top スペシャルレビュー雑誌『写真』vol.3「スペル/SPELL」連動:フォクトレンダーMACRO APO-ULTRON 35mm F2 × 高橋俊充 “眼に見えなかった小宇宙”

雑誌『写真』vol.3「スペル/SPELL」連動:フォクトレンダーMACRO APO-ULTRON 35mm F2 × 高橋俊充 “眼に見えなかった小宇宙”

2023/01/26
高橋 俊充

写真の楽しさはレンズの数だけあるといっていい。焦点距離の違いはもちろん、同じ焦点距離、同じ絞り値であっても写し出す世界はそれぞれ違うもの。だから新しいレンズに出会うと、自ずと気持ちも高揚し写欲も湧いてくるものだ。
 
そして私自身、必ずと言っていいほどカメラを持ち歩いている。旅先はもちろん、仕事やちょっと食事に出かけるときにでも…。思い出や日常を切り撮るだけであればスマートフォンがあれば事足りるだろう。しかし、カメラを構えシャッターを落とし、レンズを通して写し出された絵にはそれぞれに表情があり、そこから生まれる世界は、自分でイメージを膨らませながら創りあげた特別なものだ。


フォクトレンダーのレンズは、どれも独特の個性を持ち合わせている。それこそオールドレンズをオマージュし収差を残した優しい表現のレンズから、解像力とコントラストを追求した高画質レンズまで。
 
私自身、何本ものフォクトレンダーレンズを所有している。もちろん手放したものもいくつかある。いろんな描写のレンズを持ちたいと言うより、自分の撮りたい絵に合ったレンズを使いたいと思う。お気に入りのレンズを選ぶポイントは、ピント面の写りとアウトフォーカスでのボケだ。特にボケの表情に重きを置く。ただ柔らかくキレイであればいいものではない。流れるようなボケや、輪郭が強く出るボケ。はたまた滲みがありそれが趣となるレンズなどなど…。ボケの味わい一つで大きく写真が変わるといってもいいだろう。それがまさにレンズの数だけ楽しさがあると思える所以だ。
 
Voigtlander MACRO APO-ULTRON 35mm F2 X-mount。最短撮影距離は16.3cm。マクロと謳われていることから、このレンズに関してはピント面、特に最短撮影距離付近での写りが気になるところだ。いざ使ってみるとその解像力の高さに驚く。薄い開放F2での描写は鳥肌が立ちそうなくらいシャープだ。ボケは割と硬めの印象だがクセがなく自然で、キリッと立ち上がったピント面から大きく像が崩れてゆき、何とも気持ちの良い立体感が生まれる。
 
とにかくマクロの楽しさは、被写体との距離に隔たりがなく、寄れない苦悩からも開放され、まさに自由な表現ができる。レンズを通して思い切って寄って見れば、肉眼では見えない細かいディテールが浮かび上がり、強烈なボケから生まれるそこは小宇宙。その世界をひとつのフレームに落とし込み作品として成立させるのは写真を撮る楽しさでもあるだろう。
 
日常スナップにおいても大口径標準レンズとして魅力的な存在だ。特に開放F2での表現は、決して大きなボケこそないものの、なにか絵画のように深みと柔らかさがありその描写には趣すら感じる。
 
そして、このレンズの魅力は写りだけではない。金属鏡胴の高い質感、絞りリングの心地良いクリック感に、ピントリングの滑らかなトルク。マニュアルレンズを操作することの楽しさが詰まっている。カメラ好きにとっては、傍らに置いてずっと触っていたくなるものだろう。さらに富士フイルムXボディにつけたときの佇まいはたまらない。X-Pro3をはじめ対応ボディでは、ピントリングを回すことでピントチェックができるように自動で拡大表示となる。ピントを合わせてシャッターを落とすリズムはストレスがなく、写真を撮る行為そのものも楽しいと感じられるものだ。
 
どこに出かけるにしろ、その日のレンズは一本しか持ち出さない。それはその焦点距離とともに被写体に向きあう体になるから。今日は「MACRO APO-ULTRON 35mm F2」で行こう。そう思ったら眼が35mm F2の視線になり、マクロでの絵も頭の中に浮かび上がってくる。フォクトレンダー、高性能標準マクロという特別。このレンズがあれば目の前の光景を全て、自分のイメージで描いていけそうだ。

 

■Voigtlander MACRO APO-ULTRON 35mm F2 X-mount フォトギャラリー
 
 

立ち寄ったカフェのテーブル。ドライフラワーが何気なくボトルに挿してあった。レンズを通して寄ってみれば幻想的な世界が映し出された。繊細なピントと美しいボケが、一枚の作品に仕上げてくれた。
FUJIFILM X-Pro3・絞りF2開放・1/60秒・ISO200・RAW


 

 

金沢にあるレストラン「A_RESTAURANT」。独創的な料理の数々が美しく器に盛り付けられ、目でも楽しませてくれる。思わずレンズを向けたくなるものだ。テーブルの灯に照らされた肉料理を、しずる感溢れ、表情豊かに描いてくれた。
FUJIFILM X-Pro3・絞りF2開放・1/60秒・ISO200・RAW
 

 

薄暮の金沢を歩く。浅野川にかかる中の橋と優しい表情の空が、川面に映り幻想的な光景だった。手前に伸びる緩やかなボケも自然で、いい演出になっている。
FUJIFILM X-Pro3・絞りF2開放・1/60秒・ISO1250・RAW
 

 

夜明け間近の空は、いつも冷たく透明感がある。丘陵地にある洋菓子店。葉の落ちた木の枝は一本一本細かく描かれ、手前の葉のシルエットと重なり奥行きのある美しい光景が生まれた。
FUJIFILM X-Pro3・絞りF2開放・1/240秒・ISO160・RAW


 

 

昼下がりの午後。眠そうにうつろな眼をする愛犬。窓から入る日差しを逆光気味で捉えると、薄いベールのかかった優しい表現となった。
FUJIFILM X-Pro3・絞りF2開放・1/60秒・ISO5000・RAW


 

 

日の出を迎える白山。空は赤く染まりそのシルエットが浮かび上がってくる。コントラストのいいレンズではあるが、手前の垣根の表情も階調豊かに描いてくれた。遠景をあえて開放で捉えることで、切れすぎず優しい絵にしてくれた。
FUJIFILM X-Pro3・絞りF2開放・1/2500秒・ISO160・RAW
 

 

春に芽生え、冬の訪れとともに落ちていく。枯れ葉はいつも哀愁が漂う。僅かな時間であってもその月日が表情となって現れている。葉脈一本一本が美しく描かれ、前後のボケと重なり一枚の絵画のようだ。
FUJIFILM X-Pro3・絞りF2開放・1/350秒・ISO160・RAW

 

 

 

  • Voigtlander MACRO APO-ULTRON 35mm F2 X-mount SPECS
  •  
  • ◉レンズ構成=6群9枚
    ◉最短撮影距離=約0.163m
    ◉絞り羽根=10枚
    ◉最大撮影倍率=1:2
    ◉フィルター径=Φ49mm
    ◉大きさ・重さ=Φ60.7×54.8mm・約265g
    ◉価格=93,000円(税別)
    ◉発売=2022年8月8日
    ◉メーカー=株式会社コシナ https://www.cosina.co.jp ☎0269-22-5106

 

 
■電気通信対応ボディについてのご注意
本製品には電子接点が搭載されていますが、電気通信ができるボディに制限があります。下記ボディリストをご確認ください。(2022年2月調べ)

 

*2 カメラ設定で、被写界深度表示をフィルム基準(製品に刻印されている深度目盛りと同値)に変更を推奨
*3 記載ファームウエア未満は性能が発揮できない場合や、機能の一部に制限が出る可能性があります
*4 X-T2使用の場合、ボディ設定で絞り値表示設定をTNoからFNoに変更をいただくことでFnoでの表示が可能に
*5 電気通信非対応機種で使用の場合、カメラ設定の[レンズなしレリーズ]を”許可”に設定

 

Profile

高橋俊充

1963年、石川県小松市生まれ。デザインプロダクション勤務を経て、1994年フリーに。アートディレクター、コマーシャルフォトグラファーとしての活動を主体とし、カメラメーカーのプロモーションや雑誌執筆なども行う。日々、フォト·ドキュメンタリーをテーマに写真創作に取り組み、写真展開催、写真集制作など自身写真作品を発表し続ける。

【関連リンク】

絶賛発売中の雑誌『写真』vol.3「スペル/SPELL」に、高橋さんによるVoigtlander MACRO APO-ULTRON 35mm F2  X-mount レビューを掲載しています。合わせてご覧ください。

https://www.shashin.tokyo

 

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