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東京品川のTokyo International Galleryで荒井理行「見える/見えない/描く/描けない」が開催

2025/10/18

荒井理行「見える/見えない/描く/描けない」©Masayuki Arai

 

東京品川のTokyo International Galleryで荒井理行「見える/見えない/描く/描けない」が開催される。
 
荒井理行の制作は、キャンバスに貼られた写真の外側を想像するところから始まる。シリンジ(注射器)から注出される絵の具は、幾つもの層となって画面に定着し、やがて複合的な1枚のイメージへと変容していく。
 
タイトル「見える/見えない/描く/描けない」は、制作のプロセスを表現し、自分と社会、現実と想像、内と外といった対比される事象の境は、常に曖昧で交錯しているという荒井の考えに基づいている。
 
1枚の写真から始まる想像の連鎖は、作品の前に立つ鑑賞者へと引き継がれていく。
 

―Exhibition Statement―
「Like painting」シリーズは、インターネット上の写真を素材として用い、キャンバスに貼り付けるところから始まります。そこから、その写真に写っていないフレームの外側を想像で描き広げます。こうしたプロセスを経て、絵画の場が立ち上がります。
筆ではなく注射器で絵具を落とす描画方法は、絵具の物質性と、イリュージョンとしての絵画的性質を同時に扱うためのものです。画面に残る矩形は、剥がされた写真の痕跡であり、写真から絵画への変換過程を示しています。作品によっては、異なる写真を用いてこの行為を多層的に重ねています。
なぜ写真をキャンバスに貼るのか。それは、絵を描くことの始まりを問い直す試みであり、言い換えればその始まりを手放すことでもありました。描きたい対象やテーマが明確でなくとも、絵は生まれてきます。シュルレアリスム以来の無意識や偶然への関心は、描くことを「出会う」という行為と結びつけました。そしてそれは今、単なる再演ではなく、現代の情報環境において現実と想像を架橋する足場となっています。
この考えから生まれたのが、写真の外側を想像で描き足すことでした。そして「どこから始まるのか」という問いは、「どこで終わるのか」という問いを呼び込むことになります。
日々大量の画像や動画がアップロードされる情報環境は、私たちの身体が捉える現実体験と交錯しています。現実と想像は断片化と多層化を伴い、その境を失いつつあります。写真は現実の一部を切り取り提示しますが、画像の加工性の向上、さらに生成AIの登場はその前提を巧妙に転化しました。私たちが感じる現実感は個人によって揺らぐだけでなく、そのさらに前の段階からすでに揺らいでいます。
神経科学の分野では、人間の「境界を見分ける機能」は完全なものではなく、現実と想像の間で誤認が起きる脆弱性が常に存在することが指摘されています。
絵画においても、近くで見れば絵具という純然たる物質しか認識できず、離れるとイメージが現れる現象があります。こうした物質とイメージの間の視覚的な反転は、絵を前にしていつ起こるのでしょうか。その境界を共有することは、果たして可能なのでしょうか。
注射器による描画は任意性を制約し、絵具がいつ像になるのかを問い続けています。その生成と崩壊の同時進行のなかでは、従来の“完成”という概念も無効化されてしまいます。
自由にも思い通りにもならないこと、そのままならなさが、絵と私の関係なのです。外部の断片を取り込み、内部を通過させて再び外部へと開く、その往復は呼吸のように絵を息づかせています。

 
■展覧会情報
荒井理行「見える/見えない/描く/描けない」
会期:2025年11月1日(土)~12月20日(土)
時間:12:00〜18:00
休廊日:月曜日、火曜日(水曜日は予約制)
会場:Tokyo International Gallery
住所:東京都品川区東品川1-32-8 TERRADA Art Complex II 2F

 

■プロフィール
荒井理行(あらい・まさゆき)
インターネット上で収集した写真を基点にフレーム外を想像で描き足す絵画を制作。
注射器で絵具を落として構成される多層的な画面は、現実と仮想、偶然と意図の境界を横断し、絵画を変容し続ける開かれた場として立ち上げている。
主な個展に「LIKE PAINTINGS」(Primo Marella Gallery、ミラノ、2025)、「Imaginary Accumulation」(三越コンテンポラリー、東京、2024)、「絵画のように」(STANDING PINE、愛知、2021)など。過去には「VOCA展2014」(上野の森美術館、東京、2014)、「あいちトリエンナーレ2013」(納屋橋エリア:東陽倉庫、愛知、2013)などに参加。
 
【関連リンク】
https://tokyointernationalgallery.co.jp/ja/exhibition/visible-vanishing-drawn-unpainting-jp

展覧会概要

出展者 荒井理行
会期 2025年11月1日(土)~12月20日(土)
会場名 Tokyo International Gallery

※会期は変更や開催中止になる場合があります。各ギャラリーのWEBサイト等で最新の状況をご確認のうえ、お出かけください。

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