キヤノンL1 キヤノン50ミリF2.8つき。スクリューマウントライカと何とてしても違うデザインにしたいという気持ちがあったんだろうなあ。VT Deluxと違いセルフタイマーも省略していますが、このあたりプロ用として考えられたのでしょうか。L1はボディが角ばっていて、手のひらに当たる適度な緊張感が好き。シャッター音は小さくはなけど、良い音です。
今回取り上げますキヤノンL1は中古カメラ専門店で買い求めたものではありません。カラーフィルムやプリントの現像をお願いしている拙宅近くの町カメラ店のウィンドウで発見し、うちの子として保護したのです。
本機を抱きしめて家に帰るすがら、寄り道をして、ボディを眺めていた時、強い既視感を感じました。先週取り上げたキヤノンVT Deluxの軍艦部とよく似ていたからです。
調べてみると両機は兄弟の間柄、発売時期も1957年と同じ。VT Deluxのトリガー巻き上げを上部のレバー巻き上げに換装、セルフタイマーを省略したものがL1ですね。VT Deluxの方が高価だからアニキ分ということになるのでしょうか。でも考えてみると本機にはキヤノンのフラッグシップの証である「1」の称号があるわけですよ。この当時は関係ないのでしょうか。
VT Deluxと比べてみます。見ての通りで兄弟ですね。なぜモデル名を分けたんでしょうねえ。VとLは関係ないですよね。
入手したL1のシャッター幕はステンレススチール製の後期タイプ。うちのVT Deluxは布幕ゴム引きでした。ステンレス製なら、太陽光によって発生するピンホールを防ぐことができますが、VT Deluxもシャッター音が大きかったのですが、こちらは金属音が加わり、より大きくなりました。
ファインダーはVT Deluxと同じ35と50ミリレンズ画角を得られる変倍です。筆者は例のごとくパララックスの自動補正可能な純正の外づけ純正50ミリファインダーを装着し、変倍設定を「RF」にしてボディ側のファインダーを二重像合致のみで使っています。
セレナー35mm F3.2を装着。このレンズはとてもよく写ります。外付けの35mmファインダーをつけました。パララックス自動補正も行われたりします。
フィルム巻き上げレバーは分割巻き上げも可能ですし、VT Deluxと比較しても速写性に劣るということはありません。ちなみに筆者はL1の方が早く巻き上げることができます。
フィルムカウンターはこれもVT Deluxと同じ減算式、フィルム装填したのちに、手動で枚数を設定する必要があります。シャッターダイヤルもシャッターを切りますと回転します。すでに1954年にはライカM3が登場していましたから、その後に登場したカメラなのに1軸の不回転シャッターダイヤルにできなかったのは1ペナな感じがします。
L1の巻きあげレバーです。先はちょっと痛いですね。往時はたくさん撮影しなかっただろうからたぶん文句はないんですよ。
それでもライカのような底部落とし込みフィルム装填方式ではなく裏蓋開閉式を採用したり、先に述べた外付けファインダーのパララックス補正や、ステンレススチールのシャッター幕、独自の3段変倍ファインダー、クランク式のフィルム巻き戻しを採用するなどして、ライカと差別化して利便性を打ち出そうとしていたのでしょうね。
それでも世間的にはライカに追いついていたとは見なされませんでした。きっとライカの名手、木村伊兵衛にはボロカスに言われていたんじゃないかと想像します。
巻き戻しクランクなんですが、ビルトインぽく作られています。なかなか良いアイディアだと思います。
ただ、筆者はライカと共に撮影に持ち出したりもするのですが、使用にあたっても、何ら遜色ありません。作り込みやボディの仕上げとか、動作感触も往時のライカと比肩できるほどのレベルであると言ったら、ライカユーザーさんからは石を投げられてしまうでしょうか。ごめんなさい。謝っておきます。
キヤノンのレンジファインダーカメラはどこかライカコピーの面影を引きずっていますから、スクリューマウントライカとマウントの互換性があるばかりにライカと比較されてしまうのでしょう。そんな了見の狭いことでどうするのでしょうか。
なんとモデル名がカメラの底に刻まれています。謙虚?だよなあ。理由はわかりません。ウィンドウに飾られていたらモデル名わからないですよね。
L1は後継のVI LやVI T、さらにのちの7シリーズの布石になっていることは間違いなく、機能的にも余分なものを削ぎ落としたシンプルさがウリです。
L1は端正な外観デザインが評価されたのでしょう。当時の通商産業省が制定したばかりのグッドデザイン賞の第1回をカメラとして初めて、8ミリカメラのキヤノン8Tと共に受賞しているのです。素晴らしい。VT Deluxじゃないところがミソですよね。
そういえば写真家の中藤毅彦さんが、FacebookでL1のブラックモデルを見せびらかしていました。
筆者は最近シルバーモデルの方が好きになったので、当初は気にならなかったのですが、その後にブラックモデルもなんとなく欲しいようにも思てきたわけで、これは帯状疱疹と同じように体のどこかにブラックカメラウィルスがまだ潜んでいるということかもしれません。恐ろしいですね。ワクチンはないのでしょうか。
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