表紙とスリップケースの鮮やかな黄色が印象的な『Stuttgart』。そのヒントは巻末に寄せられた文筆家の大平一枝の文章にヒントがある。だが、本写真集を編集・造本設計した造本家の町口覚によれば、最初から暖色にという思いはあったそうで、黄色に決めてから大平の文章を受け取ったという。
作品集にしてやるぞ! って意気込んで撮ったというわけではないんです。本当にふと思いついて、久子さんにも「ドイツでは写真を撮ろうと思うんだよね」くらいにしか伝えていませんでした。どういう風に撮るか、撮っているかもなにも彼女には伝えていないですし。それで、帰国して写真を見返していたら、作品集にできるかもと思い始めました。それくらい、撮っている時は淡々としていました。むしろ、何かに撮らされているという感覚でした。
正直、普段と変わらないですよ(笑)。写真は毎日撮っているし、僕の写真のテーマはずっと身近なものごとだし、それをドイツでもやっただけ、という感じです。家族で住んでいた当時のゆかりのあるところには色々行きましたが、一方では家族への様々なケアもあるし、そういう意味ではシュトゥットガルトを噛みしめる余裕もなかったですね。
さっき打林さんが「奇跡」と言っていましたけど、たしかにドイツに行って、このタイミングでしか撮れないと思ったこと自体に何かしら奇跡的なところがあるし、そのあとコロナになってしまったので、あの時リスケを重ねても強引に行っておいてよかったなというのもあります。あと半年遅かったらコロナが流行し始めて行けなかっただろうから、そもそもこの作品集も生まれなかったでしょうし。
あと、大平さんの文章のタイトル「深遠な循環」というのは僕と久子さんのドイツという土地をめぐる循環ということだけれど、僕と町口さんの循環の中でも成立しているんですよね。僕が町口さんと一緒に作品集を作ったのが20年前で(*『波珠』青幻舎、2001年)、それ以降は一緒に作品集を作ってこなかったんですが、今回の作品集は町口さんにしかできない、と思いました。そうしたらその矢先に町口さんから連絡が来たんです。僕がSNSに上げた写真を見て「ついに久子さん撮ったか!」って直感的にわかって、メッセージを送ってきた。そういう意味でも奇跡的だったんですね。
笠井はシュトゥットガルトで撮影をしている最中も、作品集にまとめられるという実感は持っていなかったという。しかし、写真で母・久子と、ドイツと向き合うこと、それを町口に任せたいという意思を伝える前に受けた町口からの連絡。そして、鮮やかな黄色。そのすべてが自然の成り行きで、あたかも最初からこうなることが決まっていたかのような佇まいを見せる『Stuttgart』。日本の写真集の歴史に残る一冊になるだろうという予感は、わたしだけが感じるものではないはずだ。
笠井爾⽰(かさい・ちかし)
1970 年⽣まれ、写真家。1996 年初個展「Tokyo Dance」(タカ・イシイギャラリー)を開催。翌年、同名の初作品集「Tokyo Dance」(新潮社・1997)を出版。以降エディトリアル、CD ジャケットやグラビア写真集を⼿がけ、⾃⾝の作品集を多数出版。主な作品集に『Danse Double』(フォトプラネット・1997)、『波珠』(⻘幻舎・2001)、『KARTE』(Noyuk・2010)、『東京の恋⼈』(⽞光社・2017)、『となりの川上さん』(⽞光社・2017)、『七菜乃と湖』(リブロアルテ・2019)、『トーキョーダイアリー』(⽞光社・2019)、『BUTTER』(⽞光社・2019)、『⽺⽔にみる光』(リブロアルテ/2020)がある。2022年1月25日に、11作目となる『Stuttgart』(bookshop M・2021)を日本国内で発売。
■笠井爾示 写真集『Stuttgart』
文章:大平一枝
編集・造本設計:町口覚
判型:縦255mm/横171mm
頁数:本文184頁
写真点数:135点
仕様:並製本函入り
定価:5,000円(税抜)
発行:bookshop M
https://bookshopm.base.ec/items/56546568
■笠井爾示 写真展 「Stuttgart」
会期:2022年1月20日(木)〜2022年2月28日(月)
会場:book obscura
住所:〒181-0001 東京都三鷹市井の頭4-21-5 #103
営業時間:12:00~19:00
定休日:火曜・水曜日
緊急事態宣言や新型コロナウイルス感染拡大防止のため、展示期間などが変更になる恐れがございます。その際はWEBサイト並びに各種SNSにてお知らせします。
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