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「ライカが似合わない場所へ行ってみた!? 」[後編]  

小澤太一×ライカM11 一週間レビュー
「ライカが似合わない場所へ行ってみた!? 」[後編]

2022/03/28
小澤太一

今回のライカM11の1週間レビュー。敢えて真逆の……【ライカが似合わない場所】に行ってみた。

 

【 ②温室で植物を撮る 】

 

次に行こうと思ったのが温室だ。ライカはレンジファインダーの特性で、近接撮影が苦手である。温室に行って小さな花などを撮影するのに、ライカだとどうなるのか……これはかなりアウェーな撮影現場と言っていいだろう。

実は今回お借りすることができたアポ・ズミクロンM 35mm F2 ASPH.は、これまでのM型ライカの常識を大幅に超えた最短30cmでの撮影を可能にしている。そして究極の描写性能を誇るアポ・ズミクロンシリーズとして登場した。実際に今までのレンズとどう違うのだろうか?


ライカM11+アポ・ズミクロンM 35mmが生み出す圧倒的な画質力

 

まず実際に撮影した画像を家に戻ってきてからパソコンの大きな画面でチェックすると、アポ・ズミクロンM 35mm F2 ASPH.の描写力には大変驚いた。線がシャープでキレがある。拡大することでよりハッキリした描写性能の高さを感じられるのだ。ボケの美しさも見逃せないのにくわえ、色の収差も見当たらない。

また最短撮影距離を30cmまで可能にすることで画質的に無理が出てきそうなものだが、そんなところもまるで感じられない。もちろんレンジファンダーでの撮影は70cm以下は対応できない。ライブビュー撮影にするか、電子ビューファインダーのビゾフレックスを使うことで撮影することになる。しかし、今までのM型ライカでは撮れなかった新しい世界がこのレンズを使うことで表現できるようになるのは間違いないだろう。もちろんライカM11の6000万画素の高画質センサーがあってこその部分も大きいかもしれないが、それにしてもこの2つが組み合わさることで、画質的にはまさに鬼に金棒なのを強く実感した結果となった。

 

ちなみにライカM11ではRAWとJPEGのどちらも、6000万画素、3600万画素、1800万画素と3種類の記録画質を選ぶことができる。小さくすることでカメラの連写性能も変わってくるし、ファイルサイズを極力小さくしたい人もいるだろう。そういう人にとっては選択肢が増えることになったのは嬉しい変更と言える。

今回の温室での撮影にもう一つ用意したのがあった。それは1960年代頃の製品のビゾフレックスIIIとエルマー65mm F3.5(ビゾ用)のレンズだ。名前は現代の電子ビューファインダーと同じ「ビゾフレックス」なのでなんだかややこしいが、これは当時、近接撮影が苦手だったレンジファインダーのライカを一眼レフ化するアイテムとして登場したものだ。今から60年ほど前のレンズやアクセサリーも普通に使えてしまうのがもはやすごいことと言えるだろう。この昔のビゾフレックスを使うことで、アポ・ズミクロンM 35mm F2 ASPH.の30cm近接撮影よりもさらにマクロ的な撮影も楽しめた。

 

そういえば今回のライカM11からM型ライカとしては初の内蔵メモリーを採用していて、それがなんと64GBもあるのだ。新規にフォーマットしてみると、6000万画素のRAW +JPEGのフルデータでも373枚と表示が出た。6000万画素のJPEG画像だけなら、1000枚以上の写真が撮れるようだ。今回の温室撮影では1時間半くらいの撮影でおおよそ1000枚ほどの撮影だったが、もはやうっかりSDカードを忘れてしまったとしてもカメラの内蔵メモリーだけでなんとかなってしまうようだ。

 

レモン表面についた水滴や模様の高解像力と、背景の美しくやわらかいボケ味との融合は、まさにアポ・ズミクロン35mmならではだ。ライカM11・アポ・ズミクロンM35mm F2 ASPH.・絞りF2・1/180秒・ISO320・WB晴天

 

 

温室内には植物そのものでなくても、被写体として面白いものはたくさんある。湿気をまとったガラスの表面は、どことなくソフトフィルターのようだった。ライカM11・アポ・ズミクロンM35mm F2 ASPH.・絞りF2・1/360秒・ISO64・WBオート

 

 

最短撮影距離の30cmで撮影。ライカでここまでの近接撮影ができるようになる日が来るとは!このレンズを使うことで、撮影領域が大幅に広がるのは間違いない。ライカM11・アポ・ズミクロンM35mm F2 ASPH.・絞りF2・1/320秒・ISO64・WB晴天

 

 

ライカM11にビゾフレックスIIIとエルマー65mm F3.5(ビゾ用)をつけて一眼レフ化した。仰々しさも重さも、かなりのものだ。

 

 

食虫植物のウツボカズラをエルマー65mmで撮影。60年ほど前のレンズとは思えない綺麗なボケ味で、現代でも十分に通用する不思議な魅力を持った銘レンズである。ライカM11・ビゾフレックスIII・エルマー65mm F3.5・絞りF3.5・1/320秒・ISO2000・WB晴天

 

 

【 ③動物園でもトライ! 】
 

最後に行ったのは動物園だ。動物園は望遠レンズが必要だろうし、ズームレンズが便利に違いない……と思いつつも、実際にライカを持って行ったらどうなるのか?これがなかなか面白い経験だった。これまでだったら当たり前のように300mm以上の望遠レンズを使って引きつけて撮るのを、持っていったレンズで最も長い焦点距離が50mmならどう撮るのか……を動物を目前にしてあれこれ考えるだけで頭をフルに使う。それは今まであまりなかったことだった。

 

もちろん物理的に遠すぎて話にならない動物が出てくるのも事実だ。たとえば大きな敷地のかなり奥に座っている象なんて、50mmレンズではまるで歯が立たない。しかし実際に動物園に行ってみるとわかるはずだが、この50mmレンズでも撮れる(…かもしれない?)動物はわりと多くいる気がした。そしてある意味、ちょっと厳しい条件での撮影こそ、いつもとは違った写真が撮れるチャンスではないかと気がついたのだ。まさに制約があることで、できあがる写真にこれまでとは違う、強い個性が出ることになるのではないか。そしてきっと自分の新しい一面を知るきっかけになるのではないだろうか?


3GBのバッファと大容量バッテリーの恩恵を大いに感じた連写撮影

 

大きな水槽の中を縦横無尽に泳ぐペンギンやオットセイなど、動いている動物についてはかなり連写撮影をしたが、3GBのバッファがあるので、RAWでの連続撮影可能枚数が15枚、JPEGなら100枚以上の連続撮影が可能になっている。この連続撮影がたくさんできることにかなり助けられたと言ってもいいだろう。MFでピントを送りながら撮影する時と、置きピンをしつつ撮影する時を、動物の動きや習性に合わせて使い分けながら撮影しまくった。これぞ!という一枚を狙ってトライ&エラーの繰り返し……たま〜にアタリが出る、という撮影でもあった。当然、撮影枚数も一番多い1日となった。

 

この時、バッテリーが大容量になったありがたさを強く実感した。これまでよりも64%も容量がアップして1800mAhとなり、カタログスペックを見るとレンジファインダー使用時で700枚、最大約1700枚の撮影が可能と書いてある。動物園では実際にライブビュー撮影で液晶モニターもふんだんに使用しつつ、連写もかなり活用しながら1500枚ほど撮影したが、バッテリーはまだ40 %ほど残っていた。カタログスペックに偽りなしだ。これなら普通の撮影ならバッテリー交換の必要は無さそうだし、もしもバッテリーがなくなってしまうような緊急時でもUSB(Type-C)接続で充電ができるのも見逃せないポイントだ。ケータイ電話用としてモバイルバッテリーを普段から持っているような僕としては、かなり安心である。

 

 

電子シャッターを使い1/12000秒での超高速撮影。シャッター音がまったくしないので、静かな環境を壊さないのもスナップ的にはうれしい。ライカM11・ズミルックスM50mm F1.4・絞りF1.4・1/12000秒・ISO800・WB晴天

 

 

飛行機が空を通ると、ミーアキャットは一斉に上を向く。汚れたガラス越しなのと、50㎜ F1.4の浅い被写界深度の組み合わせで、どことなく滲んだような不思議な描写が面白い。ライカM11・ズミルックスM50mm F1.4・絞りF1.4・1/3000秒・ISO64・WB晴天

 

 

構図をあらかじめ決めて、キリンが狙った位置にくるのをひたすら待つ。白黒の設定とアンダー露出で、少し寂しげな雰囲気に仕上げた。ライカM11・ズミルックスM50mm F1.4・絞りF1.4・1/640秒・ISO400・白黒

 

 

 

ライカM11だからこそ撮れる写真がある!

 

新型ライカM11を持って【ライカの似合わない場所】を3カ所巡りながら撮影した結果としては、かなり大満足の写真が撮れた……いや、撮れてしまったことにまずは驚いた。アウェーの現場ならではの撮りにくさがあることで、もっと撮れない……かなり手こずるだろうと予測していたが、事前にまったくイメージできてなかった面白い写真にも出会えたりした。カメラに助けられた部分も多々あったが、想像以上の収穫と言えるだろう。まさにライカM11だからこそ撮影することができた写真たちだ。

 

そしてもうひとつ重要なこと……このライカM11は使っていて、とても楽しい時間を過ごすことができるカメラだった。わずか数日だったけれど、強く感じたことである。いつでも手にとって外に持ち出したくなってしまうのだ。そのことがいい写真を撮影するためにどれほど重要なのかは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

 

 

  • [LEICA M11 性能表]

  • 型式=レンジファインダー式デジタルシステムカメラ
  • コード=20202 ブラックペイント、20203シルバークローム
  • バッファメモリー=容量:3GB
  • 連続撮影可能枚数=15コマ(DNG™)、100コマ以上(JPEG)
  • 記録媒体=SD/SDHC/SDXCメモリーカード(UHS-II、UHS-I対応)、内蔵メモリー(64GB)
  • 材質=ブラック:マグネシウムとアルミニウムのフルメタル製、合成皮革の外装、シルバー:マグネシウムと真鍮のフルメタル製、合成皮革の外装
  • レンズマウント=ライカMバヨネットマウント方式 6ビットコード検知センサー付き
  • インターフェース=ホットシュー(ISO準拠)、ライカ ビゾフレックス2(いずれも別売)用の接点付き、USB Type-C(USB 3.1 Gen1)端子
  • 撮像素子=35mmフルサイズ裏面照射型CMOSセンサー 画素ピッチ:3.76μm
  • 総画素数=9528×6328画素(6030万画素) 
  • 画像処理エンジン=LEICA MAESTRO III
  • フィルター=RGBカラーフィルター、UV/IRフィルター、ローパスフィルターなし
  • 画像ファイル形式=DNG™(RAW、ロスレス圧縮)、DNG+JPEG、JPEG(DCF/Exif2.30準拠)
  • 記録画素数=DNG L-DNG:60.3M(9528×6328)、M-DNG:36.5M(7416×4928)、S-DNG:18.4M(5272×3498)/JPEG L-JPG:60.1M(9504×6320)、M-JPG:36.2M(7392×4896)、S-JPG:18.2M(5248×3472)/デジタルズーム機能付き:倍率は1.3倍または1.8倍(L-DNGまたはL-JPGの画像使用)
  • ファインダー=大型ブライトフレームファインダー、パララックス自動補正機能付き、倍率0.73倍、視度:−0.5dpt.(別売の視度補正レンズ(−3 〜 +3dpt. )を装着可能)
  • ピント合わせの方法=フォーカシング測距枠を使用、二重像合致式
  • 液晶モニター=タッチパネル式、2.95型・2,332,800ドット、アスペクト比:3:2、カバーガラス:ゴリラガラス5
  • シャッター方式=メカシャッター(電子制御式フォーカルプレーンシャッター)、電子シャッター
  • シャッタースピード=メカシャッター:1/4000秒〜60分、電子シャッター:1/16000〜60秒、X:1/180秒
  • ノイズリダクション機能=ON/OFFが可能
  • ドライブモード=シングル撮影、連続低速(3コマ/秒)、連続高速(4.5コマ/秒)、インターバル撮影、オートブラケット撮影
  • 測光方式・測光方法=実絞りによるTTL測光/撮像素子を使用
  • 測光モード=中央重点測光、マルチ測光、スポット測光
  • 露出モード=絞り優先AEモード(A)、マニュアル露出モード(M) 
  • 露出補正=±3EVの範囲で1/3EVステップ
  • ISO感度=オート&マニュアル:ISO 64(ベース感度)〜50000 
  • ホワイトバランス=オート、プリセット8種、フラッシュ/6600K)、グレーカード(マニュアル設定)、色温度設定(2000〜11500K)
  • Wi-Fi(無線LAN)=アプリ「Leica FOTOS」が必要(「Leica FOTOS」はApple社のApp Store™およびGoogle Playストア™からダウンロード可能)、準拠規格:IEEE 802.11a/b/g/n/ac Wave2、暗号化方式:Wi-Fi準拠 WPA™/WPA2™、アクセス方式:インフラストラクチャーモード
  • 電源=充電式リチウムイオンバッテリーライカBP-SCL7(充電式リチウムイオンポリマーバッテリー)、定格電圧:7.4V 容量:1800mAh
  • 撮影可能枚数=約700枚(距離計を使用した通常の撮影時、CIPA規格による)
  • USB充電/給電=スタンバイモード時および電源OFF時:USB充電可能、電源ON時:USB給電と間欠充電が可能
  • 大きさ=約139(幅)×80(高さ)×38.5(奥行)mm
  • 重さ=ブラック:約530g、シルバー:約640g(ともにバッテリー含む)
  • 発売時期=2022年1月21日
  • 価格=1,188,000円(税込)

 

Profile

小澤太一

1975年名古屋生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業後、河野英喜氏のアシスタントを経て独立。雑誌や広告を中心に、子どもからアーティストや女優等、幅広く人物撮影するのが活動のメイン。写真雑誌での執筆や撮影会の講師・講演など、活動の範囲は多岐に渡る。ライフワークは「世界中の子どもたちの撮影」で、年に数回は海外まで撮影に出かけ、写真展も多数開催。主な写真集は『ナウル日和』『SAHARA』など。身長156㎝ 体重39kgの小さな写真家である。公益社団法人 日本写真家協会 会員。

 

 

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