吉田亮人『The Dialogue of Two』がThree Booksより刊行された。
- 「夢じゃねえ、ほんとに大輝が帰ってきたとよ」
写真家・吉田亮人のいとこの大輝が突然の自死によってこの世を去った後、大輝と共に暮らしていた祖母が88歳で亡くなるまでの約三年を追った物語「The Dialogue of Two」は、最愛の人間を失った者が死者とどのように向き合い、対話しながら生きていったのかを、 吉田の祖母が生前、何度も何度も語って聞かせた「ある話」を軸に編まれている。
この物語の前日譚である作品「The Absence of Two」は祖母と大輝の日常とそれが終わりを迎えるまでを描き、2017年のKYOTOGRAPHIE国際写真フェスティバルで発表され、国内外で大きな話題となった。本書は2022年に限定43部のアーティストエディションとして刊行され、Image Vevey Book Award 2023/24 (スイス)の最終選考にも選ばれながら、瞬く間に完売。Three Books版として装いを新たに発売された。
本書をひとことであらわすと、傑作である。
九州は宮崎県国富町。
この小さな田舎町に当時83歳になる私の祖母と23歳になるいとこの大輝が共に生きていました。
大輝は幼少時より祖母と同じ家、同じ部屋で暮らし、大切に育てられてきました。 青年へと成長してからも祖母と離れることなく、2人の暮らしは続きました。
そんな2人の小さな日常を私は家族として、写真家として描写し続けました。
そしてこのストーリーは、そう遠くない将来訪れるであろう祖母の死をもって終わりを迎えるはずでした。 しかし、それはある日突然、本当に何の前触れもなくやってきたのでした。 大輝はその生涯を自ら閉じたのです。23歳でした。
彼のあまりにも早すぎる死を前に私たちに残ったのは、言いようのない悲しみと悔恨の思いでした。
しかし、本当の悲しみは、最愛の孫を失い、一人残された祖母を見た時でした。
「もう生きてる意味なんかねえ。はよ、向こうに行きてえ」
毎日のようにそう呟く祖母の喪失感と絶望感は筆舌に尽くし難いものだったに違いありません。 私はその姿にカメラを向けて、悲しみを打ち払うようにシャッターを切り続けることしかできませんでした。 そんな祖母が窓辺に立ちすくんで、ぼうっと外を眺めていることが多くなってきたのはいつ頃からだったでしょう。
同時に私に何度も語って聞かせることになる「ある話」が出てきたのもこの頃でした。
それは「大輝が昨晩帰ってきた」というものでした。 まるで本当にあった出来事のように、その経緯を詳細まで語り、最後に必ず「夢じゃな い。大輝はここに帰ってきた。確かにここに」と言って終わるこの話を私は何度聞いたことでしょう。 その度に私の胸中は言葉にできない複雑な想いでいっぱいになるのでした。
そうやって大輝が不在となってから約2年半後の2016年11月18日。 祖母は88年の生涯を静かに閉じました。
最愛の人間を失ってからもその存在を誰よりも側に感じ続けた祖母。
その悲しみの深さと、祖母と大輝双方に流れる愛の深さを、手元に残された幾葉もの写真を手繰り寄せ、紡いでみようと思います。(あとがきより)
吉田亮人『The Dialogue of Two』
出版社:Three Books
判型:249 × 172 mm
頁数:206頁
製本:ハードカバー
発行年:2025
言語:英語、日本語
価格:7,150円(税込)
【関連リンク】
https://akihito-yoshida-jp.myportfolio.com/the-dialogue-of-two-1
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