小玉真由美『母型』がasterisk booksより刊行された。
小玉は、今や古典的とも言える光と影を主題に作家としての活動を開始した。光が影を、影が光をかたどる相補的な作用の中で、情熱を持って様々なバリエーションを生み出している。ただ一方で、世界を総体として把握することの途方もなさに慄くこともあるという。自らの熱量を表現するためには、それを受け入れる形式/鋳型が必要なのではないか。小玉にとってそれが書物だった。
ある日、ふと思い立って本を被写体にしてみた。
モノトーンであることも相まって抽象化された写真からは、本来の意味が徐々に失われ、代わりに別のなにかが浮かび上がってくるようだった。私は、読書とは別の方法で本自体が孕む豊かさを表現できることに気づいた。これらの作品はその過程を記録したものである。
よく見知った、馴染み深いものを手繰るときであっても、写真は、未成の概念を一瞬にして描きだすことがある。それは新たな空間や想像力の母型として機能するのだ。あたかも光と影が共鳴し、互いを生み出すかのように。
私は、被写体が何かというよりも写真となった被写体がどのように知覚されるかに関心を持っており、そこに自由を見ている。
(小玉 真由美)
書物のポートレートとも言える撮影手法から導出される数々のイメージからは撮影者の恣意的な配慮が極力排除され、見るものの想像力を掻き立てる。ただの紙の束が、ある人には流れ落ちる滝に、ある人にはスポットライトへ変貌する。認識のプラットフォームを耕し、新たな概念が育つ母型として写真が機能する瞬間をこそ、小玉は何よりも待ち望んでいる。
また2024年12月24日(火)~2025年1月13日(月)の期間、東京・ニコンサロンで同作の写真展も開催される。
▼展覧会ピックアップ
- 小玉真由美『母型』
- 発行:asterisk books
- 発行日:2024年12月2日
- 編集:森下大輔
デザイン:小玉千陽
翻訳:中田 馨- 仕様:260×200×14mm、並製本+カバー、96ページ、掲載作品モノクロ44点
エディション:300部
価格:5,000円+税
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