいたいあれが一般ユーザーのカメラのイメージであろう。

 

逆に言えば、これらに当てはまらず、そこから大きく乖離した形状を備えているからこそブリッジカメラは変な形のカメラとして認識されているのである。これはつまり一般ユーザーには馴染みがない形状と言える。では何故変な形にする必要があったのか。これもまたブリッジカメラの根幹を成す要素と言えるだろう。

 

また、そもそもブリッジカメラというのは一体いつから現れて、誰が言い出した言葉なのだろうか。筆者も当時のカメラ雑誌などを調べてみたところ、初期の使用例としてCAPA1988年4月号のPMAレポート記事中で使われているのを発見した。ここでは『オリンパス「インフィニティー・スーパーズーム300」(IZM300)や、アメリカ初登場のヤシカ「SAMURAI」、チノン「GENESIS」、キヤノン「シュアショット・マルチテレ」(オートボーイテレ6)、コニカ「Z-up80」、リコー「FF-7」(FF-9Dのデートなしモデル)などの新世代型ブリッジカメラ(アメリカでは、一眼レフとコンパクトカメラの橋渡しになるという意味で、ブリッジカメラと呼ばれている)が、会場の話題の中心となった』とあり、この言葉がアメリカで広がりつつあったということが示されている。つまりブリッジカメラの語源はアメリカにあると言って良さそうである。そしてこの記事でもわざわざブリッジカメラという言葉に注釈を入れているということは、おそらくはまだ日本国内では「ブリッジカメラ」という名前だけでは意味が通じなかったということでもあり、この記事の前後が日本国内のカメラメディアでの初出であったと思われる。
 
 

チノン GENESIS2 チノンも比較的早期から参入したメーカーのひとつ


 

ただ、1988年といえば、京セラサムライやオリンパスIZM300もまだデビューしたばかりの時期であり、そうした時期から「ブリッジカメラ」という語は人々の耳目に触れていたわけである。とはいえ、IZM・サムライ・ジェネシス辺りは良いとしても、オートボーイテレ6やZ-up80、FF-7といった、現在日本国内ではあまりブリッジカメラとは思われていない機種も多数含まれている。こうした意味では現在の感覚とはズレを感じるところである。

 

そしてこのブリッジカメラという用語自体もストレートに広まったわけではないようである。当時のカメラ雑誌各誌の目次をざっくり見ていくと、例えば日本カメラでは1987年7月号に「IZMとサムライ - 異形カメラのファインダー」という記事があり、この時点ではこの二機種は「異形のカメラ」という括りで語られている。同誌1990年9月号では「最新ニューコンセプトカメラ ほか」という見出しがあり、続く同誌1991年1月号では「ニューコンセプトカメラ4機種大研究」という記事が掲載されている。また同社発行のカメラ年鑑では、1989年度版の巻末カメラ用語辞典から「ブリッジカメラ」の項目が存在している。

 

同様にアサヒカメラではどうだったかというと、本誌の特集見出しでは確認出来なかったが、年別の増刊であるカメラブックシリーズにおいて91年版のみ「ニューコンセプトカメラ味比べ 意匠を競うブリッジカメラの精鋭たち」という見出しが見受けられる。しかし、この前後の年ではブリッジカメラの語は見出しに登場していない。

 

また写真工業においては、各機のレビューで「ブリッジカメラ」「ニューコンセプトカメラ」あるいは「異形カメラ」の語が使用されることはあったが、特集の見出しとして使われたものに限ると1988年12月号で「新しい潮流になるか? ブリッジカメラ」という見出しでブリッジカメラという語を、1990年10月号では「ニューコンセプトカメラにみるユニークメカ」のように、ニューコンセプトカメラという語を使用している。
 
 

比較的後期モデルに位置付けられるミノルタ APEX105 この白の他に黒モデルもあった


 

ちなみにこの「ニューコンセプト」という語は、元はといえばこのジャンルの元祖である京セラサムライの広告コピーに使われたのがおそらく初出となっている。他にリコーなどはMIRAIを指して「ハイブリッド」などとも呼んでいたようだが、結局のところメーカーの提案するこれらの別称はあまり普及せず、どちらかといえばユーザー側が呼び始めたブリッジカメラの言葉の方が残ったようである。

 

要するに、こうしたジャンルのカメラについてはメーカー側としてはブリッジカメラと自称することもなかったし、カメラ雑誌各社の中でさえも微妙に用語の統一が出来ないまま、なんとなくフワフワとした概念のまま使われて、そしていつの間にか見出しからも消えていったということなのだ。なので本稿でも正直なところブリッジカメラと呼ぼうがニューコンセプトカメラと呼ぼうがたいした差はないとも言える。

 

そして、90年代半ばにはブリッジカメラという言葉が見出しから消えてしまうことからも、このカテゴリ自体80年代末から90年代初頭の数年しか存在しなかったことは明らかである。改めてブリッジカメラというものの旬はとても短かったことがわかる。
 

さて、ブリッジカメラという呼び名がどうして曖昧なモノに感じられるのか「明確な定義がない」「数年しか使われていない」ことの他にも理由がある。それはひとえにその呼び名が機能や構造を規定しないことによるものである。例えばカメラの呼び名として「一眼レフカメラ」であればその機能は一眼レフ方式に限られ、当然レンジファインダーや二眼レフは含まれないことがわかる。使用する記録メディアや記録方式を示す「フィルムカメラ」ないし「デジタルカメラ」という呼び名にしても同様である。こうした呼び名は、名称から機能を規定することが出来る。どのようなカメラなのか、その名で明確に示されているわけである。
 

同様に後期のモデルの一つ、富士フイルム ズームカルディア3000 巨大ストロボでも有名


 

そこからするとやや抽象度が増すのが「コンパクトカメラ」である。日頃まったく違和感なく使っている「コンパクトカメラ」という語だが、ではコンパクトカメラとは何か? と考えると、実はそのコンパクトさというのはより大型のカメラに対する「コンパクト」であり、相対的な呼び名に過ぎなかったりすることにも気付く。とはいえ、対抗する概念であるところの一眼レフカメラというものは基本的にはより大型のカメラであったから「大型に対する小型」の概念として、コンパクトカメラという名称は一般の人達にも広く理解されている。

 

もちろん、大型カメラというのはフィルムフォーマットが大型のカメラのことを指すという原理主義的な定義もあり、たとえ一眼レフであっても35mm判フィルムを使用する以上は小型カメラであるなどという意見も何処かから聞こえてくるようではあるが、今回はそうした話ではないのでお帰り頂いて、ついでに塩も撒いておこう。

 

こうした分類としては135判/120/110/ディスクetc...といったフィルムフォーマットからの分類だったり、先に挙げた一眼レフ/二眼レフ/距離計連動式…といったファインダー機能からの分類、あるいはレンズ交換式/一体型というような機能面での分類といったものが考えられるが、こうして書き出してみると、カメラの分類というのは多くの場合はその機能から取られていることが多いようである。

 

そこで改めてブリッジカメラのことを考えてみると、ブリッジカメラという用語はコンパクトカメラ同様「他の何かに対する立ち位置」が元になっている。つまり、「(コンパクトではないカメラとしての)一眼レフ」があり、そのカウンターパートとして「コンパクトカメラ」があり、その中間となる「(それらの橋渡しをする中間的存在としての)ブリッジカメラ」が成立する──という三段論法である。この三段論法を経由するが故に、ブリッジカメラという存在はわかりにくいのである。本書ではこうした事情を鑑みて、ブリッジカメラの条件というか、何があれば「ブリッジカメラ的」なのか? といった定義についても考えていく必要があるだろう。

 

ちなみに、先の通りこのカテゴリは「ブリッジカメラ」の他に「ニューコンセプトカメラ」という呼び名も存在していた。だが、上記のように「その時代における一眼レフとコンパクトカメラの中間」という定義が可能なブリッジカメラという呼び名に対して、ニューコンセプトカメラという呼び名はさらに輪を掛けて曖昧な概念である。いったいどの辺がニューならばニューコンセプトカメラと呼んで良いのかという定義はおそらく存在しないし、そこら辺を真面目に考えるのも疲れるので、本稿ではブリッジカメラという呼び方を採用することにした。

 

もっとも、ブリッジカメラという言い方をすると製品カテゴリ的にも「一眼レフとコンパクトカメラの中間」であると定義されてしまうため「そういう既存カテゴリとの関係性云々ではなく全く新しいカメラとして評価して欲しい」という意図のあるメーカー側としては、ブリッジカメラという呼び方よりもニューコンセプトカメラ等々の呼び方を好んだようである。これは例えば写真工業誌のメーカーコメントなどでもしばしば現れている。
 

初期にはこのようなOEMも存在した しかしこの後二社はそれぞれの道を歩むことになる

 

さて、これまでにも述べてきた通り、カメラの呼び名というか分類は様々な切り口で行うことが出来る。本書では主としてコンパクトカメラと一眼レフ、そしてそれらの中間にあるブリッジカメラという切り分けを用いることになるが、ここでもブリッジカメラの曖昧さが顔を出す。「一眼レフ対コンパクトカメラ」の売上比較は可能なのだが、ブリッジカメラはその性質上分類が難しいのである。

 

例えばAF一眼レフについて述べた際は、一眼レフとコンパクトカメラのシェア変動を論ずる際の資料として業界団体であるカメラ映像機器工業会が発表していたCIPA統計を使用してきたが、このCIPA統計での基本分類は「フォーカルプレーンシャッター」「レンズシャッター」「中大判」「その他」の四分類である。この四分類は、まずフィルム形式において大きく二つに分かれる。前二者が35mm判フィルムを使用するものであり、後二者がそれ以外のフィルムを使用するというものである。

 

そして35mm判フィルムを使用するカメラにおいては更に細分化しシャッター形式において分類しているわけだが、フォーカルプレーンシャッターはほとんどが一眼レフであるし、レンズシャッター機はほとんどがコンパクトカメラであった。もちろん形式としてはフォーカルプレーンシャッターのコンパクトカメラがないわけでもないし、レンズシャッターの一眼レフもあるのだが、それらはあまりにも少数派であり、これら統計に対しては概ね無視出来るというわけである。実質的には一眼レフとコンパクトカメラの項目なのである。

 

そしてこうした観点で見たとき、実はブリッジカメラにおいてはフォーカルプレーンシャッターの機種もレンズシャッターの機種も両方存在している。先に述べた通り「あまりにも少数派」ではあり、市場のポジションとしてもどちらかと言えばコンパクトカメラ寄りということにはなるのだが、ブリッジカメラは構造面からも「両者の中間のカメラ」であるが故に、このCIPA統計の分類法だとその狭間に吸い込まれてしまうのだ。こうした事実からも、ブリッジカメラが一筋縄ではいかない存在だということがわかるだろう。

 

このため、CIPA統計からは「一眼レフとコンパクトカメラ」の動きはわかっても、その中間にあるブリッジカメラの動きを独立して論ずることは困難になっている。とはいえ、ブリッジカメラ自体の流行がたかだか数年であったことから考えれば、統計として独立した項目になり得るはずもなかったのもまた事実である。

このように、ブリッジカメラというものは「なんとなくあの辺」という共通認識はあったとしても、その定義をきちんと定めようとすると曖昧でなかなかに難しいのである。まさしくそれが、相対的な呼び名に過ぎず、つかみ所があるようでないという「ブリッジカメラ的」な部分なのかもしれない。

 

関連記事

PCT Members

PCT Membersは、Photo & Culture, Tokyoのウェブ会員制度です。
ご登録いただくと、最新の記事更新情報・ニュースをメールマガジンでお届け、また会員限定の読者プレゼントなども実施します。
今後はさらにサービスの拡充をはかり、より魅力的でお得な内容をご提供していく予定です。

特典1「Photo & Culture, Tokyo」最新の更新情報や、ニュースなどをお届けメールマガジンのお届け
特典2書籍、写真グッズなど会員限定の読者プレゼントを実施会員限定プレゼント
今後もさらに充実したサービスを拡充予定! PCT Membersに登録する