top スペシャルインタビュー笠井爾示 作品集『Stuttgart』インタビュー(前編)

笠井爾示 作品集『Stuttgart』インタビュー(前編)

2022/01/24
打林 俊

2021年11月のパリフォトで発表され、ヨーロッパの読者に好評をもって迎えられた笠井爾示の新作作品集『Stuttgart』(bookshop M)。1月25日の日本国内での発売を前に、笠井本人に思いを聞いた。

 

ふたたび家族でシュトゥットガルトに旅立つまで

今回の作品集のタイトルにもなっているシュトゥットガルトという街についてまずは伺いたいと思います。笠井さんにとって、10代の大半を過ごしたシュトゥットガルトとはどんな街だったのでしょうか。

 

当時からあまり文化・芸術が盛んな街というイメージは持っていませんでした。シュトゥットガルトというと有名なのはダイムラー・ベンツとポルシェの本社があります。そういった印象の方が強いけれど、かといってアメリカのデトロイトみたいな工業地帯なのかというとそうでもない。街を流れているネッカー川を越えない限りは工業地帯という雰囲気もないし、おだやかな地方都市という感じです。
そこに10歳から18歳まで8年暮らしていたわけですけど、ものすごく長く住んでいたという感覚が自分の中にあります。歳を重ねると8年なんてあっという間だけれど、10代のその8年はとにかく長かったなと思っているし、いまもその感覚をひきずって生きているというのはありますね。

 

一方で、この作品集のもう一つのテーマになっているのがお母様の久子さんですが、爾示さんから見て、久子さんにとってのシュトゥットガルトに住んでいた時間はどんなものだったとお考えですか。

 

とても生きやすい場所だったんじゃないでしょうか。性格にも合っているというか、うちの家系は全員そうなんですけど、周りに流されないタイプなんです。ドイツもそういうお国柄というのもあるし、すごく活き活きと生きていた時間だったんじゃないかと想像します。

 

なぜ、ふたたびご家族全員でシュトゥットガルトに行こうと思い立ったのでしょうか。

 

大前提として、家族全員で旅行をしようというのがありました。両親も歳をとってきているので、一緒にドイツに行く機会がこの先なくなっていくだろうなというのもあって、みんなでシュトゥットガルトにいって思い出に浸ろうよ、程度の動機でした(笑)
それで僕の方から提案して、実際行ったのは2019年7月末から8月の12日間だったのですが、一年以上前から話しとしては出ていました。けれど、どうせ行くなら家族全員で行こうというのを前提にしていたので、家族全員のスケジュールを合わせるのがとても大変で。リスケが重なって、ようやくこの日程に決まりました。

 

雑誌『SWITCH』の2月号に掲載された『Stuttgart』に関する記事の中で、本書の造本を手がけた町口覚さんが「ぼくは爾示に、母である久子さんと久子さんの身体には、写真家・笠井爾示としてしっかり向き合わなくてはいけないと、長い間言い続けてきた」と書いていらっしゃいますが、シュトゥットガルトにご家族で行こうというのと、お母様の写真を撮ろうというのは、最初から結びついていたのですか?

 

久子さんの写真を撮ろうと思いついたのは出発の一週間前くらいでした。母親を撮るということをずっと心の中で意識はしていたのですが、かといって「絶対撮らなくちゃ!」という使命感を持っていたわけでもなかったんですね。僕がこれまで作品にしてきたのは身近な事柄で、家族を撮るというのもその範囲内ではあったのだけれど、他方では線を引いていました。というのは、そんなに簡単に撮れるものでもないし、撮ったところでありきたりになるというか、絵が浮かんでしまうんですよね。ゴールが先に見えてしまうようなことはやりたくないし、さっきも言ったように切迫感も持っていなかったので、頭の片隅にはあるという状況が十数年続いていました。町口さんからもたしかにずっと言われていたんだけれど、ちょっと流してたところはあったかな。


それともうひとつは、写真を始めたのは日本に帰ってきてからですが、久子さんを撮るということとはまったく別に、ずっと写真でドイツに対して落とし前をつけたいというのもまた同時にあったんです。けれどそれもまた、じゃあシュトゥットガルトに帰って撮れば成立するのか? というとそうではなくて、やっぱりこれもゴールが見えちゃう。ドイツに対する落とし前としては、どこかのタイミングで一定の期間もう一度住んで撮ればいいのかな、というようなことを漠然と考えていました。

 

 

それが、2019年の旅行の際に笠井さんの中で繋がっていったのですか?


ひらめいちゃったんですね。これって、いま両方やればいいんじゃないの? って。そんなに、僕はひらめいて写真を撮るタイプじゃないんで(笑)。ただ、その時は町口さんにもそのことは言ってないし、ドイツに行くということすら言ってなかったです。

 


 →(後編)へ続く

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