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「ライカが似合わない場所へ行ってみた!?」[前編]

小澤太一×ライカM11 一週間レビュー
「ライカが似合わない場所へ行ってみた!?」[前編]

2022/03/28
小澤太一

ついにライカからM11が登場した。僕は今から四半世紀以上も前にライカM5を買って以来、ずっとそのレンジファインダーのフィルムライカを愛用している。そしてM型ライカがM8として初めてデジタルになった2006年以降も、数台のデジタルライカを使い続け、最近ではライカM10モノクロームが愛機でもある。話題のライカM11がどんな製品なのか気になっていた中、レポートする機会に恵まれた。

 

 

 

M型ライカが持つ「Less is More」の気持ちよさ

 

新しいライカM11を触ってみて最初に思ったことは、これまでとそっくりだな…ということ。もちろんこれは良い意味で、だ。ライカがこれまで伝統としてきたボディのデザインや大きさ、手に持った感触などでの劇的な変化はない。1954年にライカM3が出てからもうすぐ70年近く経つが、そんな長い間、基本スタイルが変わらないカメラはライカだけである。

 

そんな中でもライカM10からいくつかの変更点があったのも見逃せない。一番大きな変更点は、ベースプレートがなくなったことだろう。フィルムライカでは底についていたベースプレートを開閉してフィルムを交換してきたし、デジタルになってからもそのお作法を踏襲して、バッテリーやメモリーカードを入れる時にベースプレートを開閉するスタイルだった。それが今回のライカM11から本体に直接バッテリーやメモリーカードを入れられるようになった。これは画期的な変化であり、実際に操作してみるとわかるのだが、とても便利である。

 

またライカM10ではボディ前面にあったファンクションボタンがシャッター周りに移動になったり、その操作性も少し変更になったことで、より確実に、そして瞬時に操作しやすくなった。背面のボタンの位置も多少変更があった。MENU画面内でタッチ操作で変更できる部分も格段に増えて使いやすくなった。ライカM11を使う上で設定のほとんどが説明書を見ずとも、簡潔に操作できるのだ。必要最小限のボタン配置や直感的な操作性は使っていて不便さを感じないし、「Less is More」の気持ち良ささえ感じるのはライカだからこそだ。

 

敢えて「ライカが似合わない場所」3カ所に行ってみた

 

そんなライカを持ってどこに撮影に行こうかと悩んだ。個人的な意見だが、ライカが最も似合う撮影場所は、やはり街だと思う。仰々しくない、そしてオシャレなデザインが街にも溶け込みやすいし、人を絡めたスナップ撮影でも相手に威圧感を与えない。フルサイズのカメラがどんどん大きくなっていく中で、ライカだけは70年近くも前のサイズという、周りを見るとひとつだけ小さいままなのも重要なことである。古今東西のライカで撮られたさまざまな写真を見ても、街で撮られた写真が一番多いのではないか?
 
そこで今回は撮影に行くのに敢えて真逆の……【ライカが似合わない場所】に行ってみるのはどうかと思った。そこで3つの場所を選んでみた。

 

長野県にある標高1955mの入笠山山頂。3月とはいえ山頂付近は雪に覆われており、チェーンスパイクをつけて登った。

 

【 ①雪山へGO!  】

 

街の真逆と考えたのは大自然。そこで山か海か……と極端な二択だが、「ライカが似合うのはどちらだ?」と尋ねられたら、その答えは海と答えるだろう。僕自身もライカを持ってこれまで何度も海に行ったし、数々のライカで撮られた名作を見ても海で撮られたものは多いが、山で撮られたものは少ない(…ような気がする)。なんの根拠もないのだが、みなさんも考えてみてほしい。果たしてライカに似合うのは本当はどちらなのだ、と(笑)


ここで僕が言う<似合う>というのは、<撮りやすい、撮影シーンがイメージしやすい>というのと同義語かもしれない。そして山と海で違う部分があるとするなら、それは被写体との距離感ではないかと思った。少なくとも僕にとって、山で目に付く被写体は遠いところにあることが多い。おのずと長い焦点距離のレンズが必要になってくる。それにくらべて海は比較的近い場所から目がいく。焦点距離は短くてもなんとかなるということだ。レンズのラインアップ、レンジファインダーの特性を考えたら、そりゃ完全に海の方がライカに似合う場所と言ってもいいのではないか!

 

明るい雪山でも積極的に開放絞りで撮影できる

 

そこで今回は敢えてライカが似合わない方の…言うなればアウェーの場所ということで、山へ向かうことにした。 どうせ山に行くなら、より厳しく、よりドラマチックな方がいいだろうと、都内を朝5時の始発電車で出て、3月の残雪がまだ深い山へ向かった。何が撮れるのか?ひょっとしたらアウェーすぎてまったくうまく撮れないかも……と心配になりつつも、午前9時前には雪景色にどっぷり浸かることになった。

雪山で初めてライカM11を使ってみて、まず驚いたことがあった。それは電子シャッターだ。今回のライカM11からメカニカルシャッターだけでなく電子シャッターも採用しているので、最速1/16000秒まで使うことができるのだ。開放付近の絞りを使いたいけれど、これまでの最速1/4000秒だと泣く泣く絞らないといけなかったこともあったが、明るい条件でも積極的に開放絞りで撮影をすることができるのだ。明るい雪山で撮影しようとすると、ISO64の開放F2でも1/4000秒を超えることはとても多くて助かった。
 
ライカM11のデフォルト設定の<ハイブリッド>にしておくと、通常はこれまで同様のメカニカルシャッター、1/4000秒より高速になると自動で電子シャッターに切り替わるので便利ではあるが、電子シャッター使用時は当然シャッター音がしなくなる。液晶モニターでのライブビュー撮影では、モニターが一瞬暗くなるのでシャッターの感覚がつかみやすいが、特にレンジファインダーを見ながらの撮影時にはこの感覚がわかりにくい。『あれ?撮れているのかな…』と何度か心配になって、慌てて再生ボタンを押して確認したほどだ。
 
ところで今回、雪山に持っていったレンズでもっとも長い焦点距離は50mmだった。行く前に想像していたイメージではもっと望遠レンズが欲しいと思うシーンが出てくるかと思っていたが、夕方まで終日撮影してみたが、そう思うことはほとんどなかった。案外持っているレンズでなんとかなってしまうものだ。それどころか今回3本のレンズ(ズミクロン28mm、アポ・ズミクロン35mm、ズミルックス50mm)を持って行ったけれど、機材が驚異的に軽かった。そのメリットの方がむしろ大きかったと感じた。山歩きでは軽い機材に越したことはないのだ。

ちなみに軽くなったことは、ライカM11の特徴の一つとも言える。特に今回使用したブラックモデルはトップカバーの素材にアルミニウムを採用しているので、660gのライカM10にくらべて130gも軽量化をして530g(バッテリーを含む)になっている。ちなみにライカM11のシルバーモデルは640gである。


後編へ続く

 

手前にある盛り上がったコブにピントを合わせた。コントラストがあまりないこんなシーンでは、二重像合致式でのMFがとても操作しやすい。
ライカM11・アポ・ズミクロンM35mm F2 ASPH.・絞りF2・1/4000秒・ISO64・WB晴天

 

 

28mmで絞りF8に設定すると被写界深度も深くなり、パンフォーカス的な写真も撮りやすくなる。

ライカM11・ズミクロンM28mm F2 ASPH.・絞りF8・1/1250秒・ISO64・WB晴天

 

 

カラマツに絡まりついたサルオガセという植物。長く垂れ下がった部分にピントを合わせ、開放絞りで背景から浮かび上がらせた。
ライカM11・アポ・ズミクロンM35mm F2 ASPH.・絞りF2・1/2500秒・ISO64・WB晴天

 

 

スキー場にある圧雪車が作り出すキャタピラ跡がたまらなく美しい。ライブビューで画面隅々までしっかり確認しながら撮影した。
ライカM11・アポ・ズミクロンM35mm F2 ASPH.・絞りF2・1/10000秒・ISO64・WB晴天

 

後編へ続く

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