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「ニコンSP」

推すぜ!ニコンSシステム

ニコンレンジファインダーカメラのフラッグシップ
「ニコンSP」

2023/10/13
赤城耕一

ニコンSPは1957年9月発売。ニコンF発売の2年前になります。ニコンレンジファインダーカメラのフラッグシップ。機構やパーツはニコンFに応用された部分もあります。ニコンSPには広角レンズ、ニコンFには望遠レンズというのが報道写真家の基本アイテムと書かれている資料を読んだけど本当ですかねえ。

 

さてと、先週は無事にペンタックス スーパーAを見つけ出したので、連載はこれでおしまいでいいのかなと思ったら続けてなんかヤレという指令が来まして。

 

さて、どうするかなあと考えていたのですが、今回はライカに対して反骨精神の塊みたいなカメラ、ニコンSPを取り上げることにします。期間限定の「推すぜニコンSシステム」ですかね。
 

日本のカメラメーカーは、一眼レフを主力商品とする前はライカに立ち向かうのだと頑張っていた時代があります。えらく昔の話であります。いや、頑張って一生懸命コピーしていたのかもしれません。

 


ゾナータイプの50mmレンズの開放F値の限界はF1.5と言われていましたが、ニコンはこれをF1.4にしました。これを見たツァイスが怒ったとか怒らないとかいう話もあり。開放ではボワボワですけどね、筆者はそれよりも大口径ゾナータイプの宿命である絞りによる焦点移動が気になります。

 

とくにスクリューマウント時代のライカを模したカメラは、キヤノンやミノルタをはじめ、レオタックスとかニッカとかヤシカなどのメーカーが廉価なコピーライカを作っていました。とはいえ当時はこうしたコピーでも高価だったわけです。昨今もカメラは高価なのですが、それとは少し異なる事情もありました。
 

いま、円安だと騒いでいますが、ドル円が固定相場だった時代って長かったですよね。筆者が最初に海外に行った時は1ドル=240円くらいでした。その前は360円時代が長かったですね。だから日本製のカメラはきわめて強力な輸出産業品でありました。
 

非常によく調整されたコピーライカは本家ライカと比較しても、さほど遜色ないくらいの動作感触があります。これは驚きますが、みな1万円で購入したコピーライカを3万円かけてメンテナンスしないだけで、実際にはパクリとはいえとてもよくできているんですよね。

 


交換レンズの焦点距離はcm表示ですからこんな感じになります。設定したレンズの焦点距離をダイヤルで合わせると、フレームが出現、いや増えてゆく感じになります。


でも、ライカM3が1954年に登場した時は、こりゃかなわんということで、日本のカメラメーカーは一眼レフの開発に転換することになります。
 

それでも、ライカM3に対抗してすっごく頑張ったレンジファインダーカメラがありました。これがニコンSPです。なんとしてもM3を超えるのだという気概があったのかもしれません。
 

ユニークなのは広角側と標準/望遠側に個別のファインダーが用意されたこと。28/35ミリと50、85、105、135ミリまでのファインダーが別になっています。夫婦ファインダーとかユニバーサルファインダーと呼ばれたのは有名です。
 

たくさんのフレームを内蔵することで“万能性” を狙ったわけですが、これ、ニコンの思惑、いや作戦があるわけです。内蔵ファインダーにレンズのフレームをたくさん入れれば、その数だけレンズが売れるんじゃないかという発想によるものに違いありません。
 

ライカM3の内蔵フレームは50、90、135だけだからそれと比較するとニコンSPはすごいわけですよ。

 

軍艦部であります。シャッター位置はニコンFと同じ、いやスクリューマウントライカと同じ位置です。つまりシャッター形式はライツから頂戴したというわけです。初期型のSPなんで巻き上げレバーが少々短いんです。

 

ただしフレームはレンズを装着して自動出現するライカM3とは異なり、巻き戻しクランク下のダイヤルを装着レンズの焦点距離に任意に合わせて設定しなければなりません。ところがフレームが単独で見えるのは夫婦ファインダーのデフォルト状態である35/50ミリのみとなります。
 

先に述べたようにそれよりも長焦点レンズのフレームも内蔵していますが、単独表示は行われませんので、長焦点レンズになればなるほどフレーム表示が増えていきます。
 

驚いてしまうのは各フレームはそれぞれ異なる色がつき、長焦点の135mmに合わせるとファインダー覗くとファインダーはものすごく賑やかになります。その昔、「タイムトンネル」という米国のSFドラマがありましたが、このフレームをみるたびに思い出すんですよねえ。

 


マウント部です。コンタックスと同じ形式で、広角レンズなら互換性があります。脱着の際に約束事が多く、レンズの脱着はレンズもボディもインフに設定して行うのが基本です。

 

それでもこのメカニズムの知恵ってすごくて、夜中にニコンSPをいじくり、ファインダーを覗きながらフレームを変えるだけでご飯3杯はイケますね。だから肥るんだけどね。
 

距離計周囲はぼんやりとしているし、このためにM3みたいに上下像合致的なフォーカシングができないのは不満なんですが、いちおうニコンSシリーズでは唯一、パララックスが自動調整されます。これだけはえらいですね、ファインダー倍率も約等倍を確保していました。
 

ただねレンジファインダーカメラが強みをみせる広角の28と35の内蔵ファインダーは倍率が小さくて、フォーカシングもできませんぜ。このあたりにどうもSP人気が上がらなかった理由はないですか?そうでもない?

 


フォーカシングギアです。筆者よりも年配者は、みんなこのギアでフォーカシングしたがるのですが重たいですね。あとこのギザギザで指の皮が剥けそうになります。柔肌の方はご使用にならず、鏡胴を直接回した方がいいかと。

 

装着フードでファインダーが思い切りケラれるものが多いのも困りますね。とくに広角系のフードを見つけづらいのは、売れなかったんでしょうね。いまでは珍品です。
 

ニコンSPのシャッターの構造はライカで、レンズマウントとファインダーはコンタックスという良いとこどり、折衷したカメラということになります。コンタックスのシャッター形式は信頼できぬという判断だったのか。でもコンタックス形式のマウントって、着脱にあたり約束事が多くて、えらく面倒じゃないですか。下手すると、レンズ外れなくなったりしますからね。当時のみなさんは文句をいわずに使用していたんですかねえ。

 


シャッター幕は布であります。古いジッポオイルライターに火をつけた時の音に似ています。後にチタン幕になりますが、こちらは少々カン高い感じです。

シャッターは初期は布幕、後期はチタン幕になります。どなたかがカメラ雑誌で「ニコンSPのシャッター音はささやくようだ」とか書いていましたが、嘘つけ。とくに後期モデルはチタン幕のせいかパシン、パシンと賑やかな音になります。
 

ボディの自重は軽めなのはありがたく携行もとてもラクですが、真鍮のカバーの肉厚が薄いので、軽くコツンとブツけただけで、凹んだりします。困りますね。

 


2005年に復刻したSPです。ブラックオンリーでした。ニッコール35mmF1.8で販売されましたが、みなさんあの小さな35mmファインダーを見てご満足いただけたのでしょうか。復刻にあたり特別な記念はなかったと思いますが、ニコンS3のミレニアムボディのパーツを応用せねばと考えたのかもしれません。筆者としては布幕シャッターというのは不満です。商売として結果的にはどうだったんでしょうね。

 

木村伊兵衛も「あんなの(ニコンSP)が何万円もする」と、辛口で評価していました。ま、ライカと比べちゃかわいそうですが、ニコンとか富士フイルムがお金だして、ヨーロッパ特派に行ったのを忘れたんでしょうか。いい時代ですね。
 

いま、ライカMシリーズと比較すると、ニコンSシリーズは人気がありません。筆者が最初のニコンSPを入手したのは35年くらい前、この時も周りからいまさらこんなものが欲しいのかよ。と言われましたけどね、往時の頑張っていたニコン、いや日本光学工業の姿に敬意を表したくなったわけです。ええ、これも嘘です、美しかったからですよ。

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