印刷されたイメージにブラウン管画像の走査線が覆っている。それ風に加工しているのか、あるいはブラウン管画像を複写しているのか。そして写されているのは、平成に入って間もない頃か、あるいは昭和の終わり頃か。ページを捲りながら見ていると、どうも違うようだ。TOKYO2020のポスターや、新しく作られた国立競技場が写っている。表紙を見る。タイトルに「2021」の文字がある。どうやら令和に撮影されたものらしい。
使用機材はSONY Ruvi CCD-CR1という機種で、別名を電子スチルカメラ。内蔵された磁気テープに保存するとのこと。1998年に発売されたカメラだ。
走査線の入った画像を見ると、懐かしさも多少はあるが、なぜか見てはならない何かが写っているような感じを覚える。むろん、思い込みに過ぎない。あるいはデイヴィッド・クローンバーグ監督の映画『ヴィデオドローム』の影響だろうか。ローカルテレビ局の社長である男が、たまたま受信した映像に映されていたのは、暴力的な場面であった。その映像を求めて男は非現実な世界に迷い込み、自らがテレビと一体化する幻覚まで体験してしまう。
走査線の映像にはどこか幻覚作用を催す。作者も前書きで「走査線と呼ばれるその軌跡の残像を脳が補完することで、一枚の映像が浮かびあがってくる」と書いている。走査線は余白を生み出し、それによってただ像を見るだけでなく、視覚が勝手に隙間を埋めようと無意識に補填する。線と線の間から何かが抜けでてきてもおかしくはない。むしろ、間からしみ出す何かを求めている。
『東京残像2021』には映像の不確かさと視覚の不安定さが、見るものに心地良さを与えてくれる。
- 石澤寛『東京残像2021』
- 仕様:A5変型 96ページ
- 価格:1500円(税込)
【関連リンク】
http://honba.fotori.net/portfolio/東京残像-2021-sceneries-on-the-tube-no-37-hiroshi-ishizawa
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