top スペシャルレポート「浅間国際フォトフェスティバル 2022 PHOTO MIYOTA」レポート

「浅間国際フォトフェスティバル 2022 PHOTO MIYOTA」レポート

2022/07/29
市井 康延

イェレナ・ヤムチュック「ODESA, 2014-2019」

 

「浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO MIYOTA」が長野県・御代田町のMMoP(モップ)で開催中だ。会期は9月4日まで。入場料は無料(一部有料)。水曜休館(8月10日は開館)だが、屋外展示はいつでも自由に観覧可能。

 

駅前から会場まで、所々にPHOTO MIYOTAののぼり旗が立つ。


「Mirrors & Windows」のテーマのもと、国内外20名の写真家の作品が並ぶ。ここでは室内での展示とともに、広場や遊歩道などを使った屋外展示も楽しめる。敷地内に足を踏み入れると壁面には巨大な写真が並び、足元にも写真が敷き詰められている。


このテーマは1978年、ニューヨークで開かれた歴史的な展覧会「Mirrors & Windows American Photography since 1960」から引用されている。
「当時と写真の在り様が大きく変わった今、写真の役割を考えるきっかけになればと考えました」とエキシビジョンディレクターの太田睦子さんは話す。


多くの写真ファンにとって最も興味深いのは7人の写真家による「NEW GENTLEMEN 新時代の紳士の肖像」だろう。メインスポンサーであるグッチからのオーダーは、それぞれの写真家の世界観の中で、現代における男性性(マスキュリニティ)を見せてほしいというものだった。
ポートレート撮影はどの写真家も1日のみ。その人物写真に、自分の作品を加えてそれぞれの空間を構成した。
「森山さんはこうしたポートレート撮影はこれまであまりされたことがないと思います。また沢渡さんも『圧倒的に被写体は女性で、男性はほとんど撮ったことがない』と話していました」


俳優の志尊淳は硬質なストリートスナップの世界に入り込み、小説家の吉田修一は清濁併せのんだ大人の色香を身にまとっていた。
また細倉真弓は身体性が撮影テーマの一つであり、身体の動きを通して服を見せたいと考えた。
「モデルとなった森岡督行さんはのけぞったり、かがんだりと、さまざまなポーズの指示に応えてらっしゃいました」

 

グッチ特別展「NEW GENTLEMEN 新時代の紳士の肖像」

 

この展示で唯一有料入場(500円、会期中何度でも入場可能*小学生以下無料)となるのがヴィヴィアン・サッセンと石内都の展示だ。
「アートフェスはパブリックな空間であり、社会性も重要な要素の一つ。そこでジェンダーをテーマに、いまもっとも重要な女性写真家の中からこのお二人を選びました」
サッセンの「Venus & Mercury,2019」はベルサイユ宮殿の依頼で撮影したシリーズだ。マリー・アントワネットが恋人に書いた手紙を起点に、宮殿内にある男性の石像や、宮殿の近くで会った若い女性たちをモチーフに展開したイメージが連なる。
「情報量の多いこの作品群をオーソドックスに壁に並べたら見る人は消化しきれない」
そこで長いロール紙にイメージを出力し、会場の床に高低差を付けて見せている。

 

ヴィヴィアン・サッセン「Venus & Mercury,2019」

 

石内の「連夜の街 Endless Night,1981-」は初期3部作の一つで、今も撮影は継続中だ。女性の肉体が商品となった赤線地帯を被写体にしたもので、最近作も含めて展示した。
「暗く淫靡な雰囲気が濃密に漂う赤線の館を、ここにもう一度“建てたい”というのが石内さんのご希望でした。サッセンの展示空間と全く違う空間体験になるので、その対比の面白さも意図しています」

 

石内都「連夜の街 Endless Night,1981-」

 

もう一つ、今、見ておきたい作品がイェレナ・ヤムチュックの「ODESA,2014-2019」。ウクライナ出身の彼女は幼少期にアメリカに渡り、その後、冷戦下のソ連の政策で母国に戻ることができなかった。
「故郷で青春時代を過ごせなかった彼女は、若者たちを撮ることで追体験したそうです。そこには若い兵士の姿もあり、ウクライナ侵攻の今は、また別の文脈で読み解けると思います」

 

イェレナ・ヤムチュックの「ODESA,2014-2019」

 

この作品の裏にはトーマス・マイランダーの「Cyanotype,2018-2021」を置いた。2本の土管から飛び出す足や、ハート形に置かれた銃などのモチーフに交じって、ロシアの重要人物も登場する。思わず、裏にあるヤムチェックの作品を見てしまうが、そこに関連性はない、はずだ。
 
これらの作品が置かれた場所はなだらかな斜面になっていて、その向こうには浅間山が麓から一望できる。天候や光、風など、自然の変化を直に感じながらアートに浸れるのが、この催しの醍醐味でもある。

 

トーマス・マイランダー「Cyanotype,2018-2021」

 

地面一杯に足の写真が広がるエリック・ケッセルスの「My Feet,2014」はざっと数えても700点を超える。カメラやスマホを持っていれば、必ずや自分の足を撮ってみるだろう。そしてSNSにアップする。
この作品もネット空間から拾ったイメージだが、もうひとつのエリック・ケッセルスの出展作品「In almost every picture 17-Calro and Luciana,2021」もまた、市井の人が撮ったスナップや記念写真を編集したものだ。
 
さて、この「鏡と窓」からはどんな光景が広がっていくのか。自分の眼で確かめてみよう。

 

エリック・ケッセルス「My Feet,2014」

 

エリック・ケッセルス、セルジオ・スメリエリ「In almost every picture 17-Carlo and Luciana,2021」

 

この催しは国際的な写真フェスティバルとして2018年にスタートした。主催は御代田町とアマナによる実行委員会。MMoPは今後、御代田写真美術館として開館される予定で、展示のほか、アーティストインレジデンスやラボ施設なども併設していく青写真も描いている。

 

第46回木村伊兵衛写真賞を受賞した吉田志穂は浅間山を題材に新作「測量|山 survey:mountains,2022」を制作。

 

週末はこのライカバスの周辺に地元の野菜を販売するマルシェがオープン。

 

大杉隼平の「a blink in life」はライカで撮った世界の街角をバスの車内に展示。透明フィルムに出力したイメージが窓からの光に照らされ美しく映える。

 

ピクシー・リャオ「Experimental Relationship,2007-Now」。施設内ではカフェやステーキレストランなども営業中。

 

 

また今年は新たな試みとして仮想空間「amana virtual museum」を会場としたバーチャルフォトフェスティバル「PHOTO ALT(フォトオルト)」を同時開催中だ。

 

 

  • ■「浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO MIYOTA」概要
    会期:2022年7月16日(土)~9月4日(日)※水曜定休(8月10日を除く)
    時間:10:00~17:00(屋内展示は最終入場:16:30まで)
    会場: MMoP(モップ)〒389-0207 長野県北佐久郡御代田町馬瀬口1794-1
    入場料:500円(一部建物のみ有料、小学生以下無料)
    URL:https://asamaphotofes.jp/miyota/
    お問合せ:info@asamaphotofes.jp
    [主催]浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO MIYOTA実行委員会
     
    ■「浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO ALT」概要
    会期:2022年4月27日(水)~9月4日(日)
    URL:https://amana-virtual-connect.amana.jp/photoalt/
    閲覧費用:無料
    お問合せ:info@asamaphotofes.jp
    [主催]浅間国際フォトフェスティバル2022 PHOTO ALT実行委員会

 

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