挨拶する写真家の瀬戸正人館長
山梨県北杜市にある清里フォトアートミュージアムが今年、開館30周年を迎えた。現在、開館記念展後期「写真と肖像 顔から風景へ」を開催している。10月13日まで。
開館記念展後期「写真と肖像 顔から風景へ」
同館では開館以来、国内外の名作を収蔵するとともに、35歳以下の写真家を対象に公募「ヤング・ポートフォリオ」(略称YP)を行ない、優れた作品を収蔵してきた。
YPを始める以前にミュージアムが収蔵した作家の1人目はロバート・フランクの初期作品を含めた約200点で、現在では1万1000点を超すコレクションを誇る。うちヤング・ポートフォリオの収蔵作品は6500余点(50ヵ国880名)を占める。こちらの第1回収蔵作家(1995年)を見ると、稲垣徳文、北野謙、小林キユウ、百瀬俊哉、野口里佳ら、現在も活躍する名前が並ぶ。
ヤング・ポートフォリオの収蔵作品は6500余点(50ヵ国880名)を占める。
キュレータ—の楠本亜紀さん
1万点を超す収蔵品から、前期は「写真の冒険 前衛から未来へ」として実験的な作品をセレクトし、後期は写真の原点である「肖像」に絞って作品を選んだ。展示構成はキュレータ—で写真批評家の楠本亜紀さんが担当した。
「日本ではまだ知られていないYP作家から大御所まで、幅広い作品がラインアップされているのがこのコレクションの特長です」と楠本さん。
同館は1995年7月9日、当時日本を代表する写真家25名による「25人の20代の写真」展でオープンした。そのオマージュと、「YP」の応募条件を加味し、35歳以下の時に撮影した写真に絞り込んだ。
「肖像写真を基点に、写真や記憶の原点を振り返り、撮ることとは何かを全体を通して考え、問いかけたかった」
同館コレクションのもう一つの柱は、600点を超すプラチナ・プリント作品だ。戦争を機に途絶えたが、アーヴィング・ペンがこの古典技法に再び光を当てた。同館でも継続的にプラチナ・プリントのワークショップを開いてきた。
エドワード・S.カーティスはアメリカ先住民たちの姿を、劣化することのないこの技法で残している。
「人や時代の記憶を撮る=残すことを考える上で、カーティスとフランクの作品は本展に必須でした」
楠本さんは事前に基本的な構想を組み上げながら、コレクションを見ていく中で、展示の構成を深めていった。
そこで「他者に触れる」「私とは誰か セルフポートレイトとジェンダー」「共同体を生きる」「ドキュメンタリー」「人と風景」の5章が立ち上がってきた。
「家族アルバムは写真技法が誕生してすぐに作られ始めており、重要な表現形態の一つです」
「共同体」の章では、現代アメリカを代表する一人、エメット・ゴーウィンと、家族の姿を赤裸々に描いた山本雅紀の写真が並ぶ。
「肖像というと顔、人の表情が欠かせないモチーフと思いがちですが、人の顔が写っていない街のスナップショットもこのカテゴリーに入るのではないかという問いかけもあります」
また一般的には別のくくりでとらえられがちなドキュメンタリーも「人と社会の関係を描き出す」肖像写真として見る。正統的な活動を行なう桑原史成、林典子とともに、スナップポートレートを得意とする星玄人、田代一倫を選んでいるのも興味深い。
(後編に続く)
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