top スペシャルインタビュー「これからのフィルム写真はどうなる?!」30周年を迎えたロモグラフィー創設者に、赤城耕一が突撃インタビュー!

「これからのフィルム写真はどうなる?!」30周年を迎えたロモグラフィー創設者に、赤城耕一が突撃インタビュー!

2023/08/24
赤城耕一
2023年で30周年を迎えたLomography(ロモグラフィー)。本社をオーストリア・ウィーンに構えるロモグラフィーは日本のロモグラフィー・ジャパンをはじめ世界各国に拠点を据えている。来日された創設者のサリー・ビバウィーさん(右)、マティアス・フィーグルさん(左)に、赤城耕一が話を伺った。
——フィルム愛好家でLomography(ロモグラフィー)を知らない人はいないものの、デジタル一辺倒の今の時代にいて、フィルムの重要性や役割についてどのようにお考えなのでしょうか?

 

マティアス・フィーグル:

まず、デジタルもフィルムもそれぞれひとつの表現媒体だといえます。写真が登場する以前は絵画で記録していたわけですが、写真が生まれた後も絵画はなくなりませんでしたよね。それと同様に、フィルムの後にデジタルが生まれた後も、ひとつの表現媒体としてフィルムは確実に残っています。ディテールまで書き留めることが絵画のひとつの役割だったものが、現実をそのまま写せる写真に置き換わったことで、抽象絵画やシュルレアリスムなど自己表現として絵画が描かれるようになりました。そのような現象は写真の中でも起きていて、今の時代デジタルはドキュメント(記録)に適しているように思います。フィルムは多重露光やコーヒー現像、色を変えてみたりなど自由な表現ができる媒体として存在しています。プロのフォトグラファーでも一定数のフィルムユーザーがいます。

 

——私が写真を始めた頃はもちろんフィルムしかなかったわけです。現在ロモグラフィーのフィルムを使っているユーザー層は若い世代が多いように感じます。逆に僕らの世代はデジタルに移行しちゃって。若い世代はどのように受け入れていると感じますか?
 

マティアス:

生まれた時からデジタルがある環境で育った世代にとって、デジタルは日常的なものです。逆にフィルムが彼らにとって新鮮で、面白い経験なのでしょう。それに、カメラの露出や光の入り方といった写真の基礎を知るにはアナログがベストだと思っています。

 

Diana F+「Black Jack Edition」「CMYK Edition」

ロモグラフィーから高い人気を博す「Diana F+」シリーズより、オールブラックでシックな「Black Jack Edition」とカラフルな「CMYK Edition」が再販された。

販売価格=10,980円(税込)

 

——今回こうして日本でお会いしていますが、ここに来るまでに何ヵ国かのロモグラフィーを周られてきたじゃないですか。フィルムや銀塩写真について、世代だけではなく国ごとの受け入れ方の違いはあるのでしょうか。

 

マティアス:

ロモグラフィーは「ゴールデンルール 」というモットーを掲げており、“Don’t Think, Just Shoot”(考えるな、とにかく撮れ!)に基づいて「写真を撮る」ことの楽しさを提案しています。もちろん細かい違いは多少はありますが、世界中どこでもこのゴールデンルールが受け入れられています。特にインドネシアのフィルムユーザーは情熱的で新しいものを作ったりもしています。コレクターは世界中にいる印象です。

 

 

——色々なフィルムを手に入れることができるものの、現像やプリント市場が縮小気味じゃないですか。日本だと東京ならまだしも、地方だとDPE店もどんどんなくなって。フィルムを薦めようにも入口があっても出口がないような状況です。私は自分に合った現像所を選んで見つけることも、アナログの楽しみのひとつだと思っているんです。できる限りフィルムを使ってもらうためにも、現像のための案内も必要じゃないですか。

 

マティアス:

ベトナムやインドネシアなどの東南アジアの国々やニューヨークでは、何もなかったところにもミニラボが作られる動きがあります。ただフィルムの現像やプリントをするだけではなく、人々が集まる交流の場になっているんです。その辺りでは現像に関して困ることがないという見方をしています。

 

サリー・ビバウィー:

ウィーンにあるロモグラフィー本社にはミニラボが併設しているので、その場で現像することが可能です。世界中の様子を見るに、現像に関してまだ危険視はしていないですね。フィルムスキャンに関しても、デジタライズのためのフォーマットを3種類用意しており、新しい形の現像キットも考案しているところです。

 

——近年出された、スマートフォンで撮影できるフィルムスキャンを使っている人が私のまわりにもけっこういますよ。アナログで撮影してもSNSにアップするにはデジタルにしないといけないから、融合感がウケているのかもしれない。

 

サリー:

「DigitaLIZA」シリーズはコンスタントに売れてますね。

 

DigitaLIZA Max

スマートフォンやデジタルカメラを使ったスキャンができるフィルムスキャナー。内蔵のバックライトパネルを使用、モジュラー式で高画質なフィルムスキャンが手軽に行える。対応フィルムは35mmと120フィルム。127mmフィルムマスクや35mmパノラマディフューザーも付属。さらに、多重露光やスプロケット穴まで露光した特殊フォーマットも手軽にスキャンできる。

 

——ここまでくると欲が出るんですが(笑)、印画紙の開発予定はないんですか? 写真の本質的にも、最終的にはプリントだとも思うのですが。

 

サリー:

印画紙を生産するメーカーはたくさんあって供給も足りているので、今のところその計画はありませんね。

 

——印画紙以上に、コダックも富士フイルムもフィルムの生産終了や価格高騰が止まらなくて…。これ以上値上がりしないでほしいですよ。


サリー:

富士フイルムのネオパン100アクロスが復活しましたが、製造はイギリスのハーマン・テクノロジー社が請け負っていますね。一度生産をやめてしまうと難しいですよね。値上がりの予想はずっと前からしていました。ロモグラフィーのカラーネガは値上げせざるを得ませんでしたが、モノクロシリーズは自社製品なのでどうにか価格を上げないよう頑張っているところです。サプライヤーといろいろ交渉はしているのですが…。

 

——今ロモグラフィーが出されているフィルムのラインアップを見ると、カラーとモノクロ、インスタント。サイズは35mmと120(ブローニー)、それと110ですか。私が若い頃110フィルムのモノクロって製造されていなかったので大規模なプロジェクトですよね。喜んでいる方がとても多いと思います。それと最近出た「LomoChrome Color '92(ロモクロームカラー ’92)」はすぐ品切れになったそうですね。

 

LomoChrome Color '92

35mm・カラーネガフィルム・ISO400・DXコードなし・C-41現像・36枚撮り

価格=1,680円(税込)

 

サリー:

LomoChromeシリーズではあるんですが、Purpleなどのカラーシフトとは異なる、一般的なISO400のネガフィルムでやや青みがかった発色が特徴的です。「’92」という年号は、ロモグラフィーが誕生した1992年がもとになっています。新しい時代の始まりの雰囲気とその色を再現するという意味でも名付けました。

 

——カラーシフトフィルムのパープル(LomoChrome Purple)は最近パッケージが変わりましたよね。パッケージが変わると、バージョンも変わっているのですか?

 

マティアス:

はい。パープルは今年、メトロポリスは乳剤が変わった時に合わせてパッケージを変えました。

 

——そもそもどうしてこんなにカラーシフトフィルムの種類が豊富なんですか?

 

サリー:

フィルムが新鮮な若い世代に自由な写りを楽しんでもらいたいという想いもありますし、「とにかく実験してみる」というコンセプトに沿って、シリーズによるそれぞれの撮り方や、そこにさらにフィルターを付けてみたらどういう色になるのかなど、一般的なフィルムではできないような撮り方がクリエイティブに繋がるという立ち位置です。

 

 

——カラーシフトのフィルムなんて特に、ラボにある程度の知識がないと色のポテンシャルが出しきれないと思うんです。ロモグラフィージャパンにもミニラボをぜひ…(笑)。

 

サリー:

会社で新しいフィルムを作るとリリースを出してますし、ウェブサイトでミニラボのリストを見ることもできます。また他の店舗ではロモグラフィーのフィルムに合ったラボの案内もしています。ロモクロームシリーズの知識があるラボもあるものの、会社としてできることはもう少しあるかもしれませんね。

 

——現像所によってはせっかくのロモクロームの色を補正して、ノーマルに戻してしまうところもあると思うんです。だからこそロモグラフィーのコンセプトを活かせるラボの必要性を感じるわけなんですが。

 

マティアス:

現像所によって色が変わることは、逆に面白いことかもしれません。これという色目標ではなくて、お店や気持ちによって変わっていい。さまざまな色や写りが楽しめることが、ロモクロームの楽しみ方です。

 

サリー:

メーカーとして、今後はフィルムやカメラのみならず現像製品の計画やアイデアもたくさんあります。4×5などの大判フィルムは高価なこともあり、Instax Wideフィルムが使えるインスタントバック「LomoGraflok 4×5」は美術大学などでも愛用され、とても成功したプロダクトです。

 

LomoGraflok 4x5

世界初の4x5大判カメラでInstax Wideフィルムが使えるインスタントバック。

価格=19,980円(税込)

 

——ロモグラフィーってフィルムカメラも多様で、これだけの種類を要するのはすごいこと。売れ行きはいかがですか?

 

サリー:

マーケットシェアそのものは小さいものの、売れ行きは安定しています。市場を拡げるというよりも、我々が焦点を当てているのは小さなマーケットをなくさないことです。日本ではオンラインショップ以外にもヨドバシカメラやLOFTで買うことができると思います。

 

——デザイナーやエンジニアは何名ほどいらっしゃるんですか?

 

サリー:

レンズ設計やカメラのプロダクトデザインを含むと10名程度ですが、最終的に製品本体を作っているのは5~6名です。

 

——率直な疑問なんですが、商売としてカメラの種類が少ない方が儲けが出るんじゃないですか?

 

サリー:

カメラの種類によってそれぞれ写りが異なるので、表現の選択肢としてたくさんのカメラを提供したいと考えています。我々の代表的な一台である「LC-A」は30年前に生まれたカメラですが、アニバーサリーモデルを限定販売中です。


——「ロモグラフィー」=「LC-A」と言える一台ですもんね。私は17mmのレンズが付いた「LC-A Wide」にいちばん興味があります。

 

サリー:

カメラそれぞれにストーリーがあるんです。LC-Aだったらロモグラフィー創設という30年の歴史があり、魚眼レンズが発明されたのが1906年、100年以上昔の魚眼レンズの楽しさを凝縮させた「Fisheye No. 2 35mm Camera」だったり。35mmフィルムで最大144フレームのショートムービーが撮影できる「LomoKinoムービーカメラ」は映画からヒントを得ています。

 

マティアス:

ただのカメラではなく、それぞれ歴史やストーリーが入ったカメラを楽しんでいただきたい。『千夜一夜物語』のように、話としては異なるものが最後にすべて繋がるようなイメージです。

 

 

——ロモグラフィーはフィルムからアナログカメラ、デジタルデバイスまでフィールドが本当に広いですよね。

 

マティアス:

どのメーカーも年に一度は新製品を発表し、以前のラインをディスコンにする時代ですが、ロモグラフィーは流行と関係なく、古き良きものを保ちながら発表し続けていきたいんです。

 

サリー:

カメラやフィルムだけではなく、文化や考え方などこの世にあるものすべて何もかもが、一度なくなってしまうと取り戻すことは難しいと思います。未来志向な時代ですが「古いものを大切にする」トレンドも感じます。まさにロモグラフィーは古いものを存続しながら、知識も残し伝えることができるような製品を作っていきたいのです。


マティアス:

詳しいことはまだ言えないのですが、実は2023年半ばから来年にかけて、忘れかけられた知識を復活させるような新しい製品をいくつか発表する予定です。フィルムかカメラか、レンズか周辺機器か、皆さんぜひ想像を膨らませてください(笑)。

 

 

日本で唯一のロモグラフィー直営店「Lomography+」

所在地:〒101-0052 東京都千代田区神田小川町3-16-1 共和神田ビル2階

営業時間:12:00〜18:00
最寄駅:地下鉄「神保町駅」A5出口から徒歩約5分、JR「御茶ノ水駅」御茶ノ水橋口から徒歩約10分

https://www.lomography.jp

 

LomoApparat Chiyoda Edition

世界で唯一のロモグラフィー直営店が2013年から拠点を置く千代田区にちなんでデザインされた。

35mm・焦点距離21mm・絞りF10・シャッタースピード1/100秒〜バルブ・フラッシュとカラーフィルター付き

販売価格=13,800円(税込)

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