タイトルが示す通り『TOKYO SUPERDEEP BOREHOLE』(Zen foto刊)は、東京でスナップした作品集である。エリックが得意とする白昼でストロボの光をあてた写真群はマスクをつけた人が多く占めており、コロナ禍での撮影であることが想像される。だが作者はそうした時代背景についてよりも、東京という街に向き合う自分とそのアイデンティティに関心があるようだ。
あとがきで述べているが、エリックは東京を離れ、岡山県を生活拠点としている。よそ者というだけでも警戒される地域で、しかも「外人」である彼は努力して近隣の人との関係を築き、畑の手伝いや鹿の猟にも連れていってもらい、鹿の捌き方も教わった。自然の中で食物を獲得する生活をする中で彼は、「食料調達以外の仕事は人生のオプション」だと気付く。
そんな体験を経て東京を見たとき、ここにいる人々が与えられた常識の中で生きていることを感じ取った。
「人々が無自覚に内包して自分に当てがっている今日の日本人の共同幻想(日本人はこれこれなのだという概念)は、都会、なかんずく東京では先鋭的に現れている」
この直感は間違いではないし、ここで共同幻想という言葉が出てきたことに関心を惹いた。
吉本隆明の代表的著作に『共同幻想論』がある。この難解な書物についてここで詳細に述べるには字数が限られているので、序文から一部を引用する。
「国家も共同の幻想である。風俗や宗教や法もまた共同の幻想である。(略)さまざまな共同の幻想は、宗教的な習俗や倫理的な習俗として存在しながら、ひとつの中心に凝集していったにちがいない。」
東京と距離を置き、物心両面から離れた視点で見つめた都市は、虚像でしかないことを写真行為で会得したエリックは、吉本隆明の思想とほぼ同じ地点に到達したようである。
- ERIC『TOKYO SUPERDEEP BOREHOLE』
- 判型:200×200mm
- ページ数:120ページ、110点
- 装丁:ハードカバー
- 発行:2022年
- 価格:4,950円(税込)
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